恋人に浮気された腹いせに男娼を買ったら人生狂った。(完全版)

まりあ

文字の大きさ
34 / 95
第二部。あれから一年後。人生を狂わされたクロノスが失ったものと得たもの(クロノス)

2

しおりを挟む
クロノスが目を覚ますと、まだオリムはヒールを続けていた。

額には汗が浮かんでいるし、顔色は青白い。

魔力量の多さから「底なし」と2つ名がつくほどの彼が、魔力切れをおこしかけている。

相当長い間、魔法を使っていたに違いない。



「ちょっと、大丈夫ですか。もうやめて」あわてて、ヒールをかけているオリムの手首を押さえた。

彼の手から出る光が消えた。


オリムの身体がぐらりと傾ぐ。
クロノスは抱きとめ、そのままベッドに寝かせた。



「意味ないのに、こんなになるまで…」


唇をかんだ瞬間、違和感に気づく。

右側がひきつれる感じがなくなっていた。

「え、あれ?」



「鏡見てこいよ」オリムに言われた。

(まさか、そんなはず…)膨らむ期待を同じくらいの恐怖が抑え込もうとする。

洗面所まで足早に行って、おそるおそる鏡を覗き込んだ。



そこにあった傷は、誰もが目を背ける傷ではなかった。ただの淡い痕。そして凝視しても不快にならない。



「え…なんで…なんだよ、これ…」
右の皮膚が動く。笑おうとしても、痛みがない。
あまりにも自然に、そこに顔が戻っていた。

(こんなこと、ありえない…)
そっと傷に触れてみる。
ひきつれはなく、温もりだけがあった。

心で何かが弾けた。
すごい、なんで。すごい。奇跡だ。

涙腺なんてなくなったはずの右目からも涙が滲んで、クロノスは目を擦った。

まるで夢みたいだ。天使が見せてる優しい夢なんじゃないかと心のどこかで疑いながらも、オリムのところまで戻った。



「オリムさん、傷が…!」



「うん。治せるよ。目はもう戻らないけど、傷はきっと跡形もなくなる。」





「…なんで?オリムさんは、」天使、という言葉を飲み込んだ。



「この傷、多分ヒールが届いてなかったんだよ。

上位の魔物の持つ呪いみたいな淀みで、
傷の表面が塞がれていて、
ヒールが全然届いてなかったのが、
時間が経って薄れて、

少しはヒールが通るようになったんだと思う。」



「…」

「今日はもう無理。有給使う。職場に連絡いれといて」

「うん」

「それできっとそのうちヴァイオレットが来るから、来たらあいつにもヒールしてもらお」

「しなくていいです」



「え」



「オリムさんの気が向いた時でいいから、僕はあなたにしてもらいたい。」



「魔力切れたから、しばらく出来ないけど…」



「それでいいです。今さら急がないから」



「ふーん、オレがいいんだ。」

オリムがにやにや笑って、茶化すように言っても、

クロノスは嬉そうに微笑んで頷いた。




漸くの沈黙。


そしてクロノスの瞳から、涙があふれ、落ちた。

右目からも。




オリムが白い指を伸ばして、そっとクロノスの涙をぬぐう。

震える声でオリムは言った。

「…魔力持ってたって、自分のためには使うなって言われてるし。親には売られるし。

使えていいと思えたことなんてなかった。

でもオレ、今日だけは神様に感謝してる」



ポタリと、クロノスの涙がオリムの頬を濡らし、

オリムの涙と混じって枕に滲んだ。





それは奇跡だった。
けれども神のものではなく、たった1人の人の手でおきたもの。



次の週末にオリムはもう一度魔力の枯渇をおこした。そして、クロノスの傷は跡形も失くなった。


※※※

傷が消えたクロノスは息をのむほど美しかった。
オリムはその面差しを以前どこかで見たことがあるような気がした。

それにしてもオリムは当時の自分が恋人に夢中で、こんなに美形の存在に気づかなかったことが不思議でしかたなかった。



城では再度手のひらを返したようになり、

理由もなくクロノスの仕事場に押しかける者、後をつけて来る者たちが現れた。

どこへ行ってもキャーキャー言われるようになり、

ファンクラブまで復活した。





後輩のマットに誘われたから、仕方なく…

と言い訳して、非公式ファンクラブに入会してしまったことを、オリムはまだクロノスには言い出せていない。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

幼馴染が結婚すると聞いて祝いに行ったら、なぜか俺が抱かれていた。

夏八木アオ
BL
金髪碧眼の優男魔法使いx気が強くてお人好しな元騎士の幼馴染の二人です。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

処理中です...