魔王城の飯がマズすぎて家出したら友達ができた! ~最強魔王と美少女たちのわいわい人間界美食日記~

元音

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第3話 勇者は犬より怖い

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魔王はひっそりと住宅街に接近した。ロリポップの甘さで一時的に忘れていたが、人間の子供は危険だった。魔族が近づくとどこかで見ていた勇者が登場、攻撃してくる。だから人間の子供があんまり弱そうでかわいくても近寄ってはいけないって帝王学で学んだ魔王だった。

「これはヤバい…」

あっちもこっちも子供で溢れていた。どこの玄関ドアの前にも誰かがいた。キャンディーもらうのはやめようかと悩みながら見回ってばかりいた魔王の目にふと誰もいない家が一軒入った。それは住宅街の半ばにあって、周りよりちょっと暗かった。

「よし。あっちにしよう。」

魔王は心を決めてこわごわ前進した。街路灯の後ろに隠れたり、庭の低木に潜ったりしてやっと目的地に着いた。
彼女はほこりを払ってその家の低い庭門を開けようとした。その時、誰かが後ろでふとももを突いた。

「ここ、お姉ちゃんのいえ?」

振り向いたら八歳ぐらいに見える男の子がいた。彼の背中には四歳ぐらいの女の子がついていた。男の子は幽霊に、女の子は魔女に変装していたが一目で人間の子だと分かった。

「ひぇえっ!」

しまった。もう勇者の監視範囲に入ってしまった、と魔王は思った。

「ちょっとお願いがあるんだ。」

魔王は緊張した。下手に動いたらやられる。彼女は周囲を警戒しながら答えた。

「な、何?」
「庭にぬいぐるみをおとしてしまったんだ。この子の。」

男の子は顎で後ろの女の子を指した。

「こわい犬がいるからはいれなくて…もしできればぬいぐるみとってください。」

庭の方を見れば大型犬が見えた。それは兎の形をしたぬいぐるみを宝物のように抱いて寝ていた。
魔王は犬が苦手だった。子供の頃、城で飼っていたケルべロスに噛まれたことがあるからだった。

「あれ寝てるじゃん。自分でとりな。」
「でもいつめざめるかわからないし…」

彼女ははっきり断ろうとした、が。

「とってくれないの…?」

女の子がいきなり泣きそうになったので口を閉じた。周りにいるはずの勇者はまだ魔王を攻撃してこなかった。でも子供を泣かせたら話は違う。
帝王学の教えによれば、勇者はやる気が出ないと魔族を見逃すという。でも子供の涙の匂いを嗅いだら獣のように暴れるともいう。

「待って、待って!泣かないで!あたしが取ってあげるから!」

魔王は慌てて庭に入った。犬はいびきまでしながら眠っていた。彼女は爪先立ちで歩き、やっと手がぬいぐるみにギリギリ届く距離まで着いた。
彼女は犬が怖かった。だからできる限り遠い所でぬいぐるみを持ち上げようとした。最初は簡単に成功するように見えたが、バランスを崩しそうになった。

「はっ…!」

魔王は伸ばした手を地面に突いた。転びはしなかったけれど、ぬいぐるみを力強く押してしまった。
ピーポン!
ぬいぐるみで大きな音がした。同時に犬の目が覚めた。

「ワン!ワン!ウー」

犬は魔王の腕を噛もうとした。でも彼女の回避のほうが早かった。

「死ぬかと思った…」

魔王は低いフェンスにすがってため息を吐いた。犬は首輪がつけられていて近くまではこられなかった。でもぬいぐるみはまだ犬のもとにあった。

「お姉ちゃん!」

男の子が心配の気持ちを込めて叫んだ。女の子はまだ泣きそうだった。

「大丈夫。」

魔王は立ち上がって犬をじっとみた。犬も彼女を見返した。普段の彼女ならここで逃げたはずだった。犬なんか怖いから。
でも今は見守っている子供たちがいた。

「泣くなよ。ぬいぐるみ返してあげるから。」

逃げたらその子たちは泣く。
その子たちが泣いたら勇者がくる。
勇者は犬より怖い。
こんなふうに思考回路が回った結果、勇気が湧いてきた。

「行くよ。」

魔王は突進した。犬もまっすぐに突っ込んできた。彼女は飛んでくる猛犬から逃げなかった。そしてぬいぐるみを手にした。

「おねえさんだいじょうぶ?」

ぬいぐるみを持ってくる魔王に女の子が聞いた。

「勿論!」
「でも、あしかまれてる…」

魔王は下をみた。そこには力一杯ふくらはぎを咥えている犬がいた。

「ヒイッ!」

彼女は足を振って犬を払った。その後女の子にぬいぐるみを渡した。

「ほら!」

でも女の子はぬいぐるみにはあんまり興味がなさそうだった。その子は魔王の脚を注意深く確認した。

「ちがでていない。」
「かまれたあともない!」

男の子も魔王のふくらはぎを見て歓声をあげた。

「本当じゃん!ああ見えて優しい犬だったかも。」

魔王も初めて知ったというように喜んだ。いくら臆病でも魔王は魔王。体は丈夫なのだ。

「よかった!」
「ありがとう!」

魔王の安否を確認してから女の子は取り戻した兎のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
ピーポン!
と音がした。
続いて、女の子は魔王を抱きしめた。

「ヒイッ!」

と声がした。
それでも足りなかったのか、女の子は魔王の手を握って言った。

「いっしょにいこう!」

女の子は走り出した。その勢いに魔王はついていくしかなかった。
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