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知らせ
しおりを挟む翌日。今日もまだ体調は思わしくないが、理由がわかった分、不安はなくなった。
私はコッカス領にいる両親と、王都のタウンハウスにも知らせを送ろうと手紙を認めていた。
でも…安定期に入ってから知らせた方が良いかしら?
妊娠初期はまだ流産の危険性も高いし、油断は出来ないと聞いた。
私が悩んでいると
「奥様、少しよろしいでしょうか?」
とフェルナンデスがやって来た。
「どうぞ」
と入室を促すと
「ランバード伯爵夫人が今日、こちらにお見えになると」
「お義母様が?まぁ、早速ね」
きっと喜んでいただけると思うと、私も自然と笑みが溢れる。
「言った通り、あちらから飛んできましたね」
「ふふっ。本当ね。私も母親の先輩であるお義母様に色々聞いてみたいわ」
「張り切って教えて下さると思いますよ。…ところで今日のお加減はいかがですか?」
「そうね。あまり食欲はないけど、朝のスープは飲めたわ。」
そうしているとアンナも部屋に入ってきて
「こちら、悪阻の時におすすめのハーブティーだそうです。
昨日のお医者様に教えていただきました。奥様、飲んでみますか?」
「ありがとう。飲んでみるわ」
それは甘酸っぱい味わいのハーブティーだった。
「これなら、飲めそう。酸っぱさが良いわ」
「悪阻の時は酸っぱい物を欲する方が多いそうなんです。
果実水も少し酸味のある果実を使用しましょうね」
「ありがとう。私の為に色々工夫してくれて……。
私は幸せ者ね。レオ様を始め皆に優しくして貰えて」
…何故か涙が出てきた。フェルナンデスが慌ててハンカチを渡してくれる。
「妊娠中は気分が不安定になって、涙する事もあるそうです。ご無理なさらずお過ごし下さい」
「ふふっ。悲しいわけじゃないのに…そんな事もあるのね。
フェルナンデスがそんな事を知ってるなんて意外だったわ」
「昨日、フェルナンデスさんもお医者さまを捕まえて色々聞いていましたから」
とアンナが暴露するとフェルナンデスは少し顔を赤くした。
「……私も少し浮かれておりますので…」
恥ずかしそうに呟くフェルナンデスが可愛らしかった。
昼過ぎ、お義母様が到着したとフェルナンデスがやって来た。
「お出迎えしないと!」
そう言って私が部屋から出ようとすると、
「こちらのお部屋にご案内してもよろしいですか?大奥様も、無理をさせるなと仰ってまして」
「失礼じゃないかしら?私は何処でも構わないのだけど…」
私が少し考えていると…アンナがお義母様を案内してやって来た。
「レベッカちゃん!おめでとう!嬉しすぎて押し掛けて来ちゃったわ!」
そうお義母様は言いながら私の手を握った。
「お義母様、お出迎えもせず申し訳ありません」
「いいのよ~。私が急に来たんだもの。
それにあんまり気分は良くないんでしょ?寝てなくて大丈夫?」
「はい。少し怠さはありますけど、大丈夫です。ゆっくりさせて貰ってますし」
「私もジョシュアを妊娠した時、悪阻が酷くて大変だったの。
何を口にしても吐いちゃって。ベッドに寝たきりだったわ」
「お義母様に色々と聞いてみたい事があるんです。教えていただけますか?」
「もちろんよ~。何でも聞いてね。
とりあえずソファーに座りましょ」
そう言って2人でソファーに座る。
「それとね、結婚式のドレスなんだけど、その時は少しお腹も目立ってきてると思うの。
なので腰回りをゆったりとして…胸の下で切り替えがあるのも可愛いかしらね?」
「私、すっかり失念してました。結婚式…」
「いいのよ。そこは全部私に任せて!
もちろんレベッカちゃんの希望は聞きながらだけど、悪いようにはしないから。
もう安定期にも入ってるだろうし、体に負担のない範囲でやりましょうね。
レベッカちゃんは元気な赤ちゃんを産む事だけを考えて。
こんな時に、レオナルドも視察なんてね。まだ知らせてないんでしょ?」
「はい。自分の口から伝えたくて…」
「そうよね。私達ももちろん内緒にしておくわ。
びっくりさせたいものね」
それから私は妊娠中の注意や、ジョシュア様やレオ様の出産時の事を色々教えてもらった。
妊娠も出産も1人目と2人目では違う事、悪阻もジョシュア様の時は酷くて、レオ様の時は全くなく、かえって太りすぎてしまった事など、興味深い話ばかりだった。
「さて、あんまり長居して疲れさせても申し訳ないわ。
じゃあ、帰るわね。
ドレスのデザインはすぐに直させるから心配しないで」
「はい。何から何までお義母様に頼りっぱなしで、申し訳ありませんがよろしいお願いします」
「いいのよ。私は娘が出来て本当に楽しんでるの。
…ありがとうね。レオナルドに嫁いでくれて」
「お義母様…」
私は涙が溢れてきた。
「まぁまぁ。レベッカちゃんを泣かせたなんてレオナルドに知られたら怒られてしまうわ。
妊娠中は感情的になってしまうものね」
そう言って、私の涙を拭ってくれた。
お義母様は短時間でランバード領に帰っていった。
晩餐を共にと申し出たが、一緒に食べると匂いで吐き気を感じるかもしれないからと気遣って下さった。
少し疲れを感じた私は夕食まで横になる事にした。
うとうととしていると少し部屋の外が騒がしい。
フェルナンデスがやって来て
「奥様、お休みの所申し訳ありません。
アレックス殿からお話があるとの事で…こちらにご案内してもよろしいでしょうか?」
その声色は固い。
「お兄様が?もちろん私は構わないわ、入ってもらって?」
妊娠についてはまだ知らせていない、どうしたのかと不思議に思っていると、お兄様が部屋にやって来た。
その顔は少し青ざめている。
「ベッキー、落ち着いて聞いて欲しい。
レオナルド殿が怪我をした。
近くの街で応急手当はしているが、出血が酷かった為にそこの街ではそれ以上の治療が出来ない。
今王都の病院に向かっているらしい」
…レオ様が怪我を?出血が酷い?
私の耳はその言葉を拾っているのに、頭の中に入ってこない。
嫌、理解したくなかったのかもしれない。
私はそのまま意識を手放した。
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