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第4話 運のいい日と一枚のレシート
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子供たちが向いたのはすぐそばの家だった。女の子は玄関ドアをノックした。そうしたらおばさんがでた。魔王は緊張した。その人が両手を後ろに隠していたからだ。
「あら、かわいい魔女さんね。うちには何のようかしら?」
子供たちは笑いながら声をそろって答えた。
「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ!」
「いたずらされる訳にはいかないから仕方ないわね。」
おばさんは後ろに潜んでいたものを前に出した。それは何かいっぱい入った袋だった。開けられた袋からはチョコレートが出た。子供たちはそれを一つづつもらって持っていたカボチャ形のバケツに入れた。
魔王はもう緊張感なんかはなくした。代わりに次は自分の番だという期待ができた。彼女は目をキョロキョロさせながらおばさんを見た。でも目が合ったおばさんは目礼だけしてドアを閉じた。
「えっ?あたしの分は?」
口から本音が漏れた。男の子は舌打ちをした。
「セリフをとなえなかっただろう?」
そういえば初めて出会った人間もそんなことを言っていた。
「確かに!じゃ、もういっかい呼ぶね。」
魔王は同じ玄関に再びノックしようとした。すると子供たちが彼女を遮った。
「それはだめだよ。」
「いっけんに一回。あきまつりのきまりごとだから。」
「何だそのけーちみたいな規則は。」
「つぎいこう!」
女の子はまた魔王の手を掴んで走った。
「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ!」
次の家で魔王はちゃんとセリフをとなえた。間違いなく子供たちと口を揃えたが、今回も何ももらえなかった。連れはクッキーを貰った。
「声がちいさいからきこえなかったんだよ。」
男の子が助言した。だから次はもっと大きな声でセリフを言ってみた。
「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ!!」
「子どもつれてご苦労さまです。」
玄関の奥の人は魔王にそれだけ言って子供たちにだけキャンディーをあげた。魔王はいらついて思った。お菓子をくれなかった家々に心を込めたいたずらをしちゃうと。
その晩三人は住宅街のいえをほぼ全部訪ねた。二つのカボチャバケツは溢れそうになっていたが一人の手は空っぽだった。
「どうしよう。」
魔王はため息をついた。最初はキャンディーを貰えないのがイラつくだけだったけれどだんだん心配になった。
魔王において名誉は重大事。帝王学によれば、口に出したことは何があろうとも守らなければならない。『首貰うぞ』と宣言するともらわなければならないのだ。
魔王は今、『お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ』と宣言したのにお菓子をなに一つ貰えなかった。ということは…
「何のいたずらすればいいんだろう。」
魔王は座り込んだ。彼女はいたずらが下手だった。
「みんなひどいね。」
魔王の背中を女の子が撫でてやった。
「おちこまないでよ。ぼくのぶんわけてあげるから。」
「わたしのもあげる!」
ふたりはそれぞれ自分のお菓子を出してくれた『お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ』という宣言はみんなでしたこと。菓子を貰ったのももう一緒にしたことになったからいたずらする必要はなくなった。
「やった!」
魔王は飛ぶようによろこんだ。
「そんなにうれしい?」
「そう!君たちはあたしの名誉を守ってくれたから。名乗ってみな。覚えてあげるから。」
「ぼくはシグリッド・リーフだよ。」
「わたしはシグリッド・フレイヤ!お姉ちゃんは?」
「あたしはユリア。魔王のユリアだ!」
「マオウノ・ユリアねえちゃん!きれい!」
三人は笑った。魔王はこのこたちが怖かったけど今は何気なく仲間意識みたいなのをかんじていた。
「ぼくらはもうかえらないと。」
「わたしたちはあっちにいくの!ねいちゃんは?」
魔王はいきなり寂しくなった。魔界には帰りたくなかった。
「泊まる所がないからわかんない。」
「じゃ、わたしたちといこう!」
魔王はまた手を掴まれて走った。到着したのは高級感のある宿だった。
「セナおねいちゃん!」
ロビーに入った途端女の子は魔王の手をはなしてフロントにかけだした。
「フレイヤ!たっぷり遊んできた?」
「うん!これみて!」
フレイヤは兎の人形をセナと呼ばれたフロントの人に突き出した。
「あのおねいちゃんがいぬからすくってくれたよ!」
セナはフロントに着いた魔王にお辞儀をした。
「うちの子がお世話になりました。」
「いや、大したことないから。」
魔王は照れ臭そうに答えた。
「一名様ですね。今日はここでゆっくりお休みになってください。303号です。」
セナはさっそく部屋の鍵を出してくれた。疲れていた魔王は子供たちと挨拶をして部屋に入った。
魔界では人間界は怖いところだと教わってばかりいたのに、案外暖かくて情のあるところだと彼女は思った。
この部屋だってそうだ。人間界学によるとお金がないと泊まる所すら持てないといったのに。
「運がよかったのかな。」
魔王はふわふわのベッドの上で横になって子供たちからもらったお菓子を食べようとした。でも手にしたチョコレートの包装を外す前に眠ってしまった。
