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第3話
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今日は、何故か父であるオーヴェル侯爵から面会の申請が来ていた。
珍しい…いや、仕事以外で話すのなんて、初めてではないだろうか?
わざわざ面会の時間を取るなんて…嫌な予感しかないのだけど…。
「妃陛下…お時間ありがとうございます」
と定型の挨拶の後に席に着いたオーヴェル侯爵に私は、
「要件を。あまり時間はないの」
と無表情で告げる。…顔は親子にしか見えないのに、態度は余所余所しい。
そんな私に、父も表情を変える事なく、
「ジュリエッタの事だ」
と端的に告げる。
「ジュリエッタの婚約について?」
と私が訊くと、
「いや…アズナブル侯爵の息子を知ってるか?」
と訊ねられた。そういえば、少し前にジュリエッタの口からその名を聞いたばかりだ。
「ニール殿ね。それが?」
と訊けば、
「その男と、懇意になっているようだ…。あの家はうちを敵視してる。何か裏があるのではないかと思って、調べてみたんだ」
と父は私に書類を渡す。
私はそれに目を通すと、
「これは…。ニール殿の婚約者は確かミラス王国の侯爵令嬢ではなかったかしら?どうするつもりなの?」
書類に書いてある事が衝撃で、思わず父へ訊いてしまう。
「さぁ…。そこに書いてある通り、向こうはまだ事実を知らないようだが、バレたら婚約破棄は免れないだろう。このまま相手の女を処分…なんて事になったら、完全にアズナブル侯爵は犯罪者だ。流石にそれはないと思うが…」
と父は難しい顔をする。
「相手はアズナブル侯爵家のメイド?でも、これとジュリエッタ…何の関係があるのかしら?」
書類に書いてあったのは、ニール殿と侯爵家のメイドの関係だ。しかもメイドは妊娠しているらしい。アズナブル侯爵も自分の息子をコントロール出来ていないと見える。目の前の誰かさんと同じだ。
「あいつの息子がジュリエッタに純粋に好意を持っている…と思いたいが、違うだろう。あの娘は好きになった男に直ぐにのぼせ上がるし、そうなると周りは見えなくなる。…前の時の様にな」
私は父の言葉に、おやっ?と思う。
「ジュリエッタが家出したのを、知っていたの?」
と私が訊けば、
「知らん訳ないだろう。あの娘も妻も、私にはバレていないと思っているようだがな」
「まさか…あの親子に何もしていないでしょうね?」
私はジョーとその母の事が気になった。
「何も。いや…口止め料は払ったがな」
…良かった。無事なようだ。
「ジュリエッタがそんな娘だとわかっているなら、早々に手を打ったら?ニール殿の…いえ、アズナブル侯爵の企みはわからないけど、このままでは不味いでしょう」
私が警告すると、
「あぁ。もしアズナブル侯爵が婚約破棄後の事を考えて、ジュリエッタへの婿入りを考えていたりしては面倒だ。うちを乗っ取る気かもしれん」
「そこまでわかってるなら、ジュリエッタに注意を…」
と私は言いかけて、止めた。あの娘がそんな言い付けを守る訳がない。
「お前だってわかっているだろう?あの娘は『会うな』と言えば、ますます意固地になる。また家出されても面倒だ」
そんな娘にしたのは、お前だろう?と言いたい。甘やかして、付け上がらせて…。
「それなら、修道院にでも行かせたら?行儀見習いで預ける貴族も多いでしょう?」
と私が言えば、
「もうすぐ学園に通うようになる。修道院に預けるのも手だが、あの娘は学園に通うのを楽しみにしている」
…それが甘いと言うのよ。別に、貴族令嬢だからと言って、絶対に学園に通わなければならない訳じゃない。修道院でも色々と学べるのだから。
「そんな甘い事を言っていては、手遅れになるわよ?逆にあの娘が学園で何か仕出かす前に、修道院に閉じ込めてしまいなさいな」
と私が言えば、
「それは、あまりに可哀想だ。…そこで、だ。妃陛下にお願いがあるんですが…」
と改めて姿勢を正した。
…内容を聞く前に断って良いかしら?
