おじさんとショタと、たまに女装

味噌村 幸太郎

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第八章 正直になろう

過去の清算

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 「じゃあ、翔ちゃんは”いつもの”で、いいんだよね?」

 とウインクをする、マスター。
 いつものとは、ナポリタン大盛りと、食後にコーヒーということだ。

「私は、どうしようかなぁ……」

 綾さんはメニュー表を開いて、迷っている。
 それに対して、隣りで座っている航太は腕を組んで、まぶたを閉じていた。
 不機嫌そうだな……。一体、どうしたんだ?

「航太、お前はどうするんだ?」

 俺がそう問いかけると、片方のまぶただけを開く。
 
「おっさんこそ、”いつもの”って何を頼んだの?」
「え? ああ、俺はナポリタンの大盛りさ」
「そ、そう……あの、じゃあオレも同じやつをお願いします」

 なんだ? 俺と同じものを頼みたかったけど、分からなくて怒っていたのか。

 マスターが航太の注文を聞いて、目を丸くする。

「坊や、大丈夫かい? うちの大盛りは大学生向けにしてあるよ?」
「だ、大丈夫だよ! オレだって男だし、中学生だぜ!」
「はははっ! そうかそうか、じゃあたくさん入れてあげようね」
「え……」

 航太の虚勢が裏目に出たな。
 まあ、頑張ってもらうしかないだろう。
 しかし、母親の綾さんは、未だにメニュー表を見て迷っている。

「う~ん。ドリアも良いけど、グラタンも捨てがたいわぁ~ 黒崎さん、どれがおすすめですか?」
「ああ……カレードリアでいいんじゃないですか?」

 正直、綾さんのメニューを考えるのは面倒だった。

「じゃあ、私はそれを一つお願いします。あとは……デザートね」
「……」

 このあと、デザートが決まるまで20分ぐらいかかった。

  ※

「おいしぃ~!」
「あ、本当だ」

 どうやら、美咲親子もこの店が気に入ったようだ。
 腹が減っていた俺は、既に食べ終わって、タバコを楽しんでいる。
 吸いながら、目の前にいる綾さんと航太を眺めていると、変な錯覚を覚えてしまう。

 傍から見れば……俺たち三人は親子に見えるかもしれないなと。

 そんなことをひとりで考えていると、ジーパンのポケットに入れていたスマホのベルが鳴り始める。
 ひょっとして編集部の高砂さんかな? と思って、画面を確かめると……。
 かけてきた相手は、元カノの未来みくるだった。

 焦った俺は、思わず指からタバコを落としてしまう。
 それに気がついた航太が、フォークの動きを止める。

「どうしたの? おっさん」
「あ、いや……ちょっと、仕事先の相手がな」
「ふ~ん、それより落としたタバコ。ちゃんと拾いなよ、火事になるぜ?」
「悪い」

 地面に落としたタバコを拾って、灰皿にこすりつける。
 綾さんに「仕事の電話」だと嘘を言って、店の外へ出る。
 店の駐車場に出たところで、一旦深呼吸をしておく。

「もしもし?」
『あ、翔ちゃん……この前はごめんね』

 久しぶりに聞いた未来の声は、弱々しく聞こえた。

「おお……俺こそ、悪かったな。色々と」
『ううん。翔ちゃんは何も悪くないよ……ところで、また会えないかな?』
「え!?」
『ダメなら、やめるけど……』

 正直、今はあまり会いたくない。
 ついこの前、未来といるところを航太に見られて、あんなことになってしまった。
 でも……彼に見られないところなら良いかな。
 
 例えば、ここからかなり遠い場所。
 繁華街の博多はかた駅とか、天神てんじんぐらい。

「わかった。いいよ、いつ会う?」
『ありがと……。翔ちゃん、悪いんだけど。近所のコンビニまで来てくれる?』
「は?」
『実は、もう”藤の丸ふじのまる”に来てるんだよね』

 未来の言う近所のコンビニとは、俺がいつも酒やつまみを買う時に利用するお店だ。
 しかし、彼女が待ち合わせ場所にしているコンビニは、今いる喫茶店”ライム”の目の前にある。
 お互いに気がついてないだけで、目と鼻の先で通話していた。

  ※

 コンビニの駐車場に立って、スマホを持っている彼女を見つけた俺は、電話でこちらへ来るように促す。
 喫茶店の窓から店内を確認したが、今綾さんと航太は食後のデザートを楽しんでいる。
 ちょうど店からは壁で死角になっているから、ここで話す方が良いと思った。

「ごめん……また急に来て、翔ちゃん」
「まあ、いいさ。ところで今日の用はなんだ?」

 今日の彼女は前回と違い、ひと回り小さく感じる。
 化粧もしてないし、着ている服も色々とコーディネートを間違えているような……。
 なんだか、学生時代の未来を見ているようだ。

「あ、あのね……この前の人。綾さんだっけ? 本当なの?」

 目に涙を浮かべて、必死にこちらを見つめる。

「おい、綾さんは違うって言ったろ? あの人はただのお隣りさんだ」
「じゃあ……なんでさっき、あの人と一緒に仲良く話していたの?」
「な、何を言って……」

 まだ話している途中で、未来が大声を叫んで遮る。
 
「私、見てたもん! マスターと、あの人と翔ちゃんが楽しそうに話しているところを!」

 そう言って、窓から店内を指差す。その方向には、嬉しそうに笑う綾さんと航太が座っていた。

「未来、お前……見ていたのか?」
 
 参ったな……、どうしよう。
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