お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶

文字の大きさ
48 / 189

第48話

しおりを挟む

「アーロン、客間を用意して」
私の後ろで控えていたアーロンは

「は?奥様、それは……!」

「いいの。彼女達は私の……実家でお世話になっていたメイドとご子息という事にしましょう。やむを得ない事情でこの屋敷に来てもらった事に……」
という私達の会話に、アイリスさんは割って入る。

「え?客間はステラさんがお使いなのでしょう?だってディーンはそう言ってたわ。公爵夫人の部屋は使わせないって。なら、私がその公爵夫人のお部屋を使わせて貰うのはどうかしら?ディーンだって私が使う方が喜ぶと思うもの」
とこれまた可愛らしく微笑んだ。

この公爵家は広い。客間ぐらい腐る程ある。別に私が客間をこの8年使っているからといって、他の客間がない訳でも、だからといって、公爵夫人用の部屋を客人に使わせる程困ってもいないのだ。

アーロンは思わず、

「先程から黙ってきいていれば!奥様に失礼な事ばかり……!」
とアイリスさんに強い口調で詰め寄る。

すると、

「そ、そんな……そんなつもりはなかったんです。ごめんなさい!」
とその綺麗な青い瞳にみるみる涙が溜まっていった。

今回は嘘泣きではないようだ。

「泣かれても……!」
とアーロンは今だ怒りを抑えきれずにいた。

「アイリスさん。確かに夫人の部屋を私は使っていません。きっと公爵様も貴女に使って貰えば本望でしょうけど、それではこの家の者達に示しがつきません。そこは理解して下さい」
と私は静かに言った。

公爵様があの部屋に私を入れなかった理由は目の前の彼女の為だろう事は容易に想像が出来る。だからといってあの部屋を『どうぞ、どうぞ』と使わせる事が出来ない事ぐらい馬鹿でも分かるだろうに。

すると、今まで黙っていたテオドール様が、

「俺は離れでも良いよ。公爵夫人の言う通りに」
と眼鏡を外しながら言った。

きっとあの眼鏡では前が見えにくいのだろう。彼の眉間のシワの理由が少しだけ理解出来た。

私は、

「では……お2人には客間を用意させていただきます。お2人は別々のお部屋で?」
とテオドール様の言葉に甘える事にした。

テオドール様がすかさず、

「この人とは別々の部屋にして貰えるとありがたい」
と言葉少なにそう言うと、アイリスさんは顔をしかめて、

「母親の事を『この人』なんて呼ばないで」
と不快そうにそう言った。

……この2人、何かあるのかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

私、女王にならなくてもいいの?

gacchi(がっち)
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

処理中です...