幼馴染を忘れられなくて童貞34年極めたらリア充になれた話

味噌村 幸太郎

文字の大きさ
12 / 26

第12話

しおりを挟む

 俺たちは木村先生に言われた通り、手羽先を食べていた。
 と言っても小さな居酒屋なのだが。

 夫婦らしき中年の男女がカウンター前で注文を取ったり料理している。
 仕事帰りのサラリーマン、OLで店内はかなりにぎわっていた。
 カウンターに通され、もう何皿も手羽先ばかり注文している。


「はい! 手羽先とビール、お待ちどうさん!」
 左手にパリッと揚げられた手羽先を、右手にはビールを持って乾杯。
 本日、何回目の乾杯だろうか?

「おーし! 友情に乾杯!」
「失恋に乾杯!」
 またいらぬことを。
 イッチーのいやらしい笑顔にカチンときた俺は首を絞めてゆする。


「てーめぇ!」
「ハハハ!」
 とても居心地が良かった。
 確かに昔の故郷はもう既に俺の知るものは少なかったが、少なくてもいいじゃないか。
 この心を許せる、親友がいるのだから。


「なぁなぁヒロちゃん。この後さ。風俗でも行かない? 僕、妹系がいいな♪」
 急な無茶ぶりにうろたえる。
「ええ!? 俺、嫌だよ……だって童貞だもん」
 風俗とか怖いわ。「お客さん、童貞なの!?」とか言われそうで。


「アナルプレイが気持ちいいよ! 3つの穴を吸って、舐めたい!」
 大きな声で手羽先の骨を振り回して叫ぶ。
 3つの穴って……。こいつ、マン汁、小便、大便、全部を飲む気か?

「お前、酔っ払ってんな……」
 周囲の視線が俺たちに集まる。
 とても恥ずかしいんだが。


 店長らしきおじさんが話を聞いていたのか、割り込んでくる。
 最初は怒られると思ったけど。

「え、お兄さんまだ童貞なの!?」
 店中に響き渡る声で店長が話すもんだから、周りにいる若い男女が一斉に俺を見た。
 そして、酒も入っているせいか、店長の一声で大笑いが始まる。

「も、もっと小さな声で頼みますよ…」
「ありゃ、すみませんね……オイラも心配なんですよ! でもお友達の言うとおり! この店の近くにいい店ありますよ! なんならご案内しましょうか?」
 隣りにいた中年の奥さんが大将を睨む。

「あんたが行きたいだけだろ…」
「んなわけないだろ! こりゃ男同士の悩み……いやいや人生最大のターニングポイントですよ! お兄さん!」
 そこまで力説せんでも、ことの重大さには気づいてるわ!

「いや、俺はちゃんと恋愛して、童貞は捨てたいです」
「そんなもん大切にしたって仕方ないよ、お兄さん? このままじゃ、童貞のまま死んじゃうよ!?」
 それだけは避けたいんだよ、こっちは!

「アナルプレイ!」
 まだ言ってんのかこいつは?
「もういいよ、イッチー! ところで俺を呼び出した理由ってなんだよ?」
「アナルプレ……ああ、そうだったね。大事なことを言い忘れてたんだ、アハハ!」
 アハハじゃねぇよ。


「僕ね、実はそんなに売れてないけど、マンガ書いてるんだ」
「マンガ!? スゲーんじゃん!」
 俺が驚くと照れくさそうにバッグから一冊の本を取り出した。
「これなんだけど……」
 イッチーの手にあった本は俺のよく知るマンガ、『カミナリマン』だった。
 今、一番、ノリにのっているマンガで、重版に次ぐ重版。そして、アニメ化も決まっている。

「ああ! 俺、これ知ってるよ! 今度アニメ化すんだろ!」
 ザワッと俺たちの後ろにギャラリーができる。
「お恥ずかしい…」
「マジかよ……お前がこれ書いてたのかよ!? 早く教えろよ! 買ったのに!」
 両手をカウンターの下で、もじもじと思春期のJCみたいな反応をしやがる。
「いやぁ、ある程度、安定するまではヒロちゃんには言いたくなかったんだ」
「なに言ってんだよ! 親友だろ?」
 バシッとイッチーの背中を叩く。


「ううう…」
 その声を辿ると、カウンター内で大将と奥さんが肩を震わせていた。

「うう、親友だからだよ、お兄さん! 友の力を借りず、自分の力だけでのし上がりたかったんだろ、な!」
「な、泣けるねぇ……」
 頭をかいて恥ずかしがるイッチー。

「まあのし上がるというか、仰る通り、友達のヒロちゃんの力を借りるわけにはいかなかったんです。ヒロちゃんに認めてもらうには周りから…と思いまして…」
 顔を真っ赤にしているイッチーに対して、大将と奥さんは泣きながら鼻をかんでいる。
「最高だ、あんたら! 感動したよ! これはオイラから、あんたたちの友情へだ!」
 山盛りのキャベツがカウンターに出された。
 いや、そこは山盛りの手羽先だろ……。


「そっか、おめでとう、イッチー! 自分のように嬉しいぜ」
「あ、ありがとう。でも、実はもう1つあるんだ……」
 まだモジモジくんモードが続いている。

「なんだよ?」
 答えが長そうなので、手羽先を食いながら聞く。
「僕…この前、子供が生まれてさ」
「ブッ!」
 噛み切れてない肉がイッチーの顔に噴射される。
「うわっ! 汚いな!」
 おしぼりで顔をふくイッチー。

「わ、悪いって、お前がそんなこと隠してたからだろ!?」
「別にこれは隠してたわけじゃないんだ。実は親に反対されていてね……」
「え、どういうこと?」
 細い目を更に細くして、どこか遠くを見ているようだ。

「ほら、僕ん家自分で言うのもなんだけど、金持ちだろ?」
 さらっと言われて少しムカついた。
「ああ、だから?」
 イッチーが答える前にまた大将が話に入り込んでくる。
 もうこのおっさんうるせえな!

