愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

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第142話

「アリシア……いったい何をしてるんだ」

アリシア様は今だに後ろ手に縛られたままだ。
店の裏に転がしたままにしているわけにもいかず、ブラシェール伯爵家に連れてきていた。

レニー様はイヤリングを王宮へ持って行った。しかし、この後アリシア様をどうすれば良いのか分からず、私達はクラッド様を呼んだ。

クラッド様は床に座らされたアリシア様を腕を組んだまま見下ろしながらため息交じりだ。

アリシア様は私とレニー様の質問に何も答えてくれなかった。今は我が家に来たクラッド様を静かに睨みつけている。

「……誰も助けてくれないから、自力で逃げ出してきたのよ」

クラッド様と睨み合ったまま、アリシア様はやっと口を開いた。


レオナによれば、彼女を捕まえ縛った後は私のことを口汚く罵っていたらしい。その言葉を聞きたくなかったレオナはアリシア様の口に乱暴に布を突っ込んでいた。

レオナはアリシア様を知っていた。もちろんあの社交クラブの客だったアリシア様を知らないわけはない。私と社交クラブに連れ立ってやって来た事も覚えていたが、友人だとは思わなかったという。彼女に何故かと尋ねると『親しそうには全く見えませんでした』とレオナは苦笑した。

一方のレニー様は、私達が店に駆けつけ放火の犯人だとアリシア様を目前に連れてこられた時には様変わりした彼女に腰を抜かすほど驚いたという。そして同時に愕然とした……と。
武器などを持っていないか調べていた時に、ポケットのイヤリングに気付き、アリシア様に『何故?どうして?』と口の布を外した彼女に尋ねてみても、何も答えてくれなかった。……黙秘するということらしいと肩を竦め、レニー様は王宮へと急いだ。


そして今は我が家の応接室。

クラッド様を睨みつけるアリシア様の瞳には恨みが込められているようだ。

「どうやって?」

あくまでもクラッド様は冷静に話を進めていくつもりらしい。しかしその声色にはアリシア様に呆れた様子がありありと浮かぶ。

「国境を越えた瞬間捕まえられて、リカルド様とは別々の馬車に乗せられたわ。何度もレニーの名を呼んだけど、無視された。何処かに連れて行かれる途中でお腹が痛いと仮病を使って逃げ出したの。リカルド様が捕まえられた理由はそこまでの道中、見張りに聞いて何となくわかったわ。だから私は関係ないと言ったのに── 」

アリシア様はそう言って唇を噛み締めた。

彼女も急にあちらの事情に巻き込まれて怖かったのだろう。その状況には同情するが、そこから何故店に火をつけるという凶行に至ったのか。その理由は今のところ全く分からない。

「君がリカルド様について行くことに決めたんだろう?自業自得じゃないか」

「皇帝になると聞いていたから一緒に行ったのよ!犯罪者だと知っていたら、行かなかったわ!」

アリシア様が声を荒げる。しかしクラッド様は煩そうに眉を潜めただけだった。

「愛していたんじゃないのか?」

「馬鹿言わないで!私は私に相応しい地位をくれる人を選んだだけよ!」

……その理屈でいくとアリシア様は幽閉されるに相応しい人物ということになるのだが……もちろん私は口を挟まずに、二人の話し合いを見守った。
店のことになった時だけ口を開こう。下手にこれに巻き込まれるのは御免だった。

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