黒歴史小説 トリプルエッジ

味噌村 幸太郎

文字の大きさ
27 / 39
第八章 黒王

8-3

しおりを挟む

 俺はミノに押されて、嫌々、壇上に上がった。
 目前には、五千を超える妖怪達が集まっている。
 その場の空気に少し緊張していた。

「あ……え~、まあ、その……今日は……」
 思うように、言葉が出ない。
 すると、妖怪達から罵声があがった。

「聞こえねぇぞ! 元人間の大将さんよ!」
「そうだ、そうだ! それでも、魔王か!」
 次々と、罵声があがる。
 ミノがとめようとしたが、なかなか、やまない。
 妖怪の長である婦子羅姫が俺を認めた。
 とはいえ、俺が魔族を憎むように、コイツらもまた、人間を憎んでいるのだろう。
 しばらく、黙って聞いていたが、とうとう、俺はキレた。

「う、うるせぇ! 黙って聞けぇ!」
 興奮したせいか、「ぜいぜい」と言って、肩を震わせた。

「いいか、俺が言いたいのは一言だけだ!」
 それまで騒いでいた妖怪達が沈黙した。
 じっと、みな俺の方を見る。

 五千以上もの妖怪の視線が充てられた。
 俺は首を左右に動かせ、妖怪達の顔を見回してから、拳を掲げた。

「異国の化け物なんぞ、ぶっ飛ばせ!」

 妖怪達から歓声があがった。

「やろうぜ! 大将!」
「よくぞ言ってくれたぜ!」


 ミノがそばに近寄り、「お見事です」と言った。
 俺の心は充実感で溢れていた。

 妖怪達と、魔王である俺は、いま一つの目標のために繋がった。

「やっちまおうぜ! 黒王さんよ!」
「へっ、元人間にしちゃ、なかなかじゃねぇか!」

 気づいた時は、俺も笑っていた。


「黒王様、ありがとうございました。これで、錆びついていた城内にも活気が戻りました」
「んなことねぇよ」
 壇上から降りると、ミノに連れられ、格納庫に向かった。
 そこには、動きやすい服に着替えた婦子羅姫がいた。
「終わったか」
 俺は婦子羅姫の姿を直視できなくなっていた。
「どうした? 黒王」
 婦子羅姫が下から顔を覗きこむ。

 彼女の服装は動きやすくなったのと同時に、肌の露出が高いものになっている。
 床にズルズルと引きずっていた装束とは違う。
 色気づいた女忍者が着ているような、短い上着を羽織って、腰に帯を巻いているだけだ。
 まるで、人間界のミニスカートみたいだ。
 彼女のすらっとした白い脚が露になっている。
 それに、胸元が深く開いたデザインなので、彼女が動く度に胸の谷間がチラチラ見える。

 まったく、目のやり場に困る服装だ……。

「どうされました? 黒王様、お顔が優れませんぞ……。具合が悪うございますか?」
 ミノが心配そうに、俺を見る。
「だ、大丈夫だって……」
「そうですか……。あ、忘れておりました。ご要望の物をお持ちしましたぞ」
 ミノが差し出したのは、俺がさっき注文した黒い槍と鉄仮面だった。
「へえ、早かったな」
 俺は槍を持って構えてみた。
「思ったより、軽いぜ」
「気に入られたようで……嬉しゅうございます。それから、よかったら、これもお使いくだされ」
 ミノは俺の後ろに回ると、鎧に何かをつけた。
「ん? こりゃ……マントか?」
「はい、やはり、鎧にはマントが合うかと……」
「ありがとよ。気に入ったぜ……。じゃ、そろそろ行くか」
 俺は鉄仮面を被った。
 仮面を被った瞬間、視界が闇一色になった。

 ただの鉄仮面なのに、被っただけで、気分が変わる。
 全てが黒く見える。今まで、咎めていたことや、迷いなどが、全て消えていく。
 まるで、心が黒く染まっていくような気がする……。

 これで、敵を何の迷いなく、殺せる。
 敵とはいえ、相手は生き物だ。殺していい気がするわけない……。
 でも、この鉄仮面を被ったら、何とも思わない。

 別に、ミノが鉄仮面に細工をしたわけではない。
 俺の気持ちの問題だ。

「ん? どうした……。姫」
 婦子羅姫がおびえた目で、俺を見ている。
「こ、黒王、そなたが仮面を被ると、人が変わったような気がする。とても、恐ろしい眼をしておる……」
「そっか、俺は魔族以上か……」
 黒王か……まんまだな。
 俺はやるせない思いで、叫んだ。

「よし、出るぞ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

Re:コード・ブレイカー ~落ちこぼれと嘲られた少年、世界最強の異能で全てをねじ伏せる~

たまごころ
ファンタジー
高校生・篠宮レンは、異能が当然の時代に“無能”として蔑まれていた。 だがある日、封印された最古の力【再構築(Rewrite)】が覚醒。 世界の理(コード)を上書きする力を手に入れた彼は、かつて自分を見下した者たちに逆襲し、隠された古代組織と激突していく。 「最弱」から「神域」へ――現代異能バトル成り上がり譚が幕を開ける。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...