「鈍いお兄さんだな。だからだろ! 失礼な話だが不釣合いな相手と親が判断したのさ」
「泣けるねぇ……」
 なんなんだ? このウザい夫婦は。もう店を変えようかな。


「ええ、そうなんですよ。だからまだ籍は入れてないんです。妻、いや彼女が親に認められるまでは頑張るって……」
 するとまたウザい夫婦が泣き出す。
「わかる! わかるよ、その気持ち! うちの母ちゃんも今はこんなセイウチだがね・・・」
「誰がセイウチだよ!」
 包丁のみねで旦那の頭を殴る。
 こ、怖え……。


「オイラも昔、母ちゃんの親に反対されてさ。遠く離れたこの地にお嬢様だった母ちゃんと、この店を建てたのさ」
 お、お嬢様…。このセイウチっぽい人が?
「本当、あの時は辛かったね……」
 しんみり語る奥さんに、店内は静かになっていた。
 もう客全員がイッチーとこの夫婦の話に釘づけだ。


「だけどよ。今日、おばちゃんと会って笑って話してたじゃないか?」
 するとイッチーが悲しそうに語る。
「あれはヒロちゃんの前の体裁さ。正直、今は駆け落ち状態&絶縁状態かな……」
「そっか……」
 イッチーの話に夫婦と客がすすり声をあげる。

「それで、ヒロちゃんさえ良ければ、この後、僕の子供に会ってくれない?」
 思いがけないリクエストに焦った。
「ええ!? 俺が!?」
「行ってやんなよ、兄さん!」
 お前が言うな。
「そうだよ、親友の子供だろ? 甥みたいなもんさ」
 いやいや、だからお前ら夫婦に聞いてねーよ。
 俺は、自分の姪でさえ、触れたこともないのに。

「嫁さんもヒロちゃんに会いたいって、言ってるし……ダメかな?」
「まあ……いいよ。どうせ泊まるところもないから、お前ん家に泊ろうと思ってたし」
 するとまた夫婦が割り込んでくる。

「よっ、日本一!」
「最高だよ2人とも!」
 店内に拍手が巻き起こる。

 帰りになぜかデジカメで写真を撮られ、「店に貼っとくね」と奥さんに言われた。
 会計を済ませ、店から出ようとした時だった。
 カウンターの中から夫婦と、店の奥で作業をしていたという、金髪の眉毛を剃り上げた怖い兄ちゃんが出てきた。
 年はまだ10代、高校生ぐらいに見える。

「兄さんたちにこの子を紹介してもいいかな?」
「え、いいすけど?」
「ひょっとして、お子さんですか?」

 金髪ボーイは顔を赤くしてうつむいている。
「おい」と大将が尻を叩くと、「わかってるよ」と手を払った。

「あ、あのお2人の話なんすけど、自分はついこの前までヤンキーの頭やってて……」
 頭って、ガチじゃねぇか! 怖えーよ! 俺をスカウトする気かよ?

「お、おれ……俺!」
 言葉に詰まって、急に元ヤンキーくんは泣き出した。変わりに大将が話し出す。
「実はちょっと前に、このバカ息子が事故ってね。けっこう心配したんですよ。それで入院している時に暇そうだったからね。オイラ達夫婦の結婚の話をしたら、急に丸くなっちまうんだから、笑っちゃいますよね! んでお2人の話を裏で聞いてて、店の奥でシクシク泣いてやんの!」
 息子の背中をバシバシ叩きまくる大将。
 泣いている元ヤンくんを見てちょっとかわいそうに見えた。
 そんなに叩かなくても……。

 イッチーを見ると優しく元ヤンくんに微笑んでいた。
 続いて奥さんが話す。

「今はこんな家庭ですがね。この子が生まれて一年もしないうちに、私の反対していた両親が結婚を許してくれましたよ。やっぱり子供の力ってすごいんですね」
 そのセイウチ母ちゃんも元ヤンくんの背中をバシバシ叩く。
 あんたら両親のせいで、不良になったのでは?

「みたいですね」
 どうやらイッチーには夫婦の言葉が伝わっているようで、満面の笑みだ。
 最後に大将がイッチーの両手を掴んで、大きな声で伝えた。
「だから、あんたも負けないで! いつまで経っても親は親で、子は子なんだから! 他人には絶対になれねーよ!」

 イッチーの目には大きな涙が浮かんだ。
 とても感動するシーンなのだが、俺はその光景を見て、とても悲しいというか寂しかった。
 普段はいつも変態な話で盛り上がっていた親友が、どこか遠い場所へ行ってしまった気がする。
 
 イッチー、お前も……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果

景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。 ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。 「俺……ステラと離れたくない」 そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。 「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」 そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。 それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。 勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。 戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──? 誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

処理中です...