おじさんとショタと、たまに女装

味噌村 幸太郎

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第二章 通い妻

まぜるな危険

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「ですから、SYO先生。たまには趣味を変えて、ムチムチ女子大生からロリ体型に変えたら、どうでしょうか!?」

 そう言って、喫茶店のテーブルを平手で叩く地味な女性。
 普段は大人しい女の子なのに、創作の話になると興奮しがち。
 元々、俺が所属している編集部は男性が多かった。
 そりゃ成人男性向けのマンガ雑誌だからな……。
 若い女性は、働きづらいだろう。

 だが、この目の前にいる高砂たかさご 美羽みうさんは違う。
 元々ロリ好きで、なおかつ百合が大好物。
 母体である博多はかた社の採用担当は彼女を見て、女性向け雑誌を扱う”BL編集部”へ配置したが、問題が生じた。
 彼女の性癖が強すぎて、女性作家たちからクレームが殺到。

 仕方なく、男性向けの編集部へ異動された……。
 しかし本人は、この左遷を喜んでいる。
 むしろ転職だと叫ぶほど。

「あの……高砂さん。いきなり『ムチムチシリーズ』を、休載はまずくないですか?」
「いいえ! 前々から思っていたんですよ! SYO先生ならロリっ娘を無理やり襲うような、鬼畜ものを書けそうだって!」
「……」
 
 酷い偏見だ。
 
「だって、文字でしか表現できないのに。あの妙にリアルな女子大生! まるで実体験を基に書いているとしか思えません!」
「それはその……」

 返答に困っていると、喫茶店のマスターがメニューを持って来た。

「いらっしゃい。あれ? ひょっとして、翔ちゃんの新しい彼女さん?」
 
 天然なマスターらしい誤解だ。
 でも話が逸れて、好都合かもしれない。

「えぇ!? 私がSYO先生の彼女だなんて、おこがましいですっ!」
 
 先ほどの勢いは消え失せ、両手を左右にブンブンと振る高砂さん。
 創作に関しては暴走しがちな女性だが、恋愛や私生活になると大人しくなってしまう。
 ここは、俺が助け舟を出そう。

「マスター、この人は編集部の高砂さんだよ。前にも何回か来たろ?」
「ああ~ そう言えば、そうだったね、ごめんごめん」
 
 年上のマスターが頭を下げると、高砂さんは慌てだす。
 
「いえいえ! あ、それより注文ですよね? えっと私は……」
 
 一生懸命、メニューを眺めているが、今のままでは注文できない。
 逆さまだからだ。
 
「高砂さん。カレードリアとかどう? ここのは美味しいらしいよ」
「え、そうなんですか? じゃあ私はカレードリアを一つお願いします!」
「カレードリアね。翔ちゃんは、いつもの大盛りでいいかな?」

 いつものとは、ナポリタンのことだ。
 
「うん。それでお願いします」
 
 マスターが「あいよ」と注文を取ると、カウンターの奥へと去っていく。

「はぁ、ビックリした。私、こういう喫茶店って慣れてなくて……」
「そうですよね、俺はこの店長いんで。ていうか、毎回天神てんじんからここまで来てもらってすみません」
「全然構いませんよ。私も編集部にずっといると、気を使うので」

 本来なら出版社のある繫華街、天神まで俺が行くはずなのだが。
 年がら年中、金が無くてヒーヒー言ってるので、編集部から藤の丸ふじのまるまで来てもらっている。
 さすがに汚いアパートで打ち合わせは、気まずいので。この喫茶店を利用しているが。
 まあ、俺の狙いはこの店の会計が、編集部の経費になることだ。
 ナポリタンを大盛りで食べて、食後に飲むコーヒーとタバコが最高。
 
 でも、カレードリアか……。
 相手が若い女性だし、勝手に好きだろうと勧めてしまった。
 本当は違う。

 学生時代。
 あいつといつも、バイト帰りにこの店へ寄っていたから、癖になっているだけ。

『マスター、ナポリタン大盛りとカレードリアね!』
『ちょっと! 翔ちゃん、私はまだ決めてないよ?』
『でも、お前。毎回悩んだうえでドリアじゃん』
『そうだけどさ……酷くない!?』

 別れて3年も経つのに。
 まだ忘れられないのか、だせぇな。俺って……。
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