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第132話 Sideレニー
〈レニー視点〉
「アリシアが?」
「あぁ。今王宮はその話題で持ち切りだ」
早朝、皇太子殿下の帰国が決まったからと呼び出しを受けた僕が騎士団に顔を出した瞬間、ギルバートから耳打ちをされるように言われた言葉に僕は絶句していた。
「本気だったのか……」
「ん?何だ?お前何か知ってるのか?」
無意識に呟いた言葉にギルバートが素早く反応するが、良く聞き取れなかったようだ。僕は適当に「いや、別になんでもない」と誤魔化した。
今、アリシアは皇太子殿下と共に居るという。しかもここ、王宮で。
昨晩、啖呵を切って家を出たアリシアの言葉を正直信じていなかった。
本気で皇太子殿下と……?そう考えて思わず首を横に振る。まさか、そんなこと……そう思っていた、兄さんが騎士団の詰所に顔を出すまでは。
「アリシアのサインは貰った。このまま教会に提出に行けば離縁は成立だ」
「兄さん……アリシアが王宮に居るって……」
「居るよ、皇太子殿下とな。何なら自分の目で確かめたらいい」
兄さんは少し馬鹿にしたように鼻で笑うと、僕に離縁証明書を見せた。
僕はそれに目を通す。確かに二人のサインがあった。
「アリシアは本当に皇太子殿下と隣国へ?」
書類を兄さんに返しながら僕は尋ねた。側妃になると言うが……王宮で働く侍女たちにも皇太子殿下がそんな風に声を掛けていたことを僕は知っている。もちろん兄さんも。
「そのつもりだろ。僕にもそうはっきりと言っていたよ」
「皇太子殿下もそのつもりなのか?」
兄さんの言葉に僕はまだ信じられない気持ちで聞き返す。
「皇太子殿下は僕のパートナーをデボラだと思っていたからな。離縁証明書を持って行った僕に驚いたと同時に謝ってたよ。……最初に嘘をついたのは僕の方だからな。僕も謝罪してお互い様ってことでチャラだ」
兄さんは軽くそう言った。僕はデボラの名前が出たことで、昨日の兄さんの馬鹿な提案を思い出し、イラッとした。
「兄さん、昨日の話だけど── !」
思わず大きな声を出した僕に、兄さんはしかめっ面をした。
「チッ……分かってるよ。まさかお前がデボラを手放したがらないとはな」
「デボラは兄さんが選んだんだろ?僕に合うと思ってくれていたんじゃないのか?」
「正直……伯爵位のご令嬢であまり虚栄心が高くない女性なら誰でもいいと思っていたんだ。まさかデボラがあんなに賢く献身的な女性だとは思っていなかった……お前とアリシアを先に結婚させていれば良かったよ」
「兄さん……」
兄さんはそう言って肩を竦めた。
「まぁ……あの時は僕も『愛さえあれば幸せだ』と思っていたんだけどな。人生そんなに甘くないと気づくのに少し時間がかかってしまった」
「社交クラブの件だけど── 」
兄さんは僕の言葉に寂しそうに笑った。
「正直、アリシアが僕に満足していないのは分かっていたけど、あんな大胆なことをするとは思っていなかったよ」
「社交クラブが男娼の斡旋場所だったとはな」
僕もそう言って目を伏せた。誰がその場所に通っているのかはデボラにも尋ねることはできなかったが……既婚者もきっと多いことだろう。
僕の心を読んだかのように兄さんは言った。
「マドリー夫人は……その……ご主人が年齢的にも不能になってしまったらしいんだ。あの社交クラブは公爵も公認らしい」
「……それぞれの夫婦の事情は分からないが……兄さんが後悔しないのなら、それでいい。ただし、デボラのことは諦めてくれ」
僕はきっぱりとそう言った。兄さんは小さく頷く。
「まぁ……今度こそハルコン侯爵家のことを考えて相手を選ぶことにするよ」
兄さんはそう言って僕に背を向けながら「ただ、デボラを譲る気になったら何時でも言ってくれ」と冗談っぽく僕に言った。僕は去って行く兄さんの背中を「絶対ない!」と言って睨みつけた。
