ハイドランジアの花束

ashiro

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居場所

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全ての研修が終わり、ついに今日キャストとしてデビューすることになった。

レイさんがニコニコしながら近づいてくる。


「ユキやナツメから、素質があるし、何より相手の気持ちを汲み取る力に長けてるって聞いたぞ。ゲストが何を求めているのか考えられるのは、この仕事で凄く大事なことだからな。頑張ろうな」

「はい、頑張ります」


ナツメは、ユキの後に研修を引き継いだ人で、大学生だと言っていた。大人っぽい雰囲気で穏やかな人だが、拘束や痛みを感じさせる激しいプレイをするのが好きで、何故か自分も練習台にされた。
ユキは心配していたが、意外と学校でのトラウマは思い出すことなく、むしろ苦しさや痛みに興奮することが発覚した。


「リオくんは生まれもったMの素質がありますよ。磨いていけば固定客がつくかもしれません」

「リオくん、無理しちゃだめだからね。怪我しないようにね」

「ユキはリオの母さんか。まあ、そうだな。理性を失って無理をすると怪我をする。まずは、比較的優しそうなお客さんから対応してみような」


レイさんにスマホを渡される。


「これからこのスマホを使って、ゲストとやり取りをする。ここでチャットができるから、ゲストから連絡が来たらこまめに返信するように。ゲスト同士のマッチングは双方が良いと思ったときに成立するものだけど、キャストに関してはそれは関係ないから。ゲストからリクエストが来たらそれに応える。仕事だからね」


自分のプロフィールとともに、たくさんのニックネームが並ぶ。それぞれ、身長、体重、体格、好きなこと、NGなことなどが書かれている。


「俺たちは顔出しですけど、お客さんは顔出し無しなんですね?」

「そうだな。確かに顔面から恋愛感情に入る人もいるけど、ここは男同士でそれぞれ苦悩とか求めるものが違うから。特殊な人も多いしね。顔を出してないから話しやすい人もいる。顔面だけが第一条件の人なら、君らを選べばいい話」


なるほど。ここは、ただの性欲処理だけの場ではないのか。風俗と言っても色んな所があるんだなと学んだ。


「自分でお客さんを選んでいいんですか?指名欄に何人かリクエスト入ってますけど……」

「やっぱり俺の目は間違ってなかったなー。リオ、君はとにかく顔面がいい。加えて思いやりもある優しいやつだ。自信持ってお客さんを満足させろよ。自分で選んで予約受付してみ」

「うわぁ、レイさんのお気にはユキくんじゃなかったんですかぁー?」


ナツメが茶化すように聞く。


「リオくんは特別可愛いし綺麗な子だからっ!汚さないでください」

「なんでユキくんが庇ってるんですか笑」

「ユキはなぁ、もう俺の子みたいなもんだからな」


今までの人生でここまで褒められて、認められて、他人から必要とされたことなんて無かった。
話が盛り上がる三人を見て、涙が頬を伝う。


「えっ、なんでまたリオくん泣いてるの?!」

「なんか……ごめんなさい……、嬉しくて。こんな自分のこと認めてもらえることが無かったので……」

「大丈夫だよ。まず謝らないの。何も悪いことしてないんだから。本当にリオくんは良いところいっぱいあるから、自分でもそれを認められるようになろうね」


ユキに頭を撫でられる。やっぱりユキは一番安心する存在で、つい肩にもたれてまた涙が溢れてしまう。そしてまた、よしよしと背中を撫でられる。


「え……、二人はできてるんですか?」

「キャスト同士の恋愛は禁止だぞー」

「できてないですよ、リオくんは僕の一番大事な後輩なので」

「えっ、俺は??俺の方が先にユキくんの後輩になりましたよね?」

「リオくんが一番だね」

「ユキも面倒見よくなったなぁ、あんな小ちゃくてか弱かったのに。だけど、キャストである限り、相手はゲスト。キャスト同士でくっつくのは厳禁だからな。あくまで仕事だということを忘れるなよ」

「……まぁ、25歳で卒業ですから、それまで待ちなさいよ」

「なんかナツメさんに言われると腹立つ」

「なーんか、敵対視されてるんですよね。大丈夫です。SMの相性はバッチリですけど、リオくんは狙ってないので」

「……別に狙ってるとか、そういうのじゃないから!」


こんな知らない所に、自分の居場所があったんだ。居心地がいい。呼吸が楽にできる。
逃げ出してきて、良かった。
運が良くて、本当に良かった。

先程からレイさんの言葉が引っかかる。ユキは長くここで働いているのだろうか。レイさんと長い付き合いなのだろうか。
気になるが、聞くことでユキの傷を抉ることになるかもしれない。

まず、自分がやるべきことは仕事に慣れることだ。レイさんにも恩がありすぎる。
居場所を少しでも長く守るために、頑張るしかない。
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