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その73
しおりを挟むフェルト女史は、私を手招きすると、
「後で少し時間をちょうだい」
と私に耳打ちした。
今は出来る限り殿下に付いていてあげたい。
私は、
「殿下が寝入ってからでないと時間が…」
と躊躇っていると、
「夜中で大丈夫よ。廊下に居る護衛に声を掛けてね」
と言って去って行った。
今回の事では、フェルト女史には感謝しかない。
ランバン国王への唯一のお願いを、躊躇いもなく殿下の為に使ってくれた。
今後も足を向けては寝られない。
殿下は幾分気持ちが晴れたのか、纏う空気が少し明るくなった。
私が、
「お茶をお淹れしましょう」
と言うと、
「ここの図書室にランバン王国についての歴史が分かる本があるかしら?」
と訊いてきた。
自ら、勉強をしようとする殿下を初めて見た。正直少し気持ち悪い。
私は、
「では、探して来ましょう」
と言って部屋を出る。
殿下も前を向いている。私もランバンについて一緒に学ぼう。そう思いながら、私は図書室を目指した。
夜も更けた頃、殿下が寝静まるのを待って、私は廊下へ出た。
殿下もここ最近の緊張感から解かれた為か、よく眠っていたので、夜中に起きる事はないだろう。
とりあえず、私は昼間フェルト女史に言われた通りに、廊下に控えている護衛の1人に声を掛ける。
そこには、近衛騎士団団長が立っていた。彼はここの担当ではないはずだが?
私は団長に促され、その後を付いて行く。
何処に連れて行かれるんだろう…?こっちは…もしかして、庭へ向かってる?
そう不思議に思いながら付いて行った先は、やはりこの王宮の庭。
しかも王族しか入れない特別な場所で、私も、ミシェル殿下も此処へは立ち入った事はない。
庭園の入り口で、団長が、
「中でお待ちです」
と行って、私を中に促す。
フェルト女史が此処に?
私はあまりに場違いな場所に落ち着かない気持ちになりながら、先へ進むと、そこにはフェルト女史ではなく、クリス様が待っていた。
………もしかして、私、嵌められた?
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