愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

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第145話

「レオナ!何をしているの?」

「デボラ様!おはようございます!」

レオナは売り物であるジャムを店の前に出したテーブルに並べ、そこに小さな値札を置いているところだった。

私がそこに近付くと、レオナは笑顔で答えた。

「今朝早くから大工さんが修繕に来てくれて。お話を聞いたら、五日ぐらいで営業再開できるとか。でも……勿体ないじゃないですか、五日も休んじゃうのって。ジャムはこうして無事でしたから、それなら道行く人に売ったらいいんじゃないかと思って」

レオナはニコニコと笑いながら、ジャムを並べる手を止めない。

「昨日は夜遅くまで大変だったのに……ゆっくり休んでも良かったのよ?」

「……私、このお店が好きなんです。うちの商品を口にした皆が笑顔になる瞬間を見ると、私まで幸せな気分になれるんです。……だから悔しくて」

レオナはほんの少し俯いたが、パッ!と顔を上げた。

「きっとお客様も五日も休んじゃうと残念に思うんじゃないかなって。だから……。ダメでしょうか?」

私の反応を窺うようにレオナは私をチラリと見た。

「ダメなわけないじゃない。きっとうちの味を求めて来たお客様に喜んでいただけるわ。でも無理はしないでね。昨日は放火犯まで捕まえてくれて、大活躍だったんだから」

私は微笑んでレオナの肩に手を置いた。

「前の店でもヒステリックな女性を宥めたりすることがありました。実は足も早いし力もありますので」

レオナはおどけて力こぶを作ってみせた。可愛らしい制服に些か不釣り合いな感じはするが、レオナの明るさに救われる。

「そう言えば……良く直ぐに火が上がったって気付いたわね」

私の質問にレオナははにかんだ。

「実は……スイーツの試作品を作っていたんです」

「試作品?それは?」

彼女は照れながら言った。

「ポセットを果物のピューレで作れないかなって……色々試してみていたんです」

アリシア様が「甘くいい匂いがした」と言っていたことを思い出す。なるほど……厨房に居たから裏手に放たれた火にいち早く気づくことが出来たのかと私は納得した。

そしてちょうど見回りの護衛がやって来て……偶然が重なったとはいえ、これぐらいの被害で済んだのは不幸中の幸いと言えるだろう。

「それで試作品はどう?上手く作れた?」

「それがまだ……お客様に出せる程のものにはならなくて。でも、諦めません!もし納得出来るものが完成したら、デボラ様に一番に試食していただきます!」

レオナはずいぶんと笑うようになった。同情は要らないと言った彼女だ。きっと仕事で頑張って、私から認められたいのだろう。

「楽しみにしてるわ。── 本当にありがとう」

私はやはり彼女にこの店を任せたことは間違っていなかったのだと、改めて自分の人を見る目に自信を持った。

すると執事がカゴに入ったたくさんのジャムの瓶を持って現れた。

「運んで来ました。並べたらいいですか?」


執事はレオナの行動を見て、気を利かせてくれたようだ。力持ちの執事であれば一度にたくさんのジャムが運べるというものだ。

「え?運んでくださったのですか?ありがとうございます」
レオナは笑顔で礼を言った。

執事はカゴの中からジャムの瓶を取り出し、レオナに倣ってテーブルへ並べていく。
しかし、如何せん彼の手は大きい。並べたそばから隣の瓶を倒し、小さく書かれた値札の紙を吹き飛ばしていく。

「ちょ、ちょっと!」

レオナが慌てると、執事は大きな体を小さくして謝った。

「すみません……不器用なもので」

不器用とか、そういう問題ではなさそうだが、そんな彼を見てレオナは声を出して笑った。

「アハハ!ならば並べるのは私に任せて下さい。お店の奥に昨日焼いたクッキーもあるで、良かったらそれも持って来ていただけますか?」

「は、はい!」

執事は大きく返事をして店の方へと戻っていく。私はその大きな背中を笑顔で見送ったが、小走りに走り去る彼の耳が赤く染まっていたのを見逃さなかった。

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