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第10話 初夜
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さてさて。今日は初夜だ。
馬車の中で処女で居る危険性を感じていた私はモニカにピカピカに磨き上げられ、ほんの少し気合いを入れながら夫婦の寝室に向かう。
そこにはまだ侯爵の姿はなかった。
初めてって痛かったっけ?前世の記憶を無理矢理引っ張り出す。
そんな風にこの状況を俯瞰してみようと頑張っている私はやっぱり緊張しているのかもしれない。
── ガチャ。
扉が開いた。
夜着にガウンを羽織った侯爵が現れ、私はそれを意外に思った。
後継ぎは必要ないと言った侯爵は、もしかするとこの部屋に顔を出さないのではないかと思っていた。
しかしそれはお互い様だったようだ。
「居たのか」
ベッドに腰掛けている私に侯爵は近づいた。
「こっちの台詞です。来ないかと思いました」
侯爵は私の隣に腰を下ろす。
「……ギルバートにうるさく言われた。だがな……」
侯爵は言いにくそうに口籠る。私は彼が言うべき言葉に迷っている気持ちを汲んで先に口を開いた。
「別に白い結婚でもいいですよ」
私がそう言うと、侯爵は複雑そうな顔をした。
白い結婚でも構わない……ただ、ユリウスには処女だとバレたくはない。強制力が怖いから。
しかし……夫に閨を拒否されるというのはなんとも……惨めな気持ちになるものだ。
私は少し痛む胸に気づかないフリをして、明るく言った。
「じゃあ、私は自分の部屋に戻りますね」
私は侯爵の顔を見ずに立ち上がる。しかし、その私の腕を侯爵はガッと掴んだ。
私は侯爵を見下ろす。見下ろすといっても背の高い侯爵の顔は私の視線のほんの少し下なだけだった。
「ここに居たらいい。……そして君の心の準備が出来るまで、私は手を出さない」
「準備なら── 」
夫婦になった。もちろん覚悟してここに来ていたのに──。
侯爵は私の腕を放す。
「緊張した顔をしている。無理は禁物だ」
やはり気持ちの伴わない交わりに抵抗はある。
前世を思い出した今は特に。侯爵には私のそんな気持ちはお見通しだったようだ。
── 自分自身すら誤魔化して、見て見ぬふりをした気持ちだったのに。
私はまたストンとベッドに腰掛けた。
「朝から疲れただろう。もう休め」
侯爵はそう言うと、自らベッドに横になる。
言葉は少ないが……侯爵は優しい人なのかもしれない。
私も彼に倣ってベッドに横たわる。
私と侯爵の間には人一人分の間が空いていた。
「おやすみ」
その声に私は侯爵の方へと顔を向けると、既に彼は目を閉じていた。
……気にしていたのが馬鹿みたいだと思いながら私もゆっくりと目を閉じた。
馬車の中で処女で居る危険性を感じていた私はモニカにピカピカに磨き上げられ、ほんの少し気合いを入れながら夫婦の寝室に向かう。
そこにはまだ侯爵の姿はなかった。
初めてって痛かったっけ?前世の記憶を無理矢理引っ張り出す。
そんな風にこの状況を俯瞰してみようと頑張っている私はやっぱり緊張しているのかもしれない。
── ガチャ。
扉が開いた。
夜着にガウンを羽織った侯爵が現れ、私はそれを意外に思った。
後継ぎは必要ないと言った侯爵は、もしかするとこの部屋に顔を出さないのではないかと思っていた。
しかしそれはお互い様だったようだ。
「居たのか」
ベッドに腰掛けている私に侯爵は近づいた。
「こっちの台詞です。来ないかと思いました」
侯爵は私の隣に腰を下ろす。
「……ギルバートにうるさく言われた。だがな……」
侯爵は言いにくそうに口籠る。私は彼が言うべき言葉に迷っている気持ちを汲んで先に口を開いた。
「別に白い結婚でもいいですよ」
私がそう言うと、侯爵は複雑そうな顔をした。
白い結婚でも構わない……ただ、ユリウスには処女だとバレたくはない。強制力が怖いから。
しかし……夫に閨を拒否されるというのはなんとも……惨めな気持ちになるものだ。
私は少し痛む胸に気づかないフリをして、明るく言った。
「じゃあ、私は自分の部屋に戻りますね」
私は侯爵の顔を見ずに立ち上がる。しかし、その私の腕を侯爵はガッと掴んだ。
私は侯爵を見下ろす。見下ろすといっても背の高い侯爵の顔は私の視線のほんの少し下なだけだった。
「ここに居たらいい。……そして君の心の準備が出来るまで、私は手を出さない」
「準備なら── 」
夫婦になった。もちろん覚悟してここに来ていたのに──。
侯爵は私の腕を放す。
「緊張した顔をしている。無理は禁物だ」
やはり気持ちの伴わない交わりに抵抗はある。
前世を思い出した今は特に。侯爵には私のそんな気持ちはお見通しだったようだ。
── 自分自身すら誤魔化して、見て見ぬふりをした気持ちだったのに。
私はまたストンとベッドに腰掛けた。
「朝から疲れただろう。もう休め」
侯爵はそう言うと、自らベッドに横になる。
言葉は少ないが……侯爵は優しい人なのかもしれない。
私も彼に倣ってベッドに横たわる。
私と侯爵の間には人一人分の間が空いていた。
「おやすみ」
その声に私は侯爵の方へと顔を向けると、既に彼は目を閉じていた。
……気にしていたのが馬鹿みたいだと思いながら私もゆっくりと目を閉じた。
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