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第二部。あれから一年後。オリム、さらわれる
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まぶしい朝日に照らされた瞬間、オリムは息をのんだ。
知らないはずなのに、懐かしい木の天井。
台所から、穏やかで低い声が響く。
「オリム、そろそろ起きなさい。朝ごはん冷めるぞ」
遥か昔で、もう覚えていないのに、
これは父の声だ、とわかってしまった。
胸がぎゅっと痛む。
そんなはずないのに。
起き上がると、車椅子の小柄な少年がこちらを見て笑った。
「兄ちゃん、おはよ。今日も仕事なんだろ?」
明るくて、素直で、まっすぐ。
温かい、優しい。
なのに、喉がひりついて声が出なかった。
朝食の席で父が言う。
「オリム、お前は無茶しすぎるな。
家族のために働くのはありがたいが…頼りすぎてもいけない」
本来なら嬉しい言葉のはずなのに、
胸の奥がざわついた。
…誰もオレを必要としていない。
この家は温かいのに
温かいほど、心が冷えた。
仕事に出ようとすると、弟が車椅子を動かしながら追いかけてきた。
「兄ちゃん」
振り向く。
「オレ…
いつかオレも兄ちゃんみたいになりたいんだ。
優しくて、強くて、努力家で。オレの自慢なんだぜ」
胸がしめつけられて笑えなかった。
仕事が終わると、恋人が迎えに来た。
黒髪で、誰より綺麗で、優しい紫の目をしてた。
それは、愛しいクロノスのはずだ。
でもなんだか…
「オリムさん、帰ろう。送ります」
手を差し伸べられた瞬間、
違和感に指が微かに震えたが、オリムはその手をとった。
家についた。
父と弟の笑い声が家の中から聞こえてきて、
オリムは玄関の前で、立ち止まる。
「大丈夫ですか?顔色が優れません」
クロノスが言う。
オレは答えようとしたが、喉が震えた。
「……オレ
なんか変なんだ。
幸せなのに…すごく、苦しくて…」
クロノスは、そっとオレの手を包み込んだ。
優しい。完璧な手つきだ。
本当なら、うれしいはず。
だけど…違う。
クロノスはこんな触れ方しない。
オレの指が震えたのを見て、クロノスはさらに柔らかく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、オリムさん。
あなたは何も背負わなくていいんです。
ここでは、ただ穏やかに過ごせばいい」
その瞬間。
オレの心臓が、凍りついた。
ここでは?
背負わなくていい?
穏やかに?
胸が、ずきりと痛む。
…ちがう
震える唇から、かすれた声がもれた。
「オレ…背負ってきたんだ…。
背負わなきゃ…オレじゃ、ない……」
クロノスは困ったように首をかしげる。
「そんなに無理をしなくてもいいんですよ。
あなたは、ここではもう傷つかなくていい」
この人は、オレのことをわかっていない。
この人はクロノスじゃない…。
違和感を飲み込んで、
家に戻ると、父がふいに顔を覗き込んだ。
「オリム。今朝、様子がおかしかったな。
悩みがあるなら言えよ。お前のことは、ずっと心配なんだ」
その声は確かに温かくて
会いたかった父の声なのに。
なぜだ。
胸が痛い。痛くて痛くて、息ができない。
オリムは気づいてしまった。
(…本当のオレは、
こんな普通の幸せじゃ、生きられないんだ)
父がいて、弟がいて、
恋人が優しくて、仕事も順調。
何ひとつ欠けない幸せの中で、
…オレは、誰にも触られていない。
その瞬間、父が肩に手を置いた。
「オリム?どうしたんだ、お前。泣いて…」
オレは悟った。
「…父さん。
オレ…
父さんのいない人生を、生きてきたんだ…」
夢の父は優しく頬を拭ってくれたが、
その温もりが逆に刺さった。
(違う。オレはこんなふうに守られて生きてこなかった。
オレは、欠けた人生を必死に踏ん張ってきた)
そして、その欠けた人生を歩き続けていたオレを支えてくれてたのは────
────クロノス!
