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その55
フェルト女史は、
「その商会で働いて5年程が経った頃かしら?
王都にある本店で働かないかってお誘いを受けたの。
最初、興味はなかったんだけど、私の語学力を活かして、買い付けの仕事もしてみないかって言われて。
せっかく勉強しても使わなければ宝の持ち腐れでしょう?
私がランバンでやってきた事が無駄にならないならって引き受けて王都にやって来たの」
…私の推理が当たっていれば、フェルト女史は現在のランバン国王の元婚約者だ。
語学が堪能であっても、不思議ではない。
フェルト女史の話は続く。
「ある日、この国にユーメリアからの来賓がおみえになって、王城で夜会が開かれる事になったんだけど、ユーメリアのあるご夫人がお持ちになっていた扇が壊れてしまって。
亡くなったお義母様から譲り受けた物だとかで、大変大切にされていたらしいのだけど、年代物だったし、古くなっていたのね。
要の所の留め具が折れてしまったの。
その留め具も宝石が使われていた素晴らしい物で、ユーメリアに伝わる技法が使われていたのよ。
うちの商会が、ユーメリアの扇を取り扱っていたから、どうにか修理出来ないかと訪ねて来たのが…今の主人なの」
そう言うとフェルト女史は少女のようにはにかんだ。
「では…フェルト宰相と知り合ったのは、その時で?」
人の恋愛話なんて、なかなか聞く機会のなかった私は、ちょっとワクワクしながら、質問した。
「そうなの。主人はまだ宰相になったばかりで。『その扇をどうしても直してあげたいんだ!』って。熱意を感じたわ。ちょうど私がユーメリアから買い付けた扇に似た物があって、その留め具を使ったらどうだろうかって話になって。
必死になってる主人を見て、顔つきはなんだか神経質そうなのに、案外心は温かい人なのかもって思ったの」
…フェルト宰相の姿はチラリとしか見た事はないが、確かに線の細い、神経質そうな人だった。
「その扇は…修理出来たんですか?」
「ええ。何とか。夫人は泣いて喜んでくれたらしいわ。全く同じ物とはいかなかったけど、こちらの誠意が有り難かったと。
それで、改めて主人がお礼にと商会へ訪れたの。その時、食事に誘われたのよ」
「え?!もうですか?フェルト宰相…なかなか積極的だったんですね」
「フフフっ。確かにそう聞くと、そう思うわよね。でもその時の主人ったら、まっ赤っかでね。汗もダラダラかいちゃって。そのうち倒れちゃうんじゃないかと心配するぐらいだったの。
でも…私は平民。彼は公爵家の嫡男。身分も釣り合わないし、それに国の宰相を勤める人物よ?畏れ多くて。だから、お断りしたの」
「え?では、フェルト宰相は…?」
「彼ね……それはもう…しつこかったの」
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