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第29話
しおりを挟む「言いたい事はそれだけかしら?」
と私が微笑めば、エリザベート様は、
「そうですねぇ…あえて言うとすれば『今までお疲れ様でした』という言葉を贈るぐらいでしょうか?」
と私に言い返してきた。
…なかなかの嫌味だ。
「まぁ…労っていただいて嬉しいわ。
貴女が自ら手放したこの王妃の座。お陰でデイビッド殿下が成し遂げたかった事に着手するのに、役に立ちましたもの」
「デイビッド殿下…?」
「ええ。貴女が大好きだったデイビッド殿下よ?婚約者だったくせに、デイビッド殿下がこの国をどうしたかったのか…ご存知なかったの?」
「な…何を。今、そんな事関係ないでしょう!」
「残念ながら関係あるのよ。私も陛下もデイビッド殿下がこの国を『皆が笑顔になれる国にしたい』という遺志を継いでいるの。
それが一部の貴族から反感を買うことになってもね。
これが私がでしゃばりだと言われる所以よ。ただ、私はその言葉を称賛だと受け取っているわ。
王妃という立場をお飾りだからと何もせずに過ごす事は私には出来なかった。
そんな事をしたら、デイビッド殿下に笑われてしまうもの」
ここでデイビッド殿下の話を出す事は陛下には相談済みだ。
陛下は私に全てを任せてくれた。
…意外と嫉妬深いので、根回しは重要だ。
エリザベート様は言葉にならないようだ。
デイビッド殿下の話は彼女には弱点だろう。…だってそのせいで私を恨んでいたのだから。
「まさか貴女がデイビッド殿下の考えを、そうやって踏みにじるような事を言うとは思っていなかったわ。
貴女は淑女の鏡と言われる程の女性だし、きっと王妃らしい王妃になれたでしょうね。
でも、この国の王妃には相応しくないなかったわ」
「今は!今は陛下のお話をしているのです!妃陛下の理想はわかりました。
その事を陛下が認めている事もです。
しかし、この国の王妃としての役割はそれだけではありません!妃陛下は1番大切な事をお忘れなのではないですか?
…お飾りには出来ない事があるでしょう?」
とエリザベート様は意味ありげに微笑んだ。
…ふん。どうせ世継ぎの事を言っているんでしょう?彼女の言いたい事ぐらい、想像はついている。
おあいにく様。…何の為に1ヶ月待ったと思ってるのよ。
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