愛人を作ってもいいと言ったその口で夫は私に愛を乞う

初瀬 叶

文字の大きさ
163 / 165

第163話

唖然としている私とは対照的にレニー様は清々しい程あっさりと語った。

「更に言えば僕だけじゃなく、なるべく妻帯者には遠征を控えるように計画しているんです。夫婦は側に居るべき……それは僕も貴殿と同じ考えです。副団長ですし、それぐらいは口を出せる立場なので」

『職権乱用』そんな言葉が私の心に渦を巻く。独身の近衛から反発を受けるのではないかしら?

私が目をパチパチと瞬かせると、レニー様は笑顔で言った。

「デボラ心配しなくていい。妻帯者が遠征すると、浮気を心配する奥方も少なからず居るんだ。ご夫人方は僕のお陰だと喜んでくださってるよ」

「確かに……まぁ、地方の娼館なんかはその手の騎士を相手にしている所も多いと聞くがな……」

兄もレニー様に同意するように呟いた。しかし、羽を伸ばすにはもってこいの場所かもしれないし、それを楽しみにしていた団員もいるのではないかと思うと、何となく複雑な心境だ。

「皆様の不満がなければ……良いかもしれませんね」

私は曖昧に言葉を濁す。

「デボラ安心して。僕は絶対に浮気などしないと誓うから」

レニー様は私の手を握るとキラキラした瞳で私にそう言った。
身内の前でいちゃつくのは些か恥ずかしく、私は赤面し、しっかりと握られた手を引き抜こうとするが、レニー様の力は思いの外強く、結局されるがままだ。

「……仲が良さそうで安心したよ」

兄の苦笑に、私はますます顔を赤くしたのだった。



レニー様が甘々で困る。使用人達の生暖かく見守る視線がむず痒い。

「デボラ、明日観劇に行かないかい?」
「デボラ、庭に薔薇園を作ろうと思うんだ。ほら、君は花が好きだろう?赤い薔薇の花言葉はずばり『貴女を愛しています』だしな」
「デボラ、そう言えば美味しい魚が食べたいと言っていたよね?新しく出来たレストランが美味い魚料理を出すらしい。どう?今夜行かない?」

一日に何度彼は私の名を呼ぶのだろう。

「レニー様、毎日毎日私に何かプレゼントしてくださらなくていいのですよ?」

「プレゼント?別に何か贈り物をしているわけではないのだが……?」

「私のことを考えてくださる時間そのものが、私にとってはレニー様からの贈り物です。それに何もせずにゆっくり二人で過ごす時間、それも大切な宝物になりますよ」

私がそう言えば、レニー様は少しだけ情けない顔で私を見た。

「迷惑……じゃないよな?」

「もちろんです」

私がそう笑顔で答えると、ホッとした表情で彼は私の肩にそっと額をつけた。

「好きすぎて、どうしていいか分からないんだ」

名実ともに本物の夫婦になったというのに……彼は何故か不安に駆られることが多いようだ。
私は彼の柔らかな髪をそっと撫でた。

「私も大好きですよ。だから安心してください」

彼は無言で何度もウンウンと頷いた。肩に伝わるレニー様の額の熱が私を温めていく。

結婚してもうすぐ一年。あの初夜から彼がこんな風になるなんて、誰が予想しただろう。そして、私も。こんな風に誰かを愛することが出来るなんて私でも想像していなかった。

「ずっと側に居てくれる?」

大きな体を私に預けた彼が小さく不安気な声で尋ねる。

「ずっと側にいます。この命が尽きるまで」

私は彼の髪をそう言って撫で続けた。

あなたにおすすめの小説

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

愛していると気づいたから、私はあなたを手放します

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
愛しているのに、触れられない。 幼なじみの夫は、こう言った。 「もう、女性を愛することはできない」と。 それでも「君がいい」と言い続ける彼と、 子どもを望む現実の間で、私は追い詰められていく。 だから決めた。 彼のためにも、私は他の誰かを探す。 ――そう思ったのに。 なぜあなたは、そんな顔で私を追いかけてくるの? これは、間違った優しさで離れた二人が、 もう一度、互いを選び直すまでの物語。 ※表紙はAI生成イラストを使用しています。

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。