珍しい…いや、仕事以外で話すのなんて、初めてではないだろうか?
わざわざ面会の時間を取るなんて…嫌な予感しかないのだけど…。
「妃陛下…お時間ありがとうございます」
と定型の挨拶の後に席に着いたオーヴェル侯爵に私は、
「要件を。あまり時間はないの」
と無表情で告げる。…顔は親子にしか見えないのに、態度は余所余所しい。
そんな私に、父も表情を変える事なく、
「ジュリエッタの事だ」
と端的に告げる。
「ジュリエッタの婚約について?」
と私が訊くと、
「いや…アズナブル侯爵の息子を知ってるか?」
と訊ねられた。そういえば、少し前にジュリエッタの口からその名を聞いたばかりだ。
「ニール殿ね。それが?」
と訊けば、
「その男と、懇意になっているようだ…。あの家はうちを敵視してる。何か裏があるのではないかと思って、調べてみたんだ」
と父は私に書類を渡す。
私はそれに目を通すと、
「これは…。ニール殿の婚約者は確かミラス王国の侯爵令嬢ではなかったかしら?どうするつもりなの?」
書類に書いてある事が衝撃で、思わず父へ訊いてしまう。
「さぁ…。そこに書いてある通り、向こうはまだ事実を知らないようだが、バレたら婚約破棄は免れないだろう。このまま相手の女を処分…なんて事になったら、完全にアズナブル侯爵は犯罪者だ。流石にそれはないと思うが…」
と父は難しい顔をする。
「相手はアズナブル侯爵家のメイド?でも、これとジュリエッタ…何の関係があるのかしら?」
書類に書いてあったのは、ニール殿と侯爵家のメイドの関係だ。しかもメイドは妊娠しているらしい。アズナブル侯爵も自分の息子をコントロール出来ていないと見える。目の前の誰かさんと同じだ。
「あいつの息子がジュリエッタに純粋に好意を持っている…と思いたいが、違うだろう。あの娘は好きになった男に直ぐにのぼせ上がるし、そうなると周りは見えなくなる。…前の時の様にな」
私は父の言葉に、おやっ?と思う。
「ジュリエッタが家出したのを、知っていたの?」
と私が訊けば、
「知らん訳ないだろう。あの娘も妻も、私にはバレていないと思っているようだがな」
「まさか…あの親子に何もしていないでしょうね?」
私はジョーとその母の事が気になった。
「何も。いや…口止め料は払ったがな」
…良かった。無事なようだ。
「ジュリエッタがそんな娘だとわかっているなら、早々に手を打ったら?ニール殿の…いえ、アズナブル侯爵の企みはわからないけど、このままでは不味いでしょう」
私が警告すると、
「あぁ。もしアズナブル侯爵が婚約破棄後の事を考えて、ジュリエッタへの婿入りを考えていたりしては面倒だ。うちを乗っ取る気かもしれん」
「そこまでわかってるなら、ジュリエッタに注意を…」
と私は言いかけて、止めた。あの娘がそんな言い付けを守る訳がない。
「お前だってわかっているだろう?あの娘は『会うな』と言えば、ますます意固地になる。また家出されても面倒だ」
そんな娘にしたのは、お前だろう?と言いたい。甘やかして、付け上がらせて…。
「それなら、修道院にでも行かせたら?行儀見習いで預ける貴族も多いでしょう?」
と私が言えば、
「もうすぐ学園に通うようになる。修道院に預けるのも手だが、あの娘は学園に通うのを楽しみにしている」
…それが甘いと言うのよ。別に、貴族令嬢だからと言って、絶対に学園に通わなければならない訳じゃない。修道院でも色々と学べるのだから。
「そんな甘い事を言っていては、手遅れになるわよ?逆にあの娘が学園で何か仕出かす前に、修道院に閉じ込めてしまいなさいな」
と私が言えば、
「それは、あまりに可哀想だ。…そこで、だ。妃陛下にお願いがあるんですが…」
と改めて姿勢を正した。
…内容を聞く前に断って良いかしら?
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