閉ざされた窓

味噌村 幸太郎

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2004年

2004年6月 ④

 僕が閉鎖病棟で冷えたまずい飯を食い終えると、結衣と家族が現れた。
 話を聞けば、「一か月ほど入院したほうがいい」と医師に告げられたそうだ。
 入院する前は『入った方が暴走してしまう自分を止められる』と思えた。

 結衣と離れるのはとても辛かった。
 僕には結衣だけが支えで、生きがいだったから……。
 彼女のいない毎日は考えられない。

 結衣はどこか不安気な顔で手を振って別れた。

「辛いけど仕方ない。しばらくの我慢だ」

 そう言い聞かせて、病棟に戻る。

 だが、この病院は息苦しい。
 何が? と問われると説明しづらい。

 食事をしたときも屈強な若い男性が皆黙って僕たちを睨みつけるように見張っている。
 時折、知的障害も抱えているような重度の障がい者にはかなりきつく注意していた。
 彼らは何も悪い事をしていないのに。
 そうだ、アレを思い出す。

 中学生の時に見た映画『スリーパーズ』だ。
 劇中でとあることで人を殺めてしまった少年たちが少年院に入る。
 入った先で他の受刑者からいじめを受け、食事の入ったトレーを床に落とされる。
 助けを求めたブラッド・レンフロが刑務官役のケヴィン・ベーコンに無理やり床に落とされた飯を食えと暴力を働く……。

 そこまで酷くはないのだけれど、常に無言のプレッシャーを感じる。
 みんなそれを察してか食事の際も私語は一切なし。
 食欲がない時、食事を残せば、婦長に文句を言われる。

「あらあら幸助くん、ダメでしょ。食べなきゃ……もったいない。そんなんだから元気ないのよ」

 元気ないから入院したのに、なにを言っているんだ? この人は……。
 心底腹が立った。


 中年の看護師に明るく病院の紹介を受けた。

「幸助くん、しばらくここにいなよ」
「ここで同じ境遇の友達をつくるといいよ」
「そうだ、作業場があるからそこで何か作ればいい。例えばプラモとか!」
 そう励まされた。
 だけど、僕は苦痛にしか感じない。

 だって結衣がいないから。


 6人部屋の大部屋に入れられたけど、ベッドと小さな床頭台があるだけ。
 普通の病院は有料のテレビなんかがあるのに、どのベッドにもなかった。
 唯一、設置されていた場所は患者みんなが集まる食堂のみ。

 その一個を100人以上もいるみんなで共有しろというのだから、なにも娯楽がない。
 もっとも今の僕は「ここから早く出たい」一心でいっぱい。
 テレビなんかよりも自由がほしかった。

 また入院する際に、血だらけの携帯電話を奪われた。

 理由は知らないけど、きっと外部との連絡を遮断するためだ。

「連絡をとりたいときは備えつきの公衆電話を使え」
 と看護師に言われた。

 2000年代に入り、携帯電話を大半の人が持っていた時代。
 今時珍しいピンクのダイヤル式公衆電話。
 10円玉硬貨しか受け付けない。
 これも一台しかなく、たくさんの患者が利用していた。

 電話はローテーブルの上にあり、その下に小さな丸椅子が置かれている。
 そこに座って電話するんだけど長時間は使ってはいけない。
 確か張り紙で「一人5分厳守」とか書いてあった。

 ただ一つ僕だけ例外があった。
 口を酸っぱくして言われていた。

「彼女には絶対に電話をしちゃダメ」

 僕は愕然とした。
 当然「なぜですか?」と尋ねる。

 すると看護師は顔をしかめてこう言った。

「先生にそう言われてる」


 僕から……僕から結衣を奪うつもりだ。

 そう感じた。

 あとで聞いた話だと、当時の医師は「今の幸助くんに結衣ちゃんは刺激が強すぎる」とのことらしい。
 人間関係を一切シャットダウンし、静かな環境で心を落ち着けることを治療とされた。

 つまり、本当の意味で僕は結衣から『隔離』されたことになる。
 檻はないけど、見えない鉄の柵が鎖が確かに見える。
 
 僕は何も悪いことをしてないのに、なぜ彼女を奪う!
 騙された……僕は家族に電話して、すぐ退院したいことを伝えた。

 だが、親父とお袋は「今は先生のいうことを聞け」の一点張り。
 また結衣からの伝言で「毎日お見舞いにいくから」とのことだ。

 僕は不満だったが、それで我慢した。
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