皇女殿下の山吹の花~最推しは『名も無きモブ』ですが?~

蕪 リタ

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 ふと、視線が絡み合ったためか、眼前に広がる光景のおかげなのか――とても大切なことを思い出しわ。
 


 お前が虐めただの、お前が嫉妬したのが悪いだの、何か喚いているギラッギラのド派手で……似合いもしない服に身を包む赤髪の男でも、その後ろに隠れるように立つピンクブロンドの少女を支えるように立ちながら睨みつけてくる騎士気取りの緑のマリモでもない。ましてや証拠だ何だと言いながら、ありもしない虐めをしたと認めているであろう紙をいちいちペロッと指をなめてめくり、気持ちが悪い目線を寄越す青い髪の眼鏡でもないわ。というよりも、キモいし邪魔ッ!

 今わたくしの目に入れたい、ええ、それはそれはとてつもなく好いている――いえ、前世での言葉で言うならば『最推し』とは、まちがいなくあのお方。
 


 幼少期に目の前でお母君が魔物に襲われ、ショックのあまり感情をどのように表へと出していいのかわからず育ち、月を落とした淡く光る金色の瞳を縁取るお顔から表情という表情をゴッソリと失ってしまった彼。何をしてもその瞳が輝くことも、表情を変えることもないその姿から『氷の騎士』と呼ばれることも。もしくはおバ……いえ。騎士団の中でも身分で選ばれるこの国の近衛騎士ではなく、貴賤関係なく試験に突破した強者が選ばれる護衛騎士として第二王子を影から護衛任務にあたれるほどの実力を持つ侯爵家の次男。幼少期のことを教訓に訓練へと身を投じたこともあり、腕前はこの国随一であるので『黒金くろがねつるぎ』とも呼ばれている。白の近衛騎士服に対し、陰日向に動く護衛騎士の服は黒であり、夜空の艶やかな漆黒を写したような髪や鋭い黄金の瞳もあいまって黒金と呼ばれている――いえ、わたくしが勝手に『黒金の君』とお呼びしているのですけれども。

 影で活躍することも多い護衛騎士のためか、体つきもマリモ頭のような筋肉バカっぽく無駄な筋肉はついてはいないし、かといって訓練をサボっているような感じでもないのはちらっと袖から見えた腕の引き締まり具合からわかる。ああ! 尊いっ!

 こんな美しい人でも、何をしても無表情のためにブルーム国内のご令嬢たちには不人気であるの。わからない! わたくしがこの国の令嬢・・・・・・であったのなら、間違いなくそこの怒鳴りつけるおバ……赤髪なんかより先にご挨拶に伺うのに!!

 そんな彼の、最推しと共に思い出した乙女ゲーム『夢の花姫』内での立ち位置は、現在わたくしの婚約者である第二王子(攻略対象)の護衛騎士であり、非攻略対象。そう、『非攻略対象』。こんなに設定がしっかりとあるにもかかわらず、第二王子ルートで王子の後ろに立っている姿がちらっとだけ映る名も無き・・・・モブである。もう一度言うが、『モブ』である。

 CMで流れた第二王子ルートのメイン画面にちらっと映った彼に一目惚れ。それまで乙女ゲームの『お』の字も知らずに仕事に打ち込んでいたのに。一目惚れした彼に会いたいがために、アプリをダウンロードし。バカおう……コホン、失礼。第二王子のルートを何回も周回した。少しでも彼に会いたいがために。

 何度でも言うが、ほんの少ししか登場しないのだ。どのキャラを攻略しても会うことができず、唯一会えるのは、第二王子おバカルートだけなのだ。もちろん、専用スチルなんてない。スクショで何度我慢したことか。少しでも会う時間を増やしたくて、好みでもない赤髪へ課金もしていたほどに激推しだった。



 きっと彼を見納める・・・・ために、神様が思い出させてくれたのよ!

 見て、あの顔。無表情であるにも関わらず任務にあたるため、周囲への観察をするのに動かす瞳が光を宿していないのにその光で刺すかのように鋭く走る。これぞまさしく究極の美よ! ああ、美しい……少しでも、あの瞳に映りたい!

 許されることなら、このまま彼の前まで駆け出して……ご尊顔を眺めていたいし、触れたい! いや、お触りはナシだわ。淑女としてダメね。でも、できるなら……そのお口からお名前を直に拝聴したく!



 そんな心ここに非ずで彼ら・・を横目に見ていたせいか、しびれを切らしたおバカそのいちが自身の髪色に負けないほどの顔で迫ってきた。ええ、面倒だわ。それよりも! その醜く染まった顔が邪魔で、麗しのご尊顔が見えないのよッ!! なんで、攻略対象って無駄にデカイのかしら?

「聞いているのかッ」
「……そんなに大声など出されなくても、しっかりと聞こえてましてよ」
「では、なぜ質問に答えないッ」
「質問、というより一方的にお話しなさっているだけでは?」
「くっ……ああ、そうか! やはりお前が先導していたから、答えれないのだなッ!」

 そんなわかったぞ! みたいなドヤ顔されても、困るのですが。面倒なお芝居にお付き合いしている暇があれば、最推しを眺めながら食事をいただきたいのですわ。ええ、只今お昼の時間ですのよ。仕方ありませんね。早く切り上げさせて、食事に移りましょう。そうしないと、わたくしの侍女たちが何をするかわかったものではないので。これでも留学中・・・の身ですので、平穏に過ごしたいのですよ。



 諦めたように、仕方がなく口を開けば……まさかでしたわ。

「いえ、ですか……「お前がララをいじめていた犯人なんだな! やはり俺サマからの寵愛を貰えないからと! よくもララのことを虐めてくれたなッ」
「…………」

 被せてきましたわよ、この……もうおバカでいいですわよね? おバカは、状況をわかっているのかしら? いえ、わかっていないからこそこのように喚いても良いと思っているのでしょう。待ちなさい、イルザ。武器をしまいなさい。いつも大人しいヨハナまで前に出ようとしないの。

 片手で侍女たちを制し、ヨハナから愛用の扇を受けとる。黒地に金のラインが入ったシンプルなモノだが、山吹の花を模した房をつけているのもあり、色合い的に目立つ。まあ、この学院の制服であるケープ自体が黒地なので、ドレスの上にケープを纏うだけでこの扇自体は目立たないはず。制服に合わせて作成していただいたので、決して邪な想いからではございませんのよ?

 そもそも、作成時に最推しのことを思い出してはいないのですから……潜在的に思い出していた可能性は、否定できませんが。
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