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第172話
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「もう!!疲れたわ!!」
「奥様、とにかく少し休みましょう。湯浴みの用意も出来てますし」
私はソニアの言葉に、
「まだ色々とやる事も考える事もたくさんあるのだけど、今日はもう湯浴みして寝る!もう何にも考えずに寝るわ!!」
私は夕食も食べず、湯浴みを済ませると直ぐに寝台へと向かう。
アーロンもテオも話を聞きたがったけど、私はもう今は誰とも話したくなかった。
湯浴みでの心地良い疲労も相まって、私は直ぐに瞼が重くなる。そして私は深い眠りについた。
広い草原に1人、私は裸足で立っていた。
ここは……故郷の丘の上だ。子どもの頃、よく花を摘みに来ていた事を思い出す。あの花は確か……そうレッドクローバーだ。
オーネット公爵家に嫁いでから、1度も実家には帰っていない。
夜会で兄を遠くに見つけた。姉とは何度か会話した。だがオーネット公爵夫人という名前が大き過ぎて、ゆっくりと会話をすることも、ままならなかった。
私は何がしたかったのかしら?
単なる行き遅れの伯爵令嬢がどうしてこんな事になったのかしら?
私の足元には見覚えのある、黒みがかったピンク色の花が咲いている。私は子どもの頃と同じ様にしゃがみ込むとその花を摘んだ。
素朴な花はまるで私の様だ。薔薇でも百合でもない。派手さはなくて観賞用にはなり得ない。
家畜の肥料や緩衝材には使われるのにね。役には立つのに……可哀想。やっぱり私みたい。
するとふと私の手元に影が落ちる。私が見上げるとそこには……
「公爵様?」
「久しぶりだな」
そこには亡くなった筈の、公爵様が立っていた。
あれ?これは夢?それとも天国?私死んじゃったのかしら?
公爵様も私と同じ様にしゃがみ込むと、私を真似て花を摘んだ。
「これは何という花だ?」
「……レッドクローバーです」
あぁ、これは夢だ。だって公爵様が私とこんな風に会話する事なんてなかったもの。
「地味な花だ」
「役には立ちます」
「そうか、君と同じだな」
自分で思う分には良いけど、他人に言われるとなんだかイラっとする。
「公爵様は、私に何をさせたかったのですか?」
私は花を摘みながら尋ねた。
夢なら何を訊いても良いだろう。こんなに私が疲れているのはこの目の前の男のせいだ。
「……1人にして悪かったな」
答えになっていない。だが、私はその言葉に1粒涙を溢してしまった。
「本当に悪いと思っていますか?」
「まぁな。君には重荷だったか?」
「当たり前じゃないですか!しかも隠し子まで」
私がふくれっ面をすると、公爵様は少し口角を上げた。……笑ってるのかしら?そう言えば……あの夜も少しだけ微笑んでいたわね。
「テオドールはどうだ?」
「良い子ですわ。……出来れば公爵様にテオを導いて欲しかったのですけど」
「いや……私より、君の方が適任だったと思っているよ。私では正しく導けなかっただろう」
「でも公爵様のお子様です。私はどう頑張っても母親にはなれません。所詮母親もどきです」
「無理して母親になる必要はないだろう」
「……色々と無理してばかりです」
私は初めて弱音を吐いた。しかも絶対に言いたくなかった相手に。
これは夢だ。夢なら何を言っても許されるだろう。
「奥様、とにかく少し休みましょう。湯浴みの用意も出来てますし」
私はソニアの言葉に、
「まだ色々とやる事も考える事もたくさんあるのだけど、今日はもう湯浴みして寝る!もう何にも考えずに寝るわ!!」
私は夕食も食べず、湯浴みを済ませると直ぐに寝台へと向かう。
アーロンもテオも話を聞きたがったけど、私はもう今は誰とも話したくなかった。
湯浴みでの心地良い疲労も相まって、私は直ぐに瞼が重くなる。そして私は深い眠りについた。
広い草原に1人、私は裸足で立っていた。
ここは……故郷の丘の上だ。子どもの頃、よく花を摘みに来ていた事を思い出す。あの花は確か……そうレッドクローバーだ。
オーネット公爵家に嫁いでから、1度も実家には帰っていない。
夜会で兄を遠くに見つけた。姉とは何度か会話した。だがオーネット公爵夫人という名前が大き過ぎて、ゆっくりと会話をすることも、ままならなかった。
私は何がしたかったのかしら?
単なる行き遅れの伯爵令嬢がどうしてこんな事になったのかしら?
私の足元には見覚えのある、黒みがかったピンク色の花が咲いている。私は子どもの頃と同じ様にしゃがみ込むとその花を摘んだ。
素朴な花はまるで私の様だ。薔薇でも百合でもない。派手さはなくて観賞用にはなり得ない。
家畜の肥料や緩衝材には使われるのにね。役には立つのに……可哀想。やっぱり私みたい。
するとふと私の手元に影が落ちる。私が見上げるとそこには……
「公爵様?」
「久しぶりだな」
そこには亡くなった筈の、公爵様が立っていた。
あれ?これは夢?それとも天国?私死んじゃったのかしら?
公爵様も私と同じ様にしゃがみ込むと、私を真似て花を摘んだ。
「これは何という花だ?」
「……レッドクローバーです」
あぁ、これは夢だ。だって公爵様が私とこんな風に会話する事なんてなかったもの。
「地味な花だ」
「役には立ちます」
「そうか、君と同じだな」
自分で思う分には良いけど、他人に言われるとなんだかイラっとする。
「公爵様は、私に何をさせたかったのですか?」
私は花を摘みながら尋ねた。
夢なら何を訊いても良いだろう。こんなに私が疲れているのはこの目の前の男のせいだ。
「……1人にして悪かったな」
答えになっていない。だが、私はその言葉に1粒涙を溢してしまった。
「本当に悪いと思っていますか?」
「まぁな。君には重荷だったか?」
「当たり前じゃないですか!しかも隠し子まで」
私がふくれっ面をすると、公爵様は少し口角を上げた。……笑ってるのかしら?そう言えば……あの夜も少しだけ微笑んでいたわね。
「テオドールはどうだ?」
「良い子ですわ。……出来れば公爵様にテオを導いて欲しかったのですけど」
「いや……私より、君の方が適任だったと思っているよ。私では正しく導けなかっただろう」
「でも公爵様のお子様です。私はどう頑張っても母親にはなれません。所詮母親もどきです」
「無理して母親になる必要はないだろう」
「……色々と無理してばかりです」
私は初めて弱音を吐いた。しかも絶対に言いたくなかった相手に。
これは夢だ。夢なら何を言っても許されるだろう。
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