隣国へ嫁ぐワガママ王女に付いて行ったら王太子に溺愛されました

初瀬 叶

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その80

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私の話を聞き終えたフェルト女史は、

「な、な、なんなの?あの馬鹿!
シビルから避けられていて、全く相手にしてもらえないからと私に泣きついて来たから、仕方なく貴女を騙すような真似をして、呼び出してあげたのに!
それは告白じゃないわよ!脅迫よ、脅迫!本当に情けない!」
と怒り心頭だ。

「そうですよね。一応『好きだ』と言う言葉は聞きましたが、愛の告白などではなかったと思うんですよ。
というか、私には選択肢を与えて貰っていないので、多分『命令』ですよね。
…私、どうしたら良いんでしょう…。王太子妃なんて、無理です…」
と私は溜め息混じりに呟いた。

「単刀直入に訊くけど…貴女は王太子殿下の事、どう思っているの?」

「うーん。『王太子殿下だな』としか思っていません。
最初は強引な方だと思っておりましたし、婚約破棄の件については、正直嫌悪しました。
ランバンの件が決まってなければ、そのままの気持ちだったと思いますが、ミシェル殿下の嫁ぎ先が決まった事で、王太子殿下への嫌悪感は薄れたと思います。
しかし、今までの全ての事を引っくるめても、やっぱり『王太子殿下だな』としか思えません。
常に上からなので。
王族とはそういうものですし、人の上に立つには、それぐらいでなければ、務まりません。
人の顔色を伺うばかりでは、為政者にはなれませんから」

そう私が言うと、

「確かに、王太子殿下にはそういった強引な所もあるし、それが今まで良い方へこの国を導くきっかけになったのも間違いないわ。
だから、王太子殿下に指名されたのだし。
でも、それは、この国を動かす為には必要な事でも、女性の心を動かす事に向いているか、と問われれば、否ね。
あの歳で恋愛の1つもして来なかったツケが回ってきたのね。
それにしても今の話の中に、貴女から王太子殿下に好意を感じる部分が1つもなかったわ…」

「というか、雲の上の存在なので…そんな風に考えた事もありませんし、今からそうやって考えろと言われても、難しいとしか言いようがありません。
私も人の事は言えないんです。婚約者は居ましたが、幼馴染みのような関係で…情はあったかもしれませんが、好きとかそう言う感情ではなかったと思うので。いまいちそういう感覚がわからないと言うか…」

「でも、前に私と主人の事を話した時は、羨ましく思ってくれたのでしょう?」

「はい。そんな風に誰かに想われてみたいと思う事はありますし、そんな風に誰かを想うのも素敵だなとは思いますが、どこかまだ、他人事のような感じです」
と私は素直に答えた。

「そうよね。人を好きになった事がなければ、なかなか、わからない感情よね。
…そうねぇ。でも、貴女に恋愛を教えるより先に、あの馬鹿には少しお灸をすえる必要がありそうね。…私に考えがあるの。その話に乗ってみない?」

とフェルト女史は何故か少し悪い顔をして微笑んだ。
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