呪術恋愛戦線 ―山奥ド田舎の陰キャ呪術師の俺が、都会から来た陰陽師美少女に狙われる異能バトルラブコメ―

杉林重工

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彼女の名前は瀬路原野弦

合儀家の山野で、ナイススイング正隆の呪術を禁ず

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『合儀家の山野で、ナイススイング正隆の呪術を禁ず』

 禁歌の効果は、通常であれば一分と持たない。合儀家の敷地の中ですら、一か月の維持すら困難である。

『合儀家の山野で、ナイススイング正隆の呪術を禁ず』

 故に、かしゃん、かしゃん、と、まるで威圧するかのように錫杖を鳴らしながら、同じ言葉をまさに呪いのために口にし続けた。呪いを重ねることは、禁歌における数少ない弱点を補う方法のひとつであった。

 そうして呪いを撒きながら肺助は山野を歩き、正隆が不法占拠するエリアに至った。

「そのやり方、合理的ではあるが目立つよ。どういう考えかな」

 ナイススイング正隆はしかし、言葉とは裏腹に感心したように言う。すでに、二人は合儀家の敷地の中で相対していた。落ち葉の目立つ木立の中。傍には小屋が立っている。その前に正隆いた。白いゴルフウェアを身に纏い、臨戦態勢、という面持ち。

「お前がいくら結界を張ってうちの山を不法占拠しようが、場所が場所だ。お前がいくら名うての呪術師でも、もう効果はないだろう」

「ふむ。そのようですな。こうも簡単に辿り着かれてしまいましたし、もう昨晩のようにあなたを呪殺することもできないでしょう」

 折角整備したわたしのグリーンが滅茶苦茶ですね、と正隆はいう。

「あと、その小屋の発電は家から制御ができる。発電機能を止めたから、もうスマホの充電はできない」

「知っておりますとも。いやはや、嫌なことを思いつくものです」やれやれ、と正隆は肩をすくめた。

「人の幼馴染を使ってよく言う」

「わたしはあくまで、彼女の望みをかなえただけなのですが……いいでしょう。さあ、どうします。ここはひとつ、ゴルフで勝負と……」

「いいからスマホを渡せ。もうお前の負けだろう」

 肺助は手を伸ばし、譲るように促す。

「そうかもしれませんな。ゴルフ勝負にせよ、この場の殺し合いにせよ、わたしが君に負ける理由は一つもないが、その後が続かない」

 そういって、正隆はあっさりとポケットからスマートフォンを取り出すと、肺助に向けて投げて渡した。

「あ、ありがとうございます」

 ついつい肺助は礼を言って受け取る。何の変哲もないスマートフォンだが、その画面は開きっぱなし、黄色い画面に無数の赤い文字がずっと流れている。

「では、交換条件だ。そのスマートフォンは君に譲るが、この山はわたしにくれるかな」

 その言葉に、流石の肺助にも苛立ちが浮かぶ。

「なんでそうなるんだ。このスマホはぶっ壊す。それでお前はおしまいだ」

 肺助は脅すように言う。だが、正隆は平然としていた。

「――それを作れば、彼がやって来る」

 ナイススイング正隆は天を仰ぐ。映画『フィールド・オブ・ドリームス』のことである。

「それは野球の話だろ」肺助は思わずツッコミを入れた。

「わたしはこの山をゴルフ場にする。そして、式『神』となったわたしは、切っても切れないこの地に生きた人々の縁と呪いに依り、この地に顕現して神になる。そういう計画なんだ。そして、神の一柱になったわたしは、世界中にゴルフのすばらしさを広める。そうなれば、ゴルフを信奉する人々の中央にはこのナイススイング正隆が永遠に崇められる! わたしは世の神々と同じく永遠を手に入れる! この宇宙のグリーンを支配者として!」

「こいつ、正気か……?」肺助はぞっとした。あと、半分ぐらい何を言っているのかよくわからないと思った。

「何言ってるかほとんどわからん」思うついでに言いもした。

「そういうわけで、ここをゴルフ場にしたまえ、といっているんだ。取引だよ。スマホが欲しいんだろう、あげたじゃないか。壊すのも勝手だが、ゴルフ場は作ってくれ」

「何を言っているのか、さっぱりわからない。お前はスマホが壊されたら終わりのはずだ!」肺助は手を震わせながら、改めてスマホに目を落とす。

「混乱する気持ちもわかるけど、ナイススイング正隆は大事なことを言っていない。肺助さんはもう下がって」

 その時、動揺を隠せぬ彼の背に声がかかった。

「阿賀谷戸先輩?」

 肺助は振り向く。命香が肩で息をしてそこにいた。肺助の顔に、自然と安堵が浮かんだ。

「結界が出たり消えたり、清浄と不浄が混ざって逆に道に迷いました」

 そういいながら、肺助に並び立つと、命香はさっとスマホを奪った。

「そして、わたしがこれを手にした以上は、破壊しません。あなたには、まだやるべきことがある」

 そして、命香はぎり、と正隆を睨みながら言った。肺助は唖然とした。正隆も、命香も、何を言っているかまるで理解が追い付かないからだ。

「あなたが交渉をするというのなら、わたしは条件を追加します。ノツルさんを呪いから解放しなさい」

「え?」肺助はもはや、空虚な疑問を小さく吐き出す以外、何もできない。

「スマホ式神術は、その情報量から、他の式神よりもお借りする神の力との結びつきが強く、そう簡単に着ることはできなくなります。これは、仮にその原因になったスマートフォンを破壊しても同じです」

「え、それじゃあ、スマホを破壊しても、何も解決しない……?」

 肺助はぞっとして問う。命香は頷いて返す。

「ノツルさんにはきっと、スマホを破壊しても、この山を更地にしてゴルフ場を作らなくてはならないという強力な呪いと、ナイススイング正隆は式神として存在し続けているという認識が残り続けるでしょう。普通の人では、耐えられず一か月以内に自殺します」

「そんな、馬鹿な……!」

 肺助は目を丸くした。一方で、呪いとはそういうものだ、という理解もしかし、できてしまった。

「勿論、破壊すればナイススイング正隆の計画が遅延することはあるでしょう。少なくとも失敗する確率は上がるはずです。人間の記憶や呪いより、スマホに入力した情報の方が正確で確実ですから。でも、破壊してもなお線は残る――呪われた術者を依り代にすれば」

「その通り。人を呪わば穴二つ、便利なものを使うときには、そのリスクを考えるべきですな。わたしは、スマホを破壊されてもなお、ゴルフ場を建設してノツルさんを依り代に顕現する方法がまだある」

「そんな、じゃあ、一体どうすればノツルを……」

 肺助の頭にあるのは、どうしてもノツルが呪われ続け、結果として持市などという最悪の結果を選んでしまうことへの恐怖であった。これでは、ナイススイング正隆を消しても守り切れたなどとは到底言えない。

 対して、ずっと命香は落ち着いていた。その雰囲気のままに、次のように言う。

「だから、『わたし』が二人目のナイススイング正隆を呼ぶのです」

 命香はスマホを操作し、通話アプリを開いた。その行動に、肺助も正隆も息を飲んだ。

「いや、このおっさんが増えても何も解決しないだろ!」肺助は命香の奇行に困惑し、

「待ちたまえ!」ナイススイング正隆は、この時初めて露骨に動揺を示した。
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