殺したいほど憎いのに、好きになりそう

味噌村 幸太郎

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第八章 ディナーデート

おばさんからの告白

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 テーブルを挟んで、鬼塚のおばさんと向かい合って座ること数十分。
 何も会話が弾まない。
 相手はニコニコと俺に微笑んでくれるが黙っている。
 一体、何がしたいんだ? この人。

 しばらくすると、お母さんがコーヒーとクッキーをテーブルの上に置いてくれた。
 お腹が空いていた俺はすかさずクッキーを手に取り、パクパク食べ始める。
 するとお母さんが、俺の頭を引っぱたく。

「こら、藍! お客様が先でしょ!」
「いってぇ……何も叩かなくても」

 そう呟くと、俺とお母さんのやり取りを見ていたおばさんが笑い始める。

「本当に良平や翔平が言う通り、藍ちゃんって面白い子なのね……」
「え? 鬼塚が私のことを何か言ってました?」
「うん、毎日聞いているよ。藍ちゃんの話」
「へぇ……」

 一体、どんな話をされているんだ? 悪い話かな。

「でも、本当にこの前の翔平のこと、ありがとうね。藍ちゃん」

 そう言うと、テーブルに頭がくっつくまで深々と下げるおばさん。

「いえ。私はたまたま翔平くんが目に入ったので、助けることが出来ただけです。偶然ですよ」
「ううん! あなたは私の大事な宝物を助けてくれたヒーローよ!」

 気がつけば、俺の両手を握るおばさん。そして、その大きな瞳から涙をポロポロとこぼしていた。

「そんな大げさですよ……」
「何回、藍ちゃんにお礼を言っても足りないわ。翔平のことだけじゃない! 良平のいじめのこともあなたが解決してくれたんでしょ?」
「え? おばさん、それ誰から聞いたんですか?」
「近所に住んでいるあゆみちゃんから聞いたわ。泣きながら『私は何も出来なかったけど、水巻さんが全部解決しちゃった』って叫んでたもの」

 それは俺が出しゃばったから、怒って泣いてたんじゃないのか……?
 またあゆみちゃんに嫌われてしまうな。
 
  ※

 おばさんの話では、俺は鬼塚家の中で救世主のような扱いになっているようだ。
 まあこの世界は並行世界とは言え、現実に限りなく近い過去の世界だから。
 未来から転生した俺は、ほとんど知っている出来事が多いし。
 だから、翔平くんのトラック事故も防げた。
 それともう一つ……。

「あ、藍ちゃん……私ね、ダメなお母さんなの……」

 テーブルにおでこをつけたまま、泣き始めるおばさん。
 どうやら、何かを思い出したようだ。

「良平がまさか中学校でいじめられているなんて、全然知らなかった……あの子、昔はやんちゃな子だったから、加害者になっても被害者にはならないと思っていたの……」
 
 そのやんちゃだった時代って……俺があいつからいじめられていた頃じゃないか?
 とりあえず黙って、おばさんの話を聞いてみる。
 俺の隣りに立つお母さんは、時折涙ぐんでいた。

「仕事ばかりで子供たちの面倒も見てやれなくて……以前、小学校でとある男の子をいじめた時は、本当にどうしようもない子だって。私の育て方が悪かったと随分悩んだわ」

 悩んでたなら、その男の子に誠心誠意、謝罪しておけばよかったのに……。
 でも、なんだろう。今”この年”になって鬼塚のおばさんの姿を見ると、少し哀れに見えてくるな。
 あんなに憎かった男の母親がシングルマザーとして、葛藤していたんだもの。
 
 と俺がひとりでテーブルに頭を伏せているおばさんを見ていたら、いきなり顔をあげて俺の目を見つめる。

「それをあなたが全てひとりで解決してくれたんでしょ? 藍ちゃん! 本当にありがとう!」

 泣きながら、喜んでいるのだろうか……?
 まあ結果的に鬼塚のいじめが無くなっただけなんだけどなぁ。
 おばさんからお礼を言われたことで、ようやく口を開く。

「あ、あの……私。本当に鬼塚のことも、翔平くんのこともたまたまやったことが上手くいっただけで。特に考えなんて無いんですよ」
「藍ちゃんたら……。水巻さん、どうやったら、こんな女神のようなお子さんに育つんですか?」

 とおばさんが、俺のお母さんに話を振ると。

「えぇ~ 特に何もしてないですよぉ~ 正直、最近の藍はおかしいんですよね。この前のテストも赤点ばっかで、成績が下がる一方だから家庭教師でもつけようかと思ってるぐらいですよ?」

 頼むから、それだけはやめてくれ。
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