殺したいほど憎いのに、好きになりそう

味噌村 幸太郎

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第八章 ディナーデート

あいつのお母さん

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 俺が翔平くんを暴走トラックから助けて、1週間が経とうとしていた。
 福岡のローカル番組だが、何件かテレビ局や新聞社がわざわざ俺に取材をしたいと、自宅に押し寄せて来た。
 そこは未成年なので、お父さんと一緒に対応したのだが……。
 この事故で、俺は地元じゃかなりの有名人になってしまった。

「ひとりの少年を救った勇気ある少女」として、全国に報道されたからな。
 学校でもちょっとしたヒーロー扱いされ、サインを求められることもあった。
 もちろん、独占欲の強い優子ちゃんが全て断ってくれたけど。

 でも、人を助けてみんなから褒められるのはとても気分が良い。
 なんたって、俺はテレビの画面にも映った美少女だしな。
 あ、藍ちゃんのルックスなら、芸能界からスカウトがあったりして……そしたら、今以上にちやほやされるぞ。

  ※

 だが、そんなことは全然起きず、むしろ時間が経つにつれてみんな事故のことを忘れてしまう。
 あんなに毎日教室をのぞきに来ていた奴ら、どこに行ったんだよ!
 もっと、俺を褒めろ!

 しかしひとりだけ、俺がしたことをずっと忘れない人間がいる。
 それは翔平くんの兄、鬼塚 良平だ。
 ある日の休み時間、妙に真剣な顔で「顔を貸してくれ」と頼まれた。
 渡り廊下に連れて来られると、彼はこう言った。

「あ、あのさ……何回も言ってるけど、翔平のこと。マジでありがとうな」
「もういいよ~ そんなに恩を感じられると、今後どんな顔をしたらいいか分かんないし」
「そうかもしれないけど……実は、俺の母ちゃんが水巻に挨拶したいって言っているんだよ」
「え!? 鬼塚のお母さんが、私に?」

 
 前世で小学校時代に、何度かいじめのことで鬼塚の母親に会ったことがある。
 いかにも水商売やってますって顔のおばさんで、感じ悪かったんだよな。
 うちの両親に言われて、無理やり俺に頭を下げていたけど。鋭い眼光で俺を睨みつけて「ごめんね」しか言ってくれなかった。
 あのおばさん、苦手だなぁ……。

「たぶん、今日の夜に水巻の家に行くと思うから、会ってくれないか?」
「え……うちに来るの?」
「ああ、母ちゃん。水巻には色々と伝えたいことがあるって言ってたから」
「……」

 なんかクレームでも言われるのかな?
 年下の翔平くんをたぶらかしたとか、鞍手くらて あゆみが言うように鬼塚を振り回しているとか……。
 うう、会いたくないな。

 ~数時間後~

 鬼塚のお母さんがわざわざ自宅に尋ねてくると聞いて、俺はずっとドキドキしていた。
 前世と同じように睨まれたら、怖い……鬼塚に似ていたからな。

 放課後、自宅に帰ってお母さんにそのことを話したら「ああ、鬼塚さんね。聞いているわよ」と言っていた。
 どうやら、事前に我が家へ電話をかけてきて、日程を調整していたらしい。
 鬼塚のおばさんは忙しいから、夜しか空いている時間がなく、夜の8時頃に俺ん家へ来るそうだ。

 とりあえず、セーラー服から私服に着替えて自室で待つことに。
 予告通り、8時になった瞬間、家のチャイムが鳴ってビックリした。
 部屋の扉に耳を当てて、一階の様子を確認する。

『夜分遅くにすいません。鬼塚と申します……』
『いえいえ、この度はどうも。さ、リビングへどうぞ』

 あれ? 声だけ聞くと、なんか優しそうな人だな。
 前世での冷たいイメージとは違う。
 もしかして、こっちの世界じゃ鬼塚の母もあべこべになっているとか?

 しばらくお母さんとおばさんの声が一階から聞こえてきたが、特に意味のない世間話をしているだけ。
 一体、鬼塚の母親は何をしたかったんだろう? と首を傾げていたら、お母さんの俺を呼ぶ声が聞こえて来た。

「藍~っ! 降りてらっしゃい! 鬼塚くんのお母さんが話をしたいって!」
「うっ……」

 マジか。でも、呼ばれたんだから、行かないとな。
 恐る恐る階段を降りていくと、リビングにひとりの中年女性が立っていた。
 
「この人が、鬼塚のおばさん……?」

 つい思っていることが口から出てしまう。
 その言葉に反応したお母さんが、俺を叱る。

「こら、藍! おばさんなんて失礼でしょ!? 鬼塚さん、お綺麗なのにねぇ」
「いえいえ、私はもう40近いですし……いいのよ、藍ちゃん」

 そう言って笑う顔に思わず、ドキッとしてしまう。
 彼女の言う通り40歳近いおばさんなのだろうが……それにしては若くてきれいに見える。
 痩せているから、黒のニットセーターとグレーのタイトスカートがよく似合う。
 それに肌の色が小麦色だ、化粧をしても隠せないほど。本当に鬼塚とよく似ているな。
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