「アリシアが?」
「あぁ。今王宮はその話題で持ち切りだ」
早朝、皇太子殿下の帰国が決まったからと呼び出しを受けた僕が騎士団に顔を出した瞬間、ギルバートから耳打ちをされるように言われた言葉に僕は絶句していた。
「本気だったのか……」
「ん?何だ?お前何か知ってるのか?」
無意識に呟いた言葉にギルバートが素早く反応するが、良く聞き取れなかったようだ。僕は適当に「いや、別になんでもない」と誤魔化した。
今、アリシアは皇太子殿下と共に居るという。しかもここ、王宮で。
昨晩、啖呵を切って家を出たアリシアの言葉を正直信じていなかった。
本気で皇太子殿下と……?そう考えて思わず首を横に振る。まさか、そんなこと……そう思っていた、兄さんが騎士団の詰所に顔を出すまでは。
「アリシアのサインは貰った。このまま教会に提出に行けば離縁は成立だ」
「兄さん……アリシアが王宮に居るって……」
「居るよ、皇太子殿下とな。何なら自分の目で確かめたらいい」
兄さんは少し馬鹿にしたように鼻で笑うと、僕に離縁証明書を見せた。
僕はそれに目を通す。確かに二人のサインがあった。
「アリシアは本当に皇太子殿下と隣国へ?」
書類を兄さんに返しながら僕は尋ねた。側妃になると言うが……王宮で働く侍女たちにも皇太子殿下がそんな風に声を掛けていたことを僕は知っている。もちろん兄さんも。
「そのつもりだろ。僕にもそうはっきりと言っていたよ」
「皇太子殿下もそのつもりなのか?」
兄さんの言葉に僕はまだ信じられない気持ちで聞き返す。
「皇太子殿下は僕のパートナーをデボラだと思っていたからな。離縁証明書を持って行った僕に驚いたと同時に謝ってたよ。……最初に嘘をついたのは僕の方だからな。僕も謝罪してお互い様ってことでチャラだ」
兄さんは軽くそう言った。僕はデボラの名前が出たことで、昨日の兄さんの馬鹿な提案を思い出し、イラッとした。
「兄さん、昨日の話だけど── !」
思わず大きな声を出した僕に、兄さんはしかめっ面をした。
「チッ……分かってるよ。まさかお前がデボラを手放したがらないとはな」
「デボラは兄さんが選んだんだろ?僕に合うと思ってくれていたんじゃないのか?」
「正直……伯爵位のご令嬢であまり虚栄心が高くない女性なら誰でもいいと思っていたんだ。まさかデボラがあんなに賢く献身的な女性だとは思っていなかった……お前とアリシアを先に結婚させていれば良かったよ」
「兄さん……」
兄さんはそう言って肩を竦めた。
「まぁ……あの時は僕も『愛さえあれば幸せだ』と思っていたんだけどな。人生そんなに甘くないと気づくのに少し時間がかかってしまった」
「社交クラブの件だけど── 」
兄さんは僕の言葉に寂しそうに笑った。
「正直、アリシアが僕に満足していないのは分かっていたけど、あんな大胆なことをするとは思っていなかったよ」
「社交クラブが男娼の斡旋場所だったとはな」
僕もそう言って目を伏せた。誰がその場所に通っているのかはデボラにも尋ねることはできなかったが……既婚者もきっと多いことだろう。
僕の心を読んだかのように兄さんは言った。
「マドリー夫人は……その……ご主人が年齢的にも不能になってしまったらしいんだ。あの社交クラブは公爵も公認らしい」
「……それぞれの夫婦の事情は分からないが……兄さんが後悔しないのなら、それでいい。ただし、デボラのことは諦めてくれ」
僕はきっぱりとそう言った。兄さんは小さく頷く。
「まぁ……今度こそハルコン侯爵家のことを考えて相手を選ぶことにするよ」
兄さんはそう言って僕に背を向けながら「ただ、デボラを譲る気になったら何時でも言ってくれ」と冗談っぽく僕に言った。僕は去って行く兄さんの背中を「絶対ない!」と言って睨みつけた。
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