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第61話
しおりを挟む「ええ……公爵様から聞いてない?」
「いや……。お飾りってことは……?」
「私は名目上の妻よ。
あ!と言っても周りからはおしどり夫婦だって言われてたけど。世間なんてそんなもの。物の本質は見えていないことも多いのよ」
と私が微笑めば、
「そっか。そうだったんだ」
とテオは呟く。その口角はなぜか少し上がっていた。
この場の空気が少し和んだって事かしら?
私はここで尋ねたかった疑問をテオにぶつける事にした。
「ねぇ、テオはパン作りが上手じゃない?お店、手伝っていたの?」
これをきっかけに私はアイリスさんとテオの生活の様子を聞いてみたいと思っていた。
「……手伝うっていうか……。最近は殆んど俺が」
少し躊躇いがちに、そうテオは言った。
「え?そうなの?パン作りは朝も早いから大変だったでしょう?」
「早起きは別に……苦手じゃない。子どもの頃から……だから」
「子どもの頃から?ずっとお手伝いを?」
「あの人、朝が苦手だから。やり方を教わってからは俺が仕込みしてたし」
「……アイリスさんはその間何を?」
「知らない。店に俺が行ってる間の事は何をしてるかなんて興味もなかったから」
テオは今やほぼ無表情だ。まるでアイリスさんに対して何の感情も持っていないような。
「テオは読み書き、計算は出来るわよね?それは誰に?」
「幼かった頃……何度か男の人が家に来て習ったんだ」
「何度か……」
私は自分が疑問に感じていた答えに行き当たった気がした。
真相はギルバートからもたらされるだろうが、私の予感は当たったのではないだろうか?最悪な形だが。
「そう。でも何度か習っただけで出来る様になったのなら優秀ね」
と私が微笑めば、
「店をするのに……必要だったから」
とテオは俯いた。
少し照れているのかもしれない。可愛いところがあるではないか。
しかし……アイリスさんって、領地で何をしていたのかしら?子どもの頃はまだしも、最近はテオに店を任せきりだったのなら、その間何を?
「公爵様とは、会った時にどんな話をしていたの?」
私はなるべくさりげなく尋ねる。ずっと『あの男』と呼んでいたぐらいなので、公爵様との関係性はあまり良かったとは思えなかったからだ。
「あ……公爵様とは、幼い頃に何回か会っただけ。ここ数年は会った事ないよ。……見かけた事はあるけど」
どういう事?!テオのお誕生日は毎年親子3人で祝っていたのではないの?
あの手紙にも『テオも会えるのを楽しみにしてる』って書いてなかった?
「え?どうして?!」
思わず私はテオに聞き返していた。
「さぁ……?あの人には会ってたみたいだけど。……別に俺には会いたくなかったんじゃないかな?」
とテオは面白くなさそうに首を傾げた。
訳がわからない。テオと公爵様は会ってなかった?
公爵様はアイリスさんやテオに会う為に領地へ足繁く通っていたのでは?
……やっぱりもう1度ギルバートに話を聞く必要がありそうだ。
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