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第59話
しおりを挟む「今日の休憩はゆっくり一緒にお茶でも飲まない?」
私は仕事が一段落した段階でテオに話しかけた。
「……俺のパン、美味しくないですか?」
私が夕食で食べたパンのお礼をテオに言ったせいか、それからテオは毎日休憩時間になると、パンを仕込みに行くようになってしまった。
これではテオに休憩時間がない。しかしテオは私が声を掛ける前に、さっさと部屋を出て行ってしまう。
今日こそは!とフライング気味に私はテオをお茶に誘った。
「違うわよ!テオのパンはとっても美味しいわ。でも、たまには仕事抜きでゆっくり貴方と話してみたいなって思って」
と私が笑えば、テオは少しホッとしたような顔をした。
この部屋で仕事をする時、テオには眼鏡は不要だと言っている。
あの眼鏡はかなり彼の負担になっているのだろう。眉間のシワがますます深くなってしまうからだ。
なのでメイドはこの部屋に存在しない。
「じゃあ、お茶を淹れるわね」
と言う私に、
「え?ステラ様が?」
と少し驚いたような顔をするテオ。
私はそんな彼に思わず公爵様の面影を重ねてしまった。
そういえばあの夜、公爵様も私がお茶を淹れると言ったら驚いていたっけ。
アーロンは既に慣れっこなので、
「奥様のお茶は美味しいですよ」
と笑顔で言った。
「ちょっと!あんまり期待されても困るわ!」
とアーロンに私が口を尖らせてみせると、それを見たテオの口角が少し上がる。
やっと少し、ここの雰囲気にも慣れてくれた様だ。最近では表情がほんの少しだが和らいだように見える。
私の淹れたお茶を何度もフーフーするテオに、
「テオはもしかして猫舌なの?」
と尋ねた。こんな所まで親子って似るのかしら?
「はい。熱いのは苦手で」
と少しテオは恥ずかしそうにした。
「お父様と同じね」
と私が微笑めば、テオは少しだけ寂しそうな表情になった。
テオは表現が苦手なだけで、無表情な訳ではない。よーく見ていれば、なんとなく喜怒哀楽はわかる……気がする。
私はそれを見て後悔した。
「ごめんなさい。貴方にとってはお父様が亡くなったんだもの。思い出すのは辛かったわね。無神経だったわ」
と私は素直に謝罪した。
テオは慌てて、
「いや!……別に。辛いなんて事は……」
と私にそう言うと、少し俯いた。
そして、意を決した様に顔を上げると、
「ステラ様は……公爵様の事を愛してたんですか?」
と私に尋ねた。
私が何度か注意したお陰でテオは『あの男』ではなく『公爵様』と呼べるようになっていた。
しかし今はそんな事を気にしている場合ではない。
さて……これはどう答えるのが正解なのかしら?
自分の父親のお飾りの妻の気持ちなんて聞いても楽しい?
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