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第9話
しおりを挟む「んで? ずっと、神埼さん家の娘さん見てたわけ?」
「はい……」
出された熱いお茶を冷ましながら飲む。
俺は現在、神埼を覗いてた時に隠れていた、おばさんの家にいる。
事情を話せと強引に家へ通されたのである。
通された部屋は玄関から一番近い部屋でかなり広かったが、1人暮らしのためか、かなり物が散らかっていた。
話して見るとなかなか優しいおばさんだ。
俺のことを親戚の子供のように気を使って、「これ食べな」と家にあったおやつを色々出してくれた。
朝食ったばかりだし、神埼のあんなシーンを見せられて、食べる気分にはなれなかったのだが……。
「俺ってストーカー…ですかね?」
「いや~ストーカーまではいかないんじゃない? まだね」
腹を抱えて笑う。
「だって小学生ん時の好きな子を尋ねるんでしょ? あんたいくつ?」
「さ、34歳ですけど……」
また爆笑で話が中断される。
「そりゃ重症だ」
「純情とかって言ってくださいよ!」
「ピュアって年かい?」
言われて口がふさがる。
「まあ私なんかは60超えて、旦那は数年前にお陀仏でね。子供もいなかったからさ。神埼さん家のお父さんの笑顔が時々うらやましく思えたよ」
「あ、なんかすいません……」
「いやいや、別にあんたも神埼さんのお父さんも悪くないさ。それに私も近所の婦人会の奥さんたちとよく買い物とか映画とか旅行にも行って楽しんでるさ。あんたはそういう友達いないの?」
「何人かはいますよ……てか1人だけど」
「かわいそうだね、あんた。ちょっと、待ってて」
おばさんが立ち上がるとふすまを開けて、奥の部屋から小さな写真を持って来た。
「これ私と旦那」
その写真にはおばさんと旦那さんが海の前で並んでたっていた。
旦那さんの方は特に嬉しそうにもせず、どちらかというとムスッとした顔でいる。
対しておばさんはとても幸せそうに笑っていた。
「いつの写真ですか?」
「ああ、旦那が死ぬ前にね。まだ元気だったから還暦記念で旅行にいったのよ。笑っちゃうでしょ? その顔」
「旦那さんがですか?」
写真をおばさんに返す。おばさんはひじをテーブルについて、写真を懐かしそうにながめる。
「うん……あの人、写真が苦手でね。普段はもっと笑う人なのよ」
そう話すおばさんの顔はどこか悲しげにも見えた。
その姿を見ているとなぜか、俺の母親の姿が頭に浮かんだ。
「なんか、いいですね、夫婦でそういうことできるのって」
「あんただって、いつかそういう人と出会えるよ」
「本当ですか? 俺でもできますか!?」
「まあその前にダイエットかな」
またしばらく笑いで話が中断される。
いかんな、このおばさんと話していると、ペースを奪われる。
「笑ってごめんね。でもあんたならできるって気がするよ、これはホントだよ」
その言葉を信じていいのでしょうか?
「でも…もう俺はいいです。神埼のあの顔を見れば、俺が入る隙間はないし……」
そう言うとまたおばさんが笑いだした。
「えらく弱気だね。まあ初恋相手のあんな濃厚なキスを見たらね……」
あんたも見てたんかい!
「それであんた今からどうすんの?」
「まあ…神埼との恋も終わったわけですし、友達と会って帰りますよ」
「そっか…」
ふいに寂しそうな顔をする。
「でも、まだ時間はあるんだろ? 今からうなぎでも宅配してパァーっとしようよ!」
そう言うと、電話の下にあったチラシを出した。
「いやいや、俺そんなに金、余裕ないですし…」
俺が立ち上がると、おばさんが振り返る。
「ばーか! おごるって」
「いやいや、本当。そんな初めて出会った俺なんかに、そんな…」
「ごちゃごちゃうるさい!」
丸めたチラシで軽く頭を叩かれておとなしく座る。
「は、はい…」
俺はこんなところでなにをしてるのだろうか・・・?
結局、おばさん家でうな重に、デザートにケーキまでご馳走になった。
食べ終わったあと、酒まで出されるはめに……。普段飲まない酒もあってか、かなり話が盛り上がった。
お互いに愚痴を吐き、笑ったり、泣いたり。
おばさんには随分と気に入られ、最後には携帯電話の番号とメールアドレスまで交換した。
「んじゃ、ごちそうさまでした!」
「気をつけて帰れよ! 今度、絶対福岡にも行くからさ!」
妙な約束までされて、笑顔でおばさんと別れた。
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