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第四章 「激闘」
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「やべぇ……このままじゃ、やられちまう」
史樹が血の混じった唾を吐きながら言った。
「当たり前だろうが。てめぇらはただの木偶人形だ。黙ってご主人様の死に様でも拝んでろ!」
冷笑するハイ・エンドはホールの天窓から入り込む夕日を浴びて紫色に染まる。
それが何とも言えないくらいに禍々しく不気味だ。
「おやっさん……」
絶妙なコンビネーションを誇る夕貴と史樹だが、彼らの原動力である肉体がボロボロの状態に陥っていた。
手足の腱が何本も切断されたらしい。体がいうことを利かない。
惨敗だ。
今のハイ・エンドには勝てない。
冬の蝉の保護システムでも赤の剣の力の前では敵わないのか。
これほどまでの力を現時会は知っていたから多額の金と膨大な時間を掛けて探し当てたのだろう。
ハイ・エンドと絶大な力を誇る赤の剣を前にして夕貴の頭に一つの言葉が浮かんだ。
それは絶望……。
このままでは事態が悪化するばかりだ。なんとか打開策を打たねば。
「一ノ瀬君!」
突如、ホールに現れたのは青ざめた顔で立ち尽くす品田 由香であった。
ハイ・エンドに全身の血液を吸われた守を見て呆然としている。
「い、一ノ瀬君が……」
由香に気がついたハイ・エンドが目を光らせた。
「何だ、てめぇは? また、保護システムか? いいよ……やってやるよ!」
赤の剣を由香に向ける。
ハイ・エンドはもう物事を正常に判断できる状態ではない。
赤の剣に取り込まれ、今では殺戮を楽しむ狂戦士だ。
由香は蛇に睨まれた蛙のごとく、全身を硬直させた。
「由香ちゃん、逃げて!」
必死に叫ぶ夕貴の叫び声が空しくホールに響く。
それがスイッチとなったのかハイ・エンドは由香に襲い掛かった。
常人である由香には一瞬の出来事だった。
「ちっ、うぜぇ奴だな!」
由香の目の前には自ら右腕を差し出して剣を受け止める一ノ瀬 守の背中があった。
「くっ……品田、逃げろ……早く、逃げるんだ。俺の力が残っている間に」
由香の目に映った守の顔は非情や冷酷とかそんなものはどこにも見当たらない。
そこには確かに愛する人を守るといった僅かな暖かさと誇らしげな強さがあった。
「い、嫌だよ! 一ノ瀬君、一人だけで死なせるのはイヤ!」
痺れをきらしたハイ・エンドが守を押し退ける。
守はホールを囲む座席に放り投げられた。
「ピーピー、ピーピー、うるせぇんだよ! 戦場に女は邪魔だってんだ!」
憎悪がハイ・エンドを塗り潰していく。更に黒く、闇へと……。
赤の剣に完全に取り込まれたハイ・エンドは闇だけだ。闇だけが彼を支えている。
悪魔の咆哮が地響きを生じさせたその時だった。
美しい裸体を輝かせた男女が目の前に現れたのだ。
夕貴と史樹だ。
たくましく育った男のそれと見事に膨らんだ女のそれが並んでいる。
二人は端麗そのものだ。
美しい、それだけがこの二人を言い表せる最良の言葉だ。
その姿を見た守は絶叫した。
「やめろ! やめるんだ。二人とも! 命が……命が無くなるぞ!」
守が警告した時は遅かった、もう始まっている。
二人の儀式は始まっている。
夕貴と史樹は互いに吸い寄せられていく。
二人は肌と肌を合わせ、身を委ねた。
自分という他人に……。
瞼を閉じ、熱く火照った唇を重ねる。
その瞬間から金色の光りが辺りを包んでいく。魅せられたハイ・エンドも言葉を失い、事の成り行きを見納めようとした。
更に光りは輝きを増し、それが頂点になった時、二つの魂が一つになる。
重なり合った心が彼を呼び戻す。
史樹が血の混じった唾を吐きながら言った。
「当たり前だろうが。てめぇらはただの木偶人形だ。黙ってご主人様の死に様でも拝んでろ!」
冷笑するハイ・エンドはホールの天窓から入り込む夕日を浴びて紫色に染まる。
それが何とも言えないくらいに禍々しく不気味だ。
「おやっさん……」
絶妙なコンビネーションを誇る夕貴と史樹だが、彼らの原動力である肉体がボロボロの状態に陥っていた。
手足の腱が何本も切断されたらしい。体がいうことを利かない。
惨敗だ。
今のハイ・エンドには勝てない。
冬の蝉の保護システムでも赤の剣の力の前では敵わないのか。
これほどまでの力を現時会は知っていたから多額の金と膨大な時間を掛けて探し当てたのだろう。
ハイ・エンドと絶大な力を誇る赤の剣を前にして夕貴の頭に一つの言葉が浮かんだ。
それは絶望……。
このままでは事態が悪化するばかりだ。なんとか打開策を打たねば。
「一ノ瀬君!」
突如、ホールに現れたのは青ざめた顔で立ち尽くす品田 由香であった。
ハイ・エンドに全身の血液を吸われた守を見て呆然としている。
「い、一ノ瀬君が……」
由香に気がついたハイ・エンドが目を光らせた。
「何だ、てめぇは? また、保護システムか? いいよ……やってやるよ!」
赤の剣を由香に向ける。
ハイ・エンドはもう物事を正常に判断できる状態ではない。
赤の剣に取り込まれ、今では殺戮を楽しむ狂戦士だ。
由香は蛇に睨まれた蛙のごとく、全身を硬直させた。
「由香ちゃん、逃げて!」
必死に叫ぶ夕貴の叫び声が空しくホールに響く。
それがスイッチとなったのかハイ・エンドは由香に襲い掛かった。
常人である由香には一瞬の出来事だった。
「ちっ、うぜぇ奴だな!」
由香の目の前には自ら右腕を差し出して剣を受け止める一ノ瀬 守の背中があった。
「くっ……品田、逃げろ……早く、逃げるんだ。俺の力が残っている間に」
由香の目に映った守の顔は非情や冷酷とかそんなものはどこにも見当