知らないはずなのに、懐かしい木の天井。
台所から、穏やかで低い声が響く。
「オリム、そろそろ起きなさい。朝ごはん冷めるぞ」
遥か昔で、もう覚えていないのに、
これは父の声だ、とわかってしまった。
胸がぎゅっと痛む。
そんなはずないのに。
起き上がると、車椅子の小柄な少年がこちらを見て笑った。
「兄ちゃん、おはよ。今日も仕事なんだろ?」
明るくて、素直で、まっすぐ。
温かい、優しい。
なのに、喉がひりついて声が出なかった。
朝食の席で父が言う。
「オリム、お前は無茶しすぎるな。
家族のために働くのはありがたいが…頼りすぎてもいけない」
本来なら嬉しい言葉のはずなのに、
胸の奥がざわついた。
…誰もオレを必要としていない。
この家は温かいのに
温かいほど、心が冷えた。
仕事に出ようとすると、弟が車椅子を動かしながら追いかけてきた。
「兄ちゃん」
振り向く。
「オレ…
いつかオレも兄ちゃんみたいになりたいんだ。
優しくて、強くて、努力家で。オレの自慢なんだぜ」
胸がしめつけられて笑えなかった。
仕事が終わると、恋人が迎えに来た。
黒髪で、誰より綺麗で、優しい紫の目をしてた。
それは、愛しいクロノスのはずだ。
でもなんだか…
「オリムさん、帰ろう。送ります」
手を差し伸べられた瞬間、
違和感に指が微かに震えたが、オリムはその手をとった。
家についた。
父と弟の笑い声が家の中から聞こえてきて、
オリムは玄関の前で、立ち止まる。
「大丈夫ですか?顔色が優れません」
クロノスが言う。
オレは答えようとしたが、喉が震えた。
「……オレ
なんか変なんだ。
幸せなのに…すごく、苦しくて…」
クロノスは、そっとオレの手を包み込んだ。
優しい。完璧な手つきだ。
本当なら、うれしいはず。
だけど…違う。
クロノスはこんな触れ方しない。
オレの指が震えたのを見て、クロノスはさらに柔らかく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、オリムさん。
あなたは何も背負わなくていいんです。
ここでは、ただ穏やかに過ごせばいい」
その瞬間。
オレの心臓が、凍りついた。
ここでは?
背負わなくていい?
穏やかに?
胸が、ずきりと痛む。
…ちがう
震える唇から、かすれた声がもれた。
「オレ…背負ってきたんだ…。
背負わなきゃ…オレじゃ、ない……」
クロノスは困ったように首をかしげる。
「そんなに無理をしなくてもいいんですよ。
あなたは、ここではもう傷つかなくていい」
この人は、オレのことをわかっていない。
この人はクロノスじゃない…。
違和感を飲み込んで、
家に戻ると、父がふいに顔を覗き込んだ。
「オリム。今朝、様子がおかしかったな。
悩みがあるなら言えよ。お前のことは、ずっと心配なんだ」
その声は確かに温かくて
会いたかった父の声なのに。
なぜだ。
胸が痛い。痛くて痛くて、息ができない。
オリムは気づいてしまった。
(…本当のオレは、
こんな普通の幸せじゃ、生きられないんだ)
父がいて、弟がいて、
恋人が優しくて、仕事も順調。
何ひとつ欠けない幸せの中で、
…オレは、誰にも触られていない。
その瞬間、父が肩に手を置いた。
「オリム?どうしたんだ、お前。泣いて…」
オレは悟った。
「…父さん。
オレ…
父さんのいない人生を、生きてきたんだ…」
夢の父は優しく頬を拭ってくれたが、
その温もりが逆に刺さった。
(違う。オレはこんなふうに守られて生きてこなかった。
オレは、欠けた人生を必死に踏ん張ってきた)
そして、その欠けた人生を歩き続けていたオレを支えてくれてたのは────
────クロノス!
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