32 / 38
第32話
しおりを挟むすると、近衛騎士がワラワラと入室してきたかと思えば、サーチェス公爵とエリザベート様を取り囲んだ。
「な!なんだ!お前達は!」
と先程の怒りのままに怒号を浴びせるサーチェス公爵と、大柄な男達に囲まれてすっかり怯えてしまったエリザベート様。
私もその様子に驚き、隣の陛下に視線をやると、目が合った。
そして、陛下は私に微笑むと、今度は厳しい顔をしてわぁわぁと騒いでいるサーチェス公爵に視線を投げた。
「サーチェス公爵。隣国よりヘリッジ公爵の脱税の件についてお前達にも話を聞きたいと書状が来ている」
と陛下が言うと、
「話を聞くだけで、この物々しさはなんですか!これじゃあ、まるで罪人だ!」
とサーチェス公爵は怒りを露にした。
続けて陛下は、
「あ、そうそう。それとヘリッジ公爵と共謀した詐欺罪で逮捕…という事らしい。
…罪人のようなのではなく、お前は罪人なんだよ、サーチェス公爵。
隣国での処遇によってこちらもお前の身の振り方を考えさせてもらうとするよ。
まぁ、きっと向こうで処罰が言い渡されるだろうがな。おい、もう話は済んだ。2人を連れて行け」
と近衛に合図をした。
近衛に捕まったサーチェス公爵は、
「詐欺なんて、私は知らん!あいつが勝手にやったことだ!知らん!知らん!離せ!触るな!」
と暴れているが、近衛にそんなものが通用する筈もなく、引っ張って連れて行かれた。
それを見て、真っ青になっているエリザベート様に近衛が触れようとするも、エリザベート様は震える手でその手を叩き落とした。
「私はエリザベート・サーチェスです。自分の足で歩けます」
と弱々しい声ながらも毅然とした態度で近衛と共に扉に向かう。
あと少しで扉…という所でエリザベート様は振り返り、私に向かって、
「私は貴女がずっと大嫌いだった。
私より勉強も出来ないし、マナーだって私程洗練されていなかった。なのにデイビッド殿下は貴女を欲した。
彼の目は1度も私を見てくれなかった。
…陛下も同じ。あの馬鹿な女に入れあげた時には、ざまぁみろと思ったわ。
あんな女、だれからも王族として認められない。陛下も一緒に不幸になれば良い。私を認めなかった罰だと、そう思った。
貴女が『お飾りの王妃』に選ばれた時には手を叩いて喜んだわ。ジュネ公爵には少し同情したけど、貴女が不幸になるなら、それで良いと思った。
貴女も私と同じ様に、パートナーから目を向けられない惨めさを味わえば良いと思った。
それなのに…貴女はいつも幸せそう。何故か陛下にも大切にされていたし…。
私は誰にも愛されていないというのに!不公平よ!貴女からの手紙に『お幸せに』と書いてあったわ。…その時に思ったの。貴女なんて死ねば良いのにって!」
と涙を流しながら、最後はまるで叫ぶように声を上げた。
近衛がその態度に、取り押さえようとするのを私は手で制して。
「…陛下は貴女と結婚していても…例えセリーナを愛して貴女をお飾りの王妃として扱っても、貴女を蔑ろにする事はなかったわ。
陛下はちゃんと、貴女を王妃として敬い、そのように扱ったでしょう。
でも、その道を選ばなかったのは、貴女。そして、この道を選んだのは私自身よ」
と私が言うと、エリザベート様は嗚咽しながら、その場に泣き崩れた。
84
あなたにおすすめの小説
【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜
桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」
私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。
私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。
王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした…
そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。
平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか?
なので離縁させていただけませんか?
旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
あなたが幸せになるために
月山 歩
恋愛
幼馴染の二人は、お互いに好きだが、王子と平民のため身分差により結婚できない。王子の結婚が迫ると、オーレリアは大好きな王子が、自分のために不貞を働く姿も見たくないから、最後に二人で食事を共にすると姿を消した。
全てがどうでもよくなった私は理想郷へ旅立つ
霜月満月
恋愛
「ああ、やっぱりあなたはまたそうして私を責めるのね‥‥」
ジュリア・タリアヴィーニは公爵令嬢。そして、婚約者は自国の王太子。
でも私が殿下と結婚することはない。だってあなたは他の人を選んだのだもの。『前』と変わらず━━
これはとある能力を持つ一族に産まれた令嬢と自身に掛けられた封印に縛られる王太子の遠回りな物語。
※なろう様で投稿済みの作品です。
※画像はジュリアの婚約披露の時のイメージです。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる