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人質救出
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ティナは教会を最後にするルートで街の端から歩きまわりユウキを探す。
時折、露店の店主に見慣れない変わった服装を着た少年を見なかったかと聞くが、皆首を横に振るだけであった。
(ご主人様は本当に何処にいるのだろうか)
不安の波が押し寄せてくる。
不安な心を抑えようとギュッと胸を掴みかけた時、指に痛みを感じ顔をしかめる。
「あ、アンタ!私を殺す気!?」
フレミアが爪楊枝片手に警戒心を剥き出しにしていた。
「ご、ごめん……フレミア様がいたの忘れてた」
「忘れてたで握り潰されたらたまったもんじゃないわよ!」
フレミアはチクリっとティナの服の先を爪楊枝で刺す。
「痛っ」
ティナが顔をしかめるとフレミアは言う。
「次に変な真似したら、このぷっくりと浮かんでる大事な部分が貫通する事になるからね!」
そう言うとポケットの中に入り込んでしまった。
ティナは謝ると聞き込みの続きを始める。
「あー、昨日この辺で見たけどね……」
ミミル達が働いているというマッサージ店の近くで証言を得た。
その付近ではいくつかの目撃情報が入った。けれどそれらを最後に目撃情報が全く無くなる。
「どういう訳かココの周辺で目撃情報が無くなるとはね……」
路地には人が少なく、フレミアが周りを見ながらティナの方へと居場所を変える。
「あ、猫への警戒はしてなさいよ。猫が襲って来たら即猫斬も可だからね!」
「そこは不可ですが警戒はする」
ティナは動物が苦手である。
嫌、正確には過去の経緯から獣人が嫌いである。触れないなどのちょっぴり怖いと言う乙女な感情ではなく、敵意を向けられれば即斬りたくなるような怨恨的な嫌いなのである。
獣人の戦闘スタイルの中に獣化というのがある。
その姿で仲間が殺されるのを見たティナにとっては仕方の無い感情なのかもしれない。
ユウキの能力により身体の傷を治され、求められる事で心の癒しは得て来ているとはいえ過去の忌々しい記憶がなくなる訳ではないのだ。
マレーネ程、嗚咽を漏らしたり狂う手前程に身体を掻きむしり自分を傷付ける事もない。
あるのは次への準備。
倒し仇を打つという強い思い。
また、おかしな感情へと流され自分をコントロール出来ていないのにティナは気づき心の中でダメだなと呟く。
(今考えるべきは過去の仲間の仇討ちじゃない。敵は教会の人間……第一優先はユウキを見つける事。そして教会の人間を倒す事)
ユウキがミミルと会ったと言うマッサージ店の前で立ち止まる。
「……中にいるか一応調べる?」
「一応見ておきましょう。薬売りを追ってたなら隣の家も怪しい所でしょうけど……樽の中身が空だったから警戒してるでしょうしね。んぎゃっ!?きゅ、急に掴むんじゃないわよ!」
「後方、上の方から見られてる……」
「なんですって!」
ティナは振り返ろうと手のひらから抜け出そうとするフレミアをポケットに押し込むとゆっくりとマッサージ店に顔をのぞかせ、店員が気づいて歩いてくるのを見て手を出し大丈夫だと意志を示してから外に出る。
来た道を戻ると出口間際で監視ししていたと思われる大男とすれ違う。
「なんだ店員候補か……それにしても惜しいな。客として着いてやってもいいのによ」
と、わざと聞こえるように呟やかれる。
大通りに出るとティナは背後に気配を感じた為、人混みに紛れて気配を消す。
「ちっ、あの娘を次の相手にしたかった。ボスに頼みたかったのに。見慣れないから冒険者?」
気配を消し人混みに紛れて大男の背後にティナは 回り込んでいた。
「少年の次は取り逃した娘、運が悪い。運を上げるような女抱きたい。ボスに頼もう。……そうだ。ボスに隠れてあの見の見えない娘を食べちゃおう。あの娘、俺に優しいからきっと気がある。よし、そうしよう」
大男はぐるりと反転すると路地裏に戻る。ティナは気配を消して背後について行く。
大男はどうやら監視していた場所ではなく、樽のあった対面の建物へと入っていくようだ。
鼻歌を歌いながらこの後のお楽しみについて妄想を膨らませているのだろう。
『ちょっと、危ないわよ!さっさと帰るわよ!ユウキがいないのなら用はないでしょ!』
「目が見えない少女を助ける」
『は、はぁ!?あんた冷静になりなさい!』
「それに狙われてるのはミミルの妹だと思う」
『分かってるわよ!けど、殺されるわけじゃなし。優先順位と今後の……』
ガチャ
目の前で扉を開ける音がする。すると中から可愛らしい声が聞こえてくる。
「こんにちはドーチンさんと……」
『気づかれた』
ティナとフレミアは言い争わないように選んでいた言葉を選んでいた思考を瞬時に戦闘モードに切り替える。
「お、オラ、おまえ好き!」
「きゃっ!」
ドーチンと呼ばれた大男がミミルの妹と思われる少女に覆い被さるように飛びつく。
「ドーチンさん何を……」
「く、ククルちゃん、そんな泣きそうな顔をしてもダメ。お、オラ、我慢してできない!」
「止めてください。こんな事したらコーエンさんに怒られますよ」
「ふへへ、大丈夫。オレアイツより強い!ククルちゃん、奪って……奪っ…痛てぇーよ!!死んじゃう!オラ、死んじゃう!!」
「えっ?」
ククルはドーチンの方向から飛び散る生暖かい嗅いだ事のある嫌な匂いに身体を震わせる。
「これでアンタは二度と女を襲えない」
「ぐ、ぎぎゃー!お、オラのおち……」
ティナはそのままドーチンの心臓辺りにナイフを突き立てる。
「これで襲う事も出来ない」
『あ、あんたエッグい事をするわね』
ティナはナイフに付着した血を死体の服で拭うとククルと呼ばれたミミルの思うとへ近づく。
「い、いや……来ない、あうっ」
「叫ばれると面倒」
一撃、首に手刀を落とすとククルが気絶する。
『容赦ないわね……で、どうすんのよ。コレ』
「運ぶ」
『何処にとは言わないけど……まぁ、起きたらパニックになりそうだし。姉のいる所に連れてった方がいいわよね』
フレミアはやっちまったものは仕方かないかと諦める。
(しっかし、こんなに危うい子だったなんてね。ユウキを早く見つけないとどんだけ暴走するか分かったものじゃないわ)
大事な時期なのだ。教会側に裏で売上を脅かす存在がいる事をバレないようにしなければならないのに、このまま関係者を助けたりしてたら足がつく。
タダでさえ、この大男はあのネズミ顔の男の直属の手下である。
昨日の樽からの少女疾走、この男とくれば薬に関わった関係者だと勘ぐられる。
少し考えれば、ミミルの妹がいなくなるのだ。ミミルも店に顔を出てないとバレれば、同じように居なくなっている周りが怪しいと勘づくはずである。
そうなれば後は目撃証言を追えばいいだけである。
特定は容易であろう。
(参ったわねー……少なくとも後三日は持たせたかったのに。とはいえ、殺ってしまったものはしょうがない。こんな大男を運び出すのは目立ってしょうがないだろう)
『……ぬぁあー!!ユウキのバカっ!こんな時に男手が居ないでどうすんのよ!』
フレミアは髪をガシガシと振り乱す。流石のフレミアも思い通りに行かなさ過ぎてストレスが溜まっていた。
『取り敢えず、出来るのとをするわよ!』
フレミアはティナに命令する。
『……仕方ない。事実が明るみになれば助かるだろうから囮を使うわよ』
「囮?」
『そうよ。このままだと予定よりも早く私達に検討がついてしまうわ。なら、罠を仕掛けるのよ。時間稼ぎのね』
フレミアはニヤリと笑う。
『隣に来るよく来る客でうってつけのがいるじゃない。強くて、知名度あるらしくて、教会と事を構えてもそこそこ時間を稼げるのが。まぁ、講習料として……ね』
「?」
ティナが理解していないのは好都合である。
『取り敢えず、この子を運んでからになるけどね。時間との勝負よ』
気絶したククルをティナはフレミアの指示通り、部屋にあったシーツで血を拭う。そして、布団で包み持ち出す準備をしていた。
肝心のフレミアはやる事があるからと作業中にどこかに行ってしまった。
(後は言われた通り……)
ティナは大男の腰にあった剣を抜き出すとナイフを抜いた胸に突き立てる。
『なるべく同じ所に突き立てなさい。後、争った雰囲気を出すためにそのまま部屋を荒らしといてね』
フレミアの指示通りに部屋を荒らした後、ククルを担ぎティナは廊下へと出ていく。
「気配はないから大丈夫」
ティナはゆっくりと小さいとはいえ自分とあまり変わらない少女を下の階へと運ぶ。
フレミアはティナが降りていったのを見計らって部屋に侵入する
隣から盗んで来たヌルヌルのオイルである。プレイに使う物ではなく、個人の所有物にあった物だ。
それをドーチン胸に刺さっている剣に少し垂らしておく。
『さて、残りは見つからないように処分よね』
フレミアが下に向かうとちょうどティナが樽にククルを入れた所だった。
『よし、準備OKね。ティナ、彼女の名前を出せば必ず来るから宜し……』
ティナはその人物を呼びに行こうとドアノブに手をかけようとした時、ガチャリッと向う側から取っ手が回った。
『ヤバっ!?なんで!?私の計算だと帰ってくるのは夕方のはずなのに』
フレミアは慌ててティナの胸ポケットに入り込む。
「……入ってきた瞬間に倒す」
『た、頼むわよ!』
開くドアの側に身を隠し完全に敵が入り切った所で襲う。
(いま!!)
ティナはナイフで教会の男を刺そうとする。
「危ないっ!」
「うおっ!」
隣にいた女が男を後ろに引きナイフを避けさせる。
転んだ教会の人間の横に居るのは女。しかも手枷と足枷に加えて首輪までしている犯罪者風の女である。
(教会に捕まったはずの女が男を助け……)
ティナは女の二つ髪が跳ねたように盛り上がっている頭の部分の耳と微かに見えた背後の尻尾を見つける。
(獣人種!!)
『ん?あのフードの下の顔って』
ティナが腰を下ろしナイフを構える。
「殺す!」
「戦う必要はない……と言っても無駄か。いい殺気だ。面白いから受けてやるよ」
獣人の女が首から下がっている膝下まである鎖を両手に持つ。
『ちょっ!落ち着きなさいにゃあ!?』
フレミアは喋ろうとしてその揺れと大迫力でぶつかり合った金属の火花に驚きポケットの中で尻もちをつく。
「獣人!!」
「なかなかやるね。けど、私も素早さには自信があって……ねぇ!!」
素早い前蹴りがティナの顎先を掠める。
『ぬにゃ!?』
フレミアは生きた心地がしない。
ポケットの端に鉄の足枷が掠めていったのだ。
ティナは下がりながらナイフを二つ投げる。女は顔に飛んで来たナイフを噛み止め、男の方に飛んだナイフを鎖を鞭のように扱い弾き飛ばす。
『じょ、冗談じゃないわよ!なんなのよ!この展開は!』
フレミアは慌ててポケットから抜け出すと二人から距離を取るように上に飛ぶ。
「妖精様がこんな所に何故?」
獣女はフレミアを見てティナを見る。
「話をしないか?少女よ」
「アタシには卑怯な獣と話をする気はない」
「仕方がないな……いくぞ」
獣女が腰を屈めた時、にゅっと手が伸びて首についた鎖を掴む手があった。
「二人とも止めろ!ティナもオレだよオレ」
「オレという教会の人間に知り合いな……ど」
鎖を掴んだ男が立ち上がり、いてててっ!と言いながらフードを脱ぐ。
「ティナ、フレミア、オレだよオレ!ユウキだ!」
フードの下から出てきたのは見知った顔であった。
『ユウキ!』
時折、露店の店主に見慣れない変わった服装を着た少年を見なかったかと聞くが、皆首を横に振るだけであった。
(ご主人様は本当に何処にいるのだろうか)
不安の波が押し寄せてくる。
不安な心を抑えようとギュッと胸を掴みかけた時、指に痛みを感じ顔をしかめる。
「あ、アンタ!私を殺す気!?」
フレミアが爪楊枝片手に警戒心を剥き出しにしていた。
「ご、ごめん……フレミア様がいたの忘れてた」
「忘れてたで握り潰されたらたまったもんじゃないわよ!」
フレミアはチクリっとティナの服の先を爪楊枝で刺す。
「痛っ」
ティナが顔をしかめるとフレミアは言う。
「次に変な真似したら、このぷっくりと浮かんでる大事な部分が貫通する事になるからね!」
そう言うとポケットの中に入り込んでしまった。
ティナは謝ると聞き込みの続きを始める。
「あー、昨日この辺で見たけどね……」
ミミル達が働いているというマッサージ店の近くで証言を得た。
その付近ではいくつかの目撃情報が入った。けれどそれらを最後に目撃情報が全く無くなる。
「どういう訳かココの周辺で目撃情報が無くなるとはね……」
路地には人が少なく、フレミアが周りを見ながらティナの方へと居場所を変える。
「あ、猫への警戒はしてなさいよ。猫が襲って来たら即猫斬も可だからね!」
「そこは不可ですが警戒はする」
ティナは動物が苦手である。
嫌、正確には過去の経緯から獣人が嫌いである。触れないなどのちょっぴり怖いと言う乙女な感情ではなく、敵意を向けられれば即斬りたくなるような怨恨的な嫌いなのである。
獣人の戦闘スタイルの中に獣化というのがある。
その姿で仲間が殺されるのを見たティナにとっては仕方の無い感情なのかもしれない。
ユウキの能力により身体の傷を治され、求められる事で心の癒しは得て来ているとはいえ過去の忌々しい記憶がなくなる訳ではないのだ。
マレーネ程、嗚咽を漏らしたり狂う手前程に身体を掻きむしり自分を傷付ける事もない。
あるのは次への準備。
倒し仇を打つという強い思い。
また、おかしな感情へと流され自分をコントロール出来ていないのにティナは気づき心の中でダメだなと呟く。
(今考えるべきは過去の仲間の仇討ちじゃない。敵は教会の人間……第一優先はユウキを見つける事。そして教会の人間を倒す事)
ユウキがミミルと会ったと言うマッサージ店の前で立ち止まる。
「……中にいるか一応調べる?」
「一応見ておきましょう。薬売りを追ってたなら隣の家も怪しい所でしょうけど……樽の中身が空だったから警戒してるでしょうしね。んぎゃっ!?きゅ、急に掴むんじゃないわよ!」
「後方、上の方から見られてる……」
「なんですって!」
ティナは振り返ろうと手のひらから抜け出そうとするフレミアをポケットに押し込むとゆっくりとマッサージ店に顔をのぞかせ、店員が気づいて歩いてくるのを見て手を出し大丈夫だと意志を示してから外に出る。
来た道を戻ると出口間際で監視ししていたと思われる大男とすれ違う。
「なんだ店員候補か……それにしても惜しいな。客として着いてやってもいいのによ」
と、わざと聞こえるように呟やかれる。
大通りに出るとティナは背後に気配を感じた為、人混みに紛れて気配を消す。
「ちっ、あの娘を次の相手にしたかった。ボスに頼みたかったのに。見慣れないから冒険者?」
気配を消し人混みに紛れて大男の背後にティナは 回り込んでいた。
「少年の次は取り逃した娘、運が悪い。運を上げるような女抱きたい。ボスに頼もう。……そうだ。ボスに隠れてあの見の見えない娘を食べちゃおう。あの娘、俺に優しいからきっと気がある。よし、そうしよう」
