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第124話 Sideレニー
〈レニー視点〉
「デボラ落ち着いて」
なんて言いながら、僕の方が心臓がバクバクと音を立てていた。
さっきのデボラの発言……「今日から致します」を思い返すとニヤニヤしてしまう。
今、そんなことで喜んでいる場合でないことは百も承知だ。
兄さんの「妻を交換」っていう極めて馬鹿げた発言は許せないし、執事の今後の処分を考えると頭が痛い。それにさっきのケインとかいう男……。兄さんの言葉から察するに彼は男娼だろう。じゃなきゃ『仕事だから仕方ない』などというはずがない。アリシアが男娼を買っているなんて正直驚いたが、ショックかと訊かれれば『いや、全然』と僕は答えるだろう。
そんな自分にも驚いた。今愛しているのがデボラだとはいえ、アリシアの不貞にもう少し動揺するのかと思っていた。しかし今はマドリー夫人の社交クラブのことをデボラに問い質したい気持ちの方が勝っている。
気にならないと言えば嘘になる。……しかし、デボラがそんなことをするはずないと信じてもいる。もちろんさっき睨まれたし。
立ち上がったデボラの手をそっと握る。彼女の拳を握ると、その手は少し震えていた。随分と怒っているようだ。
彼女は隣に座ったままの僕に視線を向けた。
「デボラ、兄さんの言うことに耳を貸さなくていい」
僕がそう言うと、デボラは少しだけホッとしたような表情を浮かべた。僕はそのまま兄さんと視線を合わせた。
「兄さん。アリシアの浮気も、そちら二人の都合もハルコン侯爵家も、僕たちにはどうでも良い話だ。陛下や殿下が何と言ってるかなんて、関係ない。アリシアと離縁するなら、すればいい。それすらも僕にはどうでもいいんだ。そんな馬鹿げた話しかしないなら、僕たちは失礼するよ。新しいパートナーなら、他をあたってくれ」
僕はデボラの手を握ったまま、自分も立ち上がった。
兄さんは僕たちを見上げると眉をキュッと寄せ不快そうにため息をついた。
「ハルコン侯爵家だぞ?デボラにも良い話だと思うがな。そんなにブラシェール伯爵領が大切なら、金を出そう。いくら欲しい?」
「兄さん……いつからそんな人間になったんだ?それに何故デボラに執着する?」
僕は兄さんを見下ろしながら何だか悲しくなってきた。別に特別仲が良い兄弟とは思っていなかったが、尊敬出来る人間だと思っていたのに。
僕の手の中にあるデボラの手がまだ怒りで震えていた。
「クラッド様。お金の問題でも爵位の問題でもありません。……私は約束を守らない人間になりたくないのです。ブラシェールの領民にも、そしてレニー様にも」
そう言ってデボラは僕の方に顔を向けた。
「私は結婚する時にレニー様と生涯を共にすると誓いました。── レニー様、もう帰りましょう。私達の家に」
僕は心が温かくなる。結婚当初、不誠実な行いばかりだったこんな僕に、デボラは神に誓った約束を守ると言ってくれた。それだけで泣きそうになるほど嬉しい。
「……そうだな、帰ろう。僕らの家に」
僕は改めてキュッとデボラの手を握り直す。
「馬鹿な……。見す見すハルコン侯爵夫人の座を蹴って伯爵夫人で甘んじるなど。せっかくの君の才能を無駄にするとは」
兄さんは呆れたように首を緩く振った。
「デボラ落ち着いて」
なんて言いながら、僕の方が心臓がバクバクと音を立てていた。
さっきのデボラの発言……「今日から致します」を思い返すとニヤニヤしてしまう。
今、そんなことで喜んでいる場合でないことは百も承知だ。
兄さんの「妻を交換」っていう極めて馬鹿げた発言は許せないし、執事の今後の処分を考えると頭が痛い。それにさっきのケインとかいう男……。兄さんの言葉から察するに彼は男娼だろう。じゃなきゃ『仕事だから仕方ない』などというはずがない。アリシアが男娼を買っているなんて正直驚いたが、ショックかと訊かれれば『いや、全然』と僕は答えるだろう。
そんな自分にも驚いた。今愛しているのがデボラだとはいえ、アリシアの不貞にもう少し動揺するのかと思っていた。しかし今はマドリー夫人の社交クラブのことをデボラに問い質したい気持ちの方が勝っている。
気にならないと言えば嘘になる。……しかし、デボラがそんなことをするはずないと信じてもいる。もちろんさっき睨まれたし。
立ち上がったデボラの手をそっと握る。彼女の拳を握ると、その手は少し震えていた。随分と怒っているようだ。
彼女は隣に座ったままの僕に視線を向けた。
「デボラ、兄さんの言うことに耳を貸さなくていい」
僕がそう言うと、デボラは少しだけホッとしたような表情を浮かべた。僕はそのまま兄さんと視線を合わせた。
「兄さん。アリシアの浮気も、そちら二人の都合もハルコン侯爵家も、僕たちにはどうでも良い話だ。陛下や殿下が何と言ってるかなんて、関係ない。アリシアと離縁するなら、すればいい。それすらも僕にはどうでもいいんだ。そんな馬鹿げた話しかしないなら、僕たちは失礼するよ。新しいパートナーなら、他をあたってくれ」
僕はデボラの手を握ったまま、自分も立ち上がった。
兄さんは僕たちを見上げると眉をキュッと寄せ不快そうにため息をついた。
「ハルコン侯爵家だぞ?デボラにも良い話だと思うがな。そんなにブラシェール伯爵領が大切なら、金を出そう。いくら欲しい?」
「兄さん……いつからそんな人間になったんだ?それに何故デボラに執着する?」
僕は兄さんを見下ろしながら何だか悲しくなってきた。別に特別仲が良い兄弟とは思っていなかったが、尊敬出来る人間だと思っていたのに。
僕の手の中にあるデボラの手がまだ怒りで震えていた。
「クラッド様。お金の問題でも爵位の問題でもありません。……私は約束を守らない人間になりたくないのです。ブラシェールの領民にも、そしてレニー様にも」
そう言ってデボラは僕の方に顔を向けた。
「私は結婚する時にレニー様と生涯を共にすると誓いました。── レニー様、もう帰りましょう。私達の家に」
僕は心が温かくなる。結婚当初、不誠実な行いばかりだったこんな僕に、デボラは神に誓った約束を守ると言ってくれた。それだけで泣きそうになるほど嬉しい。
「……そうだな、帰ろう。僕らの家に」
僕は改めてキュッとデボラの手を握り直す。
「馬鹿な……。見す見すハルコン侯爵夫人の座を蹴って伯爵夫人で甘んじるなど。せっかくの君の才能を無駄にするとは」
兄さんは呆れたように首を緩く振った。
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