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扇を閉じて微笑むと、陛下と王太子殿下の額から汗が流れているのが目に入った。そんなに難しいことは、おねだりするつもりはないのよ?
「陛下。陛下がわたくしの『お願い』を聞いてくださるのでしたら、あの者たちは少し……ね? ということにしてもよいのですよ?」
「…………何がお望みでしょう?」
「ひとつ。あと一月ほどで終わる留学を最後まで学ばさせていただきたいのです」
「もちろんでございますッ」
食い付きがすごいですわ。そうよね。それだけで帝国を敵にまわさずにすむなら、喜びますわよ。国力が違いますからね。
「あと……いえ、これは少々我が儘が過ぎますわ」
「いえっ! この私が叶えられるものでしたら、何でも! ぜひとも、お教え願いますっ」
何でも、と言いましたわよね? 言質はとりましたわ。残念そうに俯いていた顔をあげ、思わずうっとりとした表情で口にしましたわ。
「では、お言葉に甘えて。残りの滞在中に、騎士団の……護衛騎士たちの訓練を見せていただけますか?」
これでもか、と真ん丸になる瞳。驚きますわよね。軍事最強と名を持つヴルツェル帝国の皇女が騎士団の訓練を見たいだなんて、戦争の準備を疑われているのと同じですものね。
「そ、そそそれはっ……」
「いつもお世話になっている護衛騎士たちの訓練風景を、ただただ見てみたいと思っただけですの。他意はございませんのよ?」
「…………そう言うことでしたら」
先程よりも多くまさに滝のように吹き出す汗のおかげか、拭っているハンカチがいつの間にかタオルに変えられている国王陛下。戦争準備をしてないことは、優秀な侍女たちの働きで既にお父様に報告してあります。本当に疑っているのではなく、ただ……推しの訓練姿を目に焼き付けたいだけなのです!! 大声では言えませんがね。
最推しの姿をじっくり観察できると言質がとれて、内心とても浮かれていたのです。ふふっと洩れてしまった声に反応して、忘れていた声が聞こえてきた。
「ふっ、ふざけないでよッ! なんで、あんたみたいな『悪役令嬢』が好き勝手言うのよッ! この世界の『ヒロイン』はわたしなのよッ」
「……なんのことでしょう?」
ええ、本当に。なんのことでしょう? 『夢の花姫』の世界観なら、『悪役』はいないのです。そして、ここは自分自身が生きている『現実』。ゲームと現実――いえ、妄想と現実の区別もつかない方と話したくないのですが。騎士たちがいつの間にか捕らえてくれているので、流石にこちらまでやってきません。「放せッ」とか「あいつのせいよッ」とかいう度に、横で尻餅をついたままのマリモやキモ眼鏡の目が溢れんばかりに開いていくのが見えて――いませんわね。可哀想に。自分たちのお姫サマの皮がどんどん剥がれていっているわ。わたくしの知ったところではありませんが。
「あの者たちの処罰は、お任せしますわ」
「よっよろしいのですか?」
普通ならよろしくはないですが、面ど……コホン。これ以上かかわり合いたくないですし?
「ええ。陛下が『お願い事』を聞いてくださるようですし」
やりたいことがやれるなら、本当にわたくし的にはどうでもよいのですよ。
そう微笑んで言うと、畏まりましたと言う陛下に一礼して滞在している部屋へ引き上げました。食事どころではありませんし? この状態のまま、本日の授業などは行われないでしょうしね。
去り際に、おバカたちのせいで見失っていた最推しを見つけ、脳内で小躍りしているのが全面にでないよう淑女の仮面をフル装備して戻りましたの。バレていないですわよね?
それにしても、ちらっと見えたお顔。光が映っていなかった瞳が、キラッと光ってこちらを見ていた気がしたのは――わたくしの妄想のせいですわよね。きっと。
「陛下。陛下がわたくしの『お願い』を聞いてくださるのでしたら、あの者たちは少し……ね? ということにしてもよいのですよ?」
「…………何がお望みでしょう?」
「ひとつ。あと一月ほどで終わる留学を最後まで学ばさせていただきたいのです」
「もちろんでございますッ」
食い付きがすごいですわ。そうよね。それだけで帝国を敵にまわさずにすむなら、喜びますわよ。国力が違いますからね。
「あと……いえ、これは少々我が儘が過ぎますわ」
「いえっ! この私が叶えられるものでしたら、何でも! ぜひとも、お教え願いますっ」
何でも、と言いましたわよね? 言質はとりましたわ。残念そうに俯いていた顔をあげ、思わずうっとりとした表情で口にしましたわ。
「では、お言葉に甘えて。残りの滞在中に、騎士団の……護衛騎士たちの訓練を見せていただけますか?」
これでもか、と真ん丸になる瞳。驚きますわよね。軍事最強と名を持つヴルツェル帝国の皇女が騎士団の訓練を見たいだなんて、戦争の準備を疑われているのと同じですものね。
「そ、そそそれはっ……」
「いつもお世話になっている護衛騎士たちの訓練風景を、ただただ見てみたいと思っただけですの。他意はございませんのよ?」
「…………そう言うことでしたら」
先程よりも多くまさに滝のように吹き出す汗のおかげか、拭っているハンカチがいつの間にかタオルに変えられている国王陛下。戦争準備をしてないことは、優秀な侍女たちの働きで既にお父様に報告してあります。本当に疑っているのではなく、ただ……推しの訓練姿を目に焼き付けたいだけなのです!! 大声では言えませんがね。
最推しの姿をじっくり観察できると言質がとれて、内心とても浮かれていたのです。ふふっと洩れてしまった声に反応して、忘れていた声が聞こえてきた。
「ふっ、ふざけないでよッ! なんで、あんたみたいな『悪役令嬢』が好き勝手言うのよッ! この世界の『ヒロイン』はわたしなのよッ」
「……なんのことでしょう?」
ええ、本当に。なんのことでしょう? 『夢の花姫』の世界観なら、『悪役』はいないのです。そして、ここは自分自身が生きている『現実』。ゲームと現実――いえ、妄想と現実の区別もつかない方と話したくないのですが。騎士たちがいつの間にか捕らえてくれているので、流石にこちらまでやってきません。「放せッ」とか「あいつのせいよッ」とかいう度に、横で尻餅をついたままのマリモやキモ眼鏡の目が溢れんばかりに開いていくのが見えて――いませんわね。可哀想に。自分たちのお姫サマの皮がどんどん剥がれていっているわ。わたくしの知ったところではありませんが。
「あの者たちの処罰は、お任せしますわ」
「よっよろしいのですか?」
普通ならよろしくはないですが、面ど……コホン。これ以上かかわり合いたくないですし?
「ええ。陛下が『お願い事』を聞いてくださるようですし」
やりたいことがやれるなら、本当にわたくし的にはどうでもよいのですよ。
そう微笑んで言うと、畏まりましたと言う陛下に一礼して滞在している部屋へ引き上げました。食事どころではありませんし? この状態のまま、本日の授業などは行われないでしょうしね。
去り際に、おバカたちのせいで見失っていた最推しを見つけ、脳内で小躍りしているのが全面にでないよう淑女の仮面をフル装備して戻りましたの。バレていないですわよね?
それにしても、ちらっと見えたお顔。光が映っていなかった瞳が、キラッと光ってこちらを見ていた気がしたのは――わたくしの妄想のせいですわよね。きっと。
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