貴方の子どもじゃありません

初瀬 叶

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101話

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私は思わず目を瞑ってしまっていたが、誰かの腕が私を包みこんでいる。
俄に周りが騒がしくなり、その中にロータス様の声が交じる。

すると私の頭上から

「ダイジョウブ?モウシンパイナイヨ」
と優しい声が聞こえる。
私を包みこんでいた腕の力が緩まり、私はその声の主を仰ぎ見た。

浅黒い顔に赤い瞳が私を心配そうに見る。

「ケガハナイ?」
黙っている私にちゃんと伝わるようにゆっくりと喋る彼に、私は、

「サリム?エエ、ワタシハ ダイジョウブ」
と答えた。


直ぐに私にマーサが駆け寄り、

「クレア様!ご無事ですか!」
と私の姿を確認するように上から下まで見た後、

「ありがとうございました!!クレア様を助けていただいて!!」
とサリムに深々と頭を下げた。
サリムにはマーサの言葉は通じていないだろうが礼を述べている事は理解できた様で、マーサの肩をポンポンと軽く叩いた。きっと『頭を上げて』と言いたいのだろう。

私もサリムの腕の中から少し離れて、彼に改めて向き合うと、

「マモッテクレタノネ?アリガトウ」
と感謝を伝えた。
サリムは笑顔で緩く頭を横に振る。

「ブジデヨカッタ」
と言う彼は優しく微笑んでいた。

あの時、私を襲おうとした女性はロータス様に取り押さえられている。炊き出しを求める人々も、バザーの品物を買いに訪れた人達も騒然としながら、その様子を見守っていた。

院長も慌てた様子で私の方へ駆けて来ると、

「妃陛下、こちらへ。安全な場所へ移りましょう」
と私にここからの退出を促した。バザーを台無しにしてしまった思いと、半ばでここを離れる事に悔しい思いを抱きながら、私はもう一度サリムにお礼を言うと、マーサを伴って院長の後を付いて行った。


結局、私はそのまま王宮の馬車に乗り、教会を後にした。

その時の事をマーサは、

「寿命が縮まる思いでした」
と振り返った。

マーサは私とサリムの後を付いてきていたのだが、小石を踏んで足首を少し捻ったらしい。
思わず痛みに蹲り、足の具合を見ていた所、あの女の叫び声が聞こえたのだと、マーサは言った。

顔を上げたマーサが見た光景は、髪を振り乱した女性が刃物を私に向かって振りかざした瞬間、サリムが片手で私を自分の胸に抱き込みながら、もう片方でその女性の腕を掴んでその女性の腕を捻っていた所だった……らしい。

その後は、少し離れて護衛していたロータス様が走り寄り、その女性を捕らえて地面に押さえつけて……と、まぁそんな感じだった様だ。

私はその話を馬車の中で聞きながら、思わず

「マーサ、足は大丈夫なの?」
と尋ねると、

「そんな事はもうすっかり忘れてましたよ。クレア様……貴女、自分の命が狙われたのですよ?」
とマーサは苦笑した。

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