大男はぐるりと反転すると路地裏に戻る。ティナは気配を消して背後について行く。
大男はどうやら監視していた場所ではなく、樽のあった対面の建物へと入っていくようだ。
鼻歌を歌いながらこの後のお楽しみについて妄想を膨らませているのだろう。
『ちょっと、危ないわよ!さっさと帰るわよ!ユウキがいないのなら用はないでしょ!』
「目が見えない少女を助ける」
『は、はぁ!?あんた冷静になりなさい!』
「それに狙われてるのはミミルの妹だと思う」
『分かってるわよ!けど、殺されるわけじゃなし。優先順位と今後の……』
ガチャ
目の前で扉を開ける音がする。すると中から可愛らしい声が聞こえてくる。
「こんにちはドーチンさんと……」
『気づかれた』
ティナとフレミアは言い争わないように選んでいた言葉を選んでいた思考を瞬時に戦闘モードに切り替える。
「お、オラ、おまえ好き!」
「きゃっ!」
ドーチンと呼ばれた大男がミミルの妹と思われる少女に覆い被さるように飛びつく。
「ドーチンさん何を……」
「く、ククルちゃん、そんな泣きそうな顔をしてもダメ。お、オラ、我慢してできない!」
「止めてください。こんな事したらコーエンさんに怒られますよ」
「ふへへ、大丈夫。オレアイツより強い!ククルちゃん、奪って……奪っ…痛てぇーよ!!死んじゃう!オラ、死んじゃう!!」
「えっ?」
ククルはドーチンの方向から飛び散る生暖かい嗅いだ事のある嫌な匂いに身体を震わせる。
「これでアンタは二度と女を襲えない」
「ぐ、ぎぎゃー!お、オラのおち……」
ティナはそのままドーチンの心臓辺りにナイフを突き立てる。
「これで襲う事も出来ない」
『あ、あんたエッグい事をするわね』
ティナはナイフに付着した血を死体の服で拭うとククルと呼ばれたミミルの思うとへ近づく。
「い、いや……来ない、あうっ」
「叫ばれると面倒」
一撃、首に手刀を落とすとククルが気絶する。
『容赦ないわね……で、どうすんのよ。コレ』
「運ぶ」
『何処にとは言わないけど……まぁ、起きたらパニックになりそうだし。姉のいる所に連れてった方がいいわよね』
フレミアはやっちまったものは仕方かないかと諦める。
(しっかし、こんなに危うい子だったなんてね。ユウキを早く見つけないとどんだけ暴走するか分かったものじゃないわ)
大事な時期なのだ。教会側に裏で売上を脅かす存在がいる事をバレないようにしなければならないのに、このまま関係者を助けたりしてたら足がつく。
タダでさえ、この大男はあのネズミ顔の男の直属の手下である。
昨日の樽からの少女疾走、この男とくれば薬に関わった関係者だと勘ぐられる。
少し考えれば、ミミルの妹がいなくなるのだ。ミミルも店に顔を出てないとバレれば、同じように居なくなっている周りが怪しいと勘づくはずである。
そうなれば後は目撃証言を追えばいいだけである。
特定は容易であろう。
(参ったわねー……少なくとも後三日は持たせたかったのに。とはいえ、殺ってしまったものはしょうがない。こんな大男を運び出すのは目立ってしょうがないだろう)
『……ぬぁあー!!ユウキのバカっ!こんな時に男手が居ないでどうすんのよ!』
フレミアは髪をガシガシと振り乱す。流石のフレミアも思い通りに行かなさ過ぎてストレスが溜まっていた。
『取り敢えず、出来るのとをするわよ!』
フレミアはティナに命令する。
『……仕方ない。事実が明るみになれば助かるだろうから囮を使うわよ』
「囮?」
『そうよ。このままだと予定よりも早く私達に検討がついてしまうわ。なら、罠を仕掛けるのよ。時間稼ぎのね』
フレミアはニヤリと笑う。
『隣に来るよく来る客でうってつけのがいるじゃない。強くて、知名度あるらしくて、教会と事を構えてもそこそこ時間を稼げるのが。まぁ、講習料として……ね』
「?」
