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第57話
しおりを挟むすると、廊下の向こうから
「おい!ステラ様の邪魔をするな!」
とテオが走ってきた。
「テオドール!あなた全然顔も見せないで……お母さん、とっても寂しかったのよ……」
とハンカチを目元に押し当てるアイリスさん。今度は嘘泣きか。……この使い分けの境界線がわからない。
そしてアイリスさんはテオに手を伸ばすが、彼はそれを払いのける。
「寂しいって……。ソニアさんがあんたの相手をしてくれてるだろ?本来ならソニアさんはステラ様専属の侍女なんだぞ?有り難く思えよ」
テオがこんなに長文を話しているのを初めて聞いたかもしれない。貴重。
「そんな……。もちろん感謝しているわ。でもお母さんの立場って……このステラさんより下なの?そんなのっておかしくない?私はあなたの母親よ?次期……」
おっと!こんな場所でこの人は何を言い始めるんだ?!
今は私とムスカ、テオとアイリスさんしか近くに居ないとはいえ、誰が聞いているかわからない。
「おい!!もう部屋へ戻れよ。俺が一緒について行くから!」
とテオは少し慌てた様に彼女の腕を掴むと、引きずる様にして彼女を連れて行った。
「痛い!痛いわ!手を離して!」
とアイリスさんが金切り声をあげるが、テオはそれを気にする事なく歩み続けていた。
「ムスカ、貴方が屋敷の中でも側に付いててくれる様になった理由が分かったわ」
「なんとなく嫌な予感がしたので。ソニアも居ませんし」
ソニアとムスカにはテオとアイリスさんの事を私から正直に話した。
ソニアは公爵様に騙されていた!と怒っていたし、私がアイリスさんの世話と見張りを頼むと、とても嫌そうな顔をしたが、ムスカは静かに『屋敷の中に居る時も奥様の側に侍る様にします』と私に言った。
その時は『何故?』と思ったが、ソニアが側に居ない私を気遣ってくれたのだと思っていた。
ムスカは無口で武骨だが、とても優秀だ。色んな意味で。
「さぁ、彼女が戻って来ない内に部屋へ」
とムスカに促された私は部屋へと滑り込んだ。
そして、
「あ!パンのお礼。テオに言うのを忘れていたわ」
と先ほどの夕食で食べた美味しいパンのお礼を忘れた事を後悔したのだった。
それからもアイリスさんは事あるごとに私を悩ませた。
ある時は、王都の街を散策したい。ある時は、お友達を作りたいからどこかのご婦人を紹介して欲しい。ある時は舞踏会に出てみたい。ある時は王宮へ行ってみたい。
「もう……イヤ」
と頭を抱える私にアーロンは、
「ご自分の立場がわかっていらっしゃらない。しかし何度言っても理解して貰えなくて」
とアーロンも溜め息をつく。
そこにテオが居る事をつい忘れて私達が愚痴っていると、
「本当にすみません」
とテオは謝った。
「あぁ、ごめんなさい。貴方に謝らせたい訳ではなかったの」
最初の頃はテオにアイリスさんの愚痴を聞かせまいと配慮していた私達も、そんな事を構っている暇がない程に彼女に頭を悩ませていた。
「いえ。……あの人には何を言っても無駄ですから」
とテオも投げやりにそう言った。
彼も領地で彼女に悩まされていた1人なのだろうか。
私もアーロンもソニアもギルバートも彼女の無邪気な要求に頭を悩ませていた頃、私は執務室である物を見つけてしまった。
その手紙のような物は机の引出しから溢れたのか、引出しの奥の奥でぐちゃぐちゃになっていた。
私は引出しの奥に何かが挟まっているような感覚に、引出しを一旦外して、そのアコーディオンの様に蛇腹になった手紙を引っ張り出した。
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