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93話
しおりを挟む「さて……クレア。お前に会わせたい人がいる」
馬車を見送った私に陛下はそう言った。
「会わせたい人ですか?どなたです?」
と言う私に、
「内緒だ」
と笑って歩き始めた陛下の後を、私は、
「へ?待って下さい!教えて下さっても良いじゃありませんか!」
と慌てて追いかけた。
王宮の中でも少しこじんまりとした応接室の前に到着した私達。
陛下は何かを企んでいる様な表情で私に扉を指し示す。
私が陛下に促されるまま、応接室の扉を開くと……
「クレア!!」
「女将さん?!」
私の恩人であるタリス村の宿屋の女将さんがそこに居たのだった。
「お前が会いたいんじゃないかと思って」
と陛下はサプライズが成功した事が嬉しいのか、ニコニコしている。
しかし、女将さんの隣に座っていた大きな男性が立つと、ムッとしたように、
「……呼んでいない者もいる様だが」
と急に不機嫌そうにそう言った。
「サム!!久しぶりね」
私はその男性に声を掛けると、
「クレア……無事で良かった」
と言ってサムは私の方に駆け寄ろうとする。
しかし、陛下はその間に立ち塞がると、
「馴れ馴れしく名を呼ぶな!この国の王妃だぞ?!」
とサムの視界から私を遮った。
サムは不服そうに、
「さっき女将さんも『クレア』って呼んだのに……」
と呟いた。
改めて椅子に腰掛けた二人は目の前の陛下に緊張しつつも、
「クレア……じゃなかった、王妃様。元気そうで安心しました」
と女将さんが言えば、
「あれからずっと心配してたんだ」
とサムも私に言う。だがしかし、
「お前は黙れ。勝手に喋るな。なんなら、クレアを視界に入れるな」
と陛下はサムにだけ冷たく言った。
「女将さん、クレアで良いですよ。それに口調も……今まで通りの方が安心します」
「そ、そうかい?じゃあ、昔と同じ様にさせて貰うよ」
「女将さんも……サムも……お元気そうで。ご主人はどうですか?」
「あぁ。私達は大丈夫。みーんな元気だよ。クレアこそ、小さな赤ん坊を連れての旅は大変だったろう?」
「大変でしたが、道中も親切な方に助けていただきましたから」
私はそう言いながら、マチルダさんの事を思い出していた。
「クレア……」
とサムが口を開くと陛下が彼を睨むので、サムはすっかり無口になってしまった。
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