彼女が寝ている間、泊まっている部屋のドアノブにはこっそりレシートが一枚かけられた。
「あら、かわいい魔女さんね。うちには何のようかしら?」
子供たちは笑いながら声をそろって答えた。
「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ!」
「いたずらされる訳にはいかないから仕方ないわね。」
おばさんは後ろに潜んでいたものを前に出した。それは何かいっぱい入った袋だった。開けられた袋からはチョコレートが出た。子供たちはそれを一つづつもらって持っていたカボチャ形のバケツに入れた。
魔王はもう緊張感なんかはなくした。代わりに次は自分の番だという期待ができた。彼女は目をキョロキョロさせながらおばさんを見た。でも目が合ったおばさんは目礼だけしてドアを閉じた。
「えっ?あたしの分は?」
口から本音が漏れた。男の子は舌打ちをした。
「セリフをとなえなかっただろう?」
そういえば初めて出会った人間もそんなことを言っていた。
「確かに!じゃ、もういっかい呼ぶね。」
魔王は同じ玄関に再びノックしようとした。すると子供たちが彼女を遮った。
「それはだめだよ。」
「いっけんに一回。あきまつりのきまりごとだから。」
「何だそのけーちみたいな規則は。」
「つぎいこう!」
女の子はまた魔王の手を掴んで走った。
「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ!」
次の家で魔王はちゃんとセリフをとなえた。間違いなく子供たちと口を揃えたが、今回も何ももらえなかった。連れはクッキーを貰った。
「声がちいさいからきこえなかったんだよ。」
男の子が助言した。だから次はもっと大きな声でセリフを言ってみた。
「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ!!」
「子どもつれてご苦労さまです。」
玄関の奥の人は魔王にそれだけ言って子供たちにだけキャンディーをあげた。魔王はいらついて思った。お菓子をくれなかった家々に心を込めたいたずらをしちゃうと。
その晩三人は住宅街のいえをほぼ全部訪ねた。二つのカボチャバケツは溢れそうになっていたが一人の手は空っぽだった。
「どうしよう。」
魔王はため息をついた。最初はキャンディーを貰えないのがイラつくだけだったけれどだんだん心配になった。
魔王において名誉は重大事。帝王学によれば、口に出したことは何があろうとも守らなければならない。『首貰うぞ』と宣言するともらわなければならないのだ。
魔王は今、『お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ』と宣言したのにお菓子をなに一つ貰えなかった。ということは…
「何のいたずらすればいいんだろう。」
魔王は座り込んだ。彼女はいたずらが下手だった。
「みんなひどいね。」
魔王の背中を女の子が撫でてやった。
「おちこまないでよ。ぼくのぶんわけてあげるから。」
「わたしのもあげる!」
ふたりはそれぞれ自分のお菓子を出してくれた『お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞ』という宣言はみんなでしたこと。菓子を貰ったのももう一緒にしたことになったからいたずらする必要はなくなった。
「やった!」
魔王は飛ぶようによろこんだ。
「そんなにうれしい?」
「そう!君たちはあたしの名誉を守ってくれたから。名乗ってみな。覚えてあげるから。」
「ぼくはシグリッド・リーフだよ。」
「わたしはシグリッド・フレイヤ!お姉ちゃんは?」
「あたしはユリア。魔王のユリアだ!」
「マオウノ・ユリアねえちゃん!きれい!」
三人は笑った。魔王はこのこたちが怖かったけど今は何気なく仲間意識みたいなのをかんじていた。
「ぼくらはもうかえらないと。」
「わたしたちはあっちにいくの!ねいちゃんは?」
魔王はいきなり寂しくなった。魔界には帰りたくなかった。
「泊まる所がないからわかんない。」
「じゃ、わたしたちといこう!」
魔王はまた手を掴まれて走った。到着したのは高級感のある宿だった。
「セナおねいちゃん!」
ロビーに入った途端女の子は魔王の手をはなしてフロントにかけだした。
「フレイヤ!たっぷり遊んできた?」
「うん!これみて!」
フレイヤは兎の人形をセナと呼ばれたフロントの人に突き出した。
「あのおねいちゃんがいぬからすくってくれたよ!」
セナはフロントに着いた魔王にお辞儀をした。
「うちの子がお世話になりました。」
「いや、大したことないから。」
魔王は照れ臭そうに答えた。
「一名様ですね。今日はここでゆっくりお休みになってください。303号です。」
セナはさっそく部屋の鍵を出してくれた。疲れていた魔王は子供たちと挨拶をして部屋に入った。
魔界では人間界は怖いところだと教わってばかりいたのに、案外暖かくて情のあるところだと彼女は思った。
この部屋だってそうだ。人間界学によるとお金がないと泊まる所すら持てないといったのに。
「運がよかったのかな。」
魔王はふわふわのベッドの上で横になって子供たちからもらったお菓子を食べようとした。でも手にしたチョコレートの包装を外す前に眠ってしまった。
彼女が寝ている間、泊まっている部屋のドアノブにはこっそりレシートが一枚かけられた。
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