理想のオトコ、飼ってます。

初瀬 叶

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結婚報告

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翌日、私は自転車に乗れなくなった千秋くんを車で送ってから、自分の仕事に向かった。

結婚した事で、色々と事務処理が必要だろうな…そう思いながら仕事をする。

なんだかんだで今日も忙しく、結婚についてはまだ誰にも報告できていない。

そのうちお昼になったので、いつものように食堂へ行く。

「奏~こっち~」

今日も真奈美ちゃんが席を取ってくれていたようだ。

「ありがとう。今日も結構忙しいね~」
そう言いながら、私はコンビニで買ったカツサンドを開ける。

「あれ?今日はお弁当じゃないの?女子力アピールは終了って感じ?
でも三日坊主じゃなかったじゃん。凄いよ~」

千秋くんが手を怪我したので、昨日から家事は全般私が引き受ける事になったから今日は愛妻(夫?)弁当ではないのだが…

「あ~うん。作ってくれてた人が怪我しちゃったからね~」

「へっ?自分で作ってたんじゃないの?」

「うん。嘘つくつもりはなかったけど、言いそびれちゃった」

「え?誰、誰?」

「えっと…旦那?」

「はぁ?!」
と、めちゃくちゃ大きな声で叫んだ上に真奈美ちゃんが立ち上がったもんだから、すっごい注目の的なんですけど…

「とりあえず落ち着いて。ちゃんと話すから」

「落ち着いてられるわけないじゃん!
どういう事?抜け駆け?ねぇ、抜け駆けなの?」

「真奈美ちゃん…とにかく座ろう。そして声のボリュームを落とそうか」
渋々真奈美ちゃんは椅子に座る。

周りはヒソヒソ話をしながら、私達の会話に聞き耳を立てている事を痛いほど感じる。
こんな中、非常に話しにくい。

「ねぇ、場所変えない?」
と私は提案するも、

「い~や。今すぐ聞きたい。教えてくれるまで動かない!」
…真奈美ちゃん…空気読もうよ!

「ふぅ~。わかった。話します」

「で?旦那って何?そんなアダ名の人?」
んな訳ない。

「旦那は旦那。夫だよ」

「誰の?」

「私の」

「って事は結婚したって事?」

「そういう事になるね」

「いつ?」

「昨日」

「新婚?」

「ホヤホヤ」
何、この一問一答みたいなやり取り。

「どこの誰よ」

「うーん。真奈美ちゃんの知らない人」

「じゃあ、職場関係じゃないんだ」

「うん。ホテルで働いてるから」

「何処で知り合ったの?」

「うんと…大型スーパー?」
ガチャとは言えないが場所は間違ってない。

「え?なんでそんな所で?ナンパ?」

「うーん…みたいなもの?」
歯切れは悪いが仕方ない。『ガチャで引いた』なんて言ったって誰も信じない。

「で、いつから付き合ってたの?」

「えっと…1ヶ月と少し前ぐらいかな?」

「え?それで結婚?早くない?」

「まぁ…確かに。でもずっと一緒に暮らしてたから」

「ふ~ん。じゃあ、あの毎日のお弁当は…」

「そう。彼が作ってくれてたの」

「なるほどねぇ。なんか納得。奏ってそんなタイプじゃないもんね」
そんなタイプってどんなタイプよ!

「でもさぁ、奏、もう男はいらなーいって言ってなかった?」

「言ってたね」

「なのに、結婚?」

「そうだね。実は彼が交通事故にあっちゃって」

「え?事故?」

「うん。怪我は大した事なかったんだけど、その時さ『家族です』って胸はって言えなかったんだよね。
まぁ、結婚してないから当たり前なんだけど。
その時にさ、この人がもし、もっと大きな怪我や病気した時、家族の同意が必要な手術とかさ、色々な手続きの保証人とかさ、なんかそんな時に、私って何にも出来ないのかなぁとか、私の立場ってなんだろうとか思ったらさ、彼と家族になりたいなぁって思ったの。
彼…家族がいないから」

「…そうなんだ。でも、奏が結婚したいなって思える程の男だったって事だよね」

「そうだね。私には『理想のオトコ』だね」
そう言って私は微笑んだ。

「うわ~。『幸せです』って顔しちゃって。惚気かよ!」
そう真奈美ちゃんが笑う。

「え?そんな顔してた?」 

「してた、してた。蕩けそうな顔してたよ。……良かったね、奏。結婚、おめでとう」

「…ありがとう」

なんかちょっぴり泣きそうになる。

「あ~でも羨ましいなぁ。私も結婚したーい!
そうだ、ねぇ、旦那さんの写真ないの?
見せてよ」

「うーん。まぁいいけど」
といって私はポケットからスマホを出す。家で、私と千秋くんともなかの3人(2人と1匹?)で撮った写真を見せると、

「え?旦那イケメン。ってか…若くない?」

「うん。20才だからね」

「はぁ?20才?犯罪じゃん!」

またまた真奈美ちゃんが大きな声を出し立ち上がった。
…本当に落ち着いて欲しい。そして立派に成人してるので、犯罪ではない。

私はもう周りの目が怖すぎて顔を挙げられない。

私はうつむいたまま、小さな声で

「犯罪じゃないもん…」
と言うのが精一杯だった。
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