ティナが理解していないのは好都合である。
『取り敢えず、この子を運んでからになるけどね。時間との勝負よ』
気絶したククルをティナはフレミアの指示通り、部屋にあったシーツで血を拭う。そして、布団で包み持ち出す準備をしていた。
肝心のフレミアはやる事があるからと作業中にどこかに行ってしまった。
(後は言われた通り……)
ティナは大男の腰にあった剣を抜き出すとナイフを抜いた胸に突き立てる。
『なるべく同じ所に突き立てなさい。後、争った雰囲気を出すためにそのまま部屋を荒らしといてね』
フレミアの指示通りに部屋を荒らした後、ククルを担ぎティナは廊下へと出ていく。
「気配はないから大丈夫」
ティナはゆっくりと小さいとはいえ自分とあまり変わらない少女を下の階へと運ぶ。
フレミアはティナが降りていったのを見計らって部屋に侵入する
隣から盗んで来たヌルヌルのオイルである。プレイに使う物ではなく、個人の所有物にあった物だ。
それをドーチン胸に刺さっている剣に少し垂らしておく。
『さて、残りは見つからないように処分よね』
フレミアが下に向かうとちょうどティナが樽にククルを入れた所だった。
『よし、準備OKね。ティナ、彼女の名前を出せば必ず来るから宜し……』
ティナはその人物を呼びに行こうとドアノブに手をかけようとした時、ガチャリッと向う側から取っ手が回った。
『ヤバっ!?なんで!?私の計算だと帰ってくるのは夕方のはずなのに』
フレミアは慌ててティナの胸ポケットに入り込む。
「……入ってきた瞬間に倒す」
『た、頼むわよ!』
開くドアの側に身を隠し完全に敵が入り切った所で襲う。
(いま!!)
ティナはナイフで教会の男を刺そうとする。
「危ないっ!」
「うおっ!」
隣にいた女が男を後ろに引きナイフを避けさせる。
転んだ教会の人間の横に居るのは女。しかも手枷と足枷に加えて首輪までしている犯罪者風の女である。
(教会に捕まったはずの女が男を助け……)
ティナは女の二つ髪が跳ねたように盛り上がっている頭の部分の耳と微かに見えた背後の尻尾を見つける。
(獣人種!!)
『ん?あのフードの下の顔って』
ティナが腰を下ろしナイフを構える。
「殺す!」
「戦う必要はない……と言っても無駄か。いい殺気だ。面白いから受けてやるよ」
獣人の女が首から下がっている膝下まである鎖を両手に持つ。
『ちょっ!落ち着きなさいにゃあ!?』
フレミアは喋ろうとしてその揺れと大迫力でぶつかり合った金属の火花に驚きポケットの中で尻もちをつく。
「獣人!!」
「なかなかやるね。けど、私も素早さには自信があって……ねぇ!!」
素早い前蹴りがティナの顎先を掠める。
『ぬにゃ!?』
フレミアは生きた心地がしない。
ポケットの端に鉄の足枷が掠めていったのだ。
ティナは下がりながらナイフを二つ投げる。女は顔に飛んで来たナイフを噛み止め、男の方に飛んだナイフを鎖を鞭のように扱い弾き飛ばす。
『じょ、冗談じゃないわよ!なんなのよ!この展開は!』
フレミアは慌ててポケットから抜け出すと二人から距離を取るように上に飛ぶ。
「妖精様がこんな所に何故?」
獣女はフレミアを見てティナを見る。
「話をしないか?少女よ」
「アタシには卑怯な獣と話をする気はない」
「仕方がないな……いくぞ」
獣女が腰を屈めた時、にゅっと手が伸びて首についた鎖を掴む手があった。
「二人とも止めろ!ティナもオレだよオレ」
「オレという教会の人間に知り合いな……ど」
鎖を掴んだ男が立ち上がり、いてててっ!と言いながらフードを脱ぐ。
「ティナ、フレミア、オレだよオレ!ユウキだ!」
フードの下から出てきたのは見知った顔であった。
『ユウキ!』
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