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第62話
しおりを挟むもう少しテオに話を聞きたかったのだが、ソニアの入室により、話を中断せざるを得なくなかった。
「どうしたの?」
私の質問にソニアはチラリとテオを見る。
……アイリスさん関係である事は間違いない。
「俺に出来る事があるなら聞きます」
とテオも察したようにそう言う。
あれからテオは食事をアイリスさんと、とっているらしい。
彼にそれを聞いた時、
『向こうの家では、俺と一緒に食事する事なんてなかったけど』
とテオは呆れたようにそう言った。
「実はアイリスさんが観劇に行ってみたいそうなんです」
と少し申し訳なさそうにソニアはそう言うと私の答えを待った。
「無理だって行って来ます」
と立ち上がろうとするテオに、私は
「テオ、待って。……ソニア、平民の方々が観に行く劇場があったでしょう?ほら、商人の奥様方が楽しんでいらっしゃる」
と立ち上がろうとするテオを制して私はソニアに声をかけた。
「ええ。裕福なご家庭の奥様方が楽しまれている舞台が御座いますね」
「そのチケットを手配してあげてちょうだい」
という私の言葉に、
「甘やかさない方が良いですよ。すぐ調子に乗るんで」
とテオは冷たく言った。
「でも、この屋敷の中でも自由に過ごせないし、さすがにストレスも溜まる頃でしょう。多少の息抜きは仕方ないわ」
「だから……だからあのまま領地で暮らしておけば良かったんだ」
とテオは呟いた。
「?テオは王都に来る事に同意してなかったの?」
「俺は反対しました。だってここに来たって、あの人が出来る事なんて何もない」
「貴方は……アイリスさんの言い分……公爵様を偲んで、彼の想い出のあるこの屋敷で暮らしたいという彼女の言葉に納得していないのね?」
「……多分だけど、あの人はあなたに会いに来たんだ。正当な公爵夫人であるステラ様……あなたに」
とテオは私を見つめた。
「私に?」
「……うん。ここ…1年ぐらいかな?公爵様と会った後、あの人はいつも不機嫌だった。基本的に俺はあの人とあんまり喋らないから、放っていたんだけど……。
最近かな?その日はパンが驚く程良く売れて、いつもより早く家に帰ったんだ。そしたら……公爵様の話し声が聞こえた。俺は……あんまり顔を合わせたくはなかったから、もう1度外へ出ようと思ったんだ。そしたら、あの人の声が聞こえてきて『私以外とは結婚しないという誓いまで破ったくせに、これ以上私を失望させないで!』って聞こえたんだ。
公爵様が結婚した事は俺も知ってた。その時もあの人は荒れてたから。でも『これ以上失望させるな』って言葉の意味はわからなかった。……その時は」
「その時は?」
「うん。それからかな……すごくあの人はあなたを気にするようになった『どんな顔なのか』とか『どんな女性なのか』とか。……あと歳が若いのも気に入らなかったみたいで」
『若い』という定義がどれぐらいの年齢を指すのか私にもはっきりとはわからないが、私はもう若い部類ではない。
確かに、公爵様やアイリスさんよりは若いかもしれないが。
テオの話はまだ続く。
「1度あの人が『私の前で他の女を褒めるなんて!』って荒れてた事があったから……俺の推測だけど公爵様は……あの人の前でステラ様を褒める事があったんじゃないかと思うんだ」
というテオに、
「公爵様の口から女性の話が出るなんてそれは稀な事でしょうし……きっと私の事をお話したんでしょうけど……私、公爵様に褒められた事など……殆んどないのだけど」
と私は少し驚いた様に言った。
あの夜『信用に値する人間』だとは言われた。あれも褒め言葉といえば褒め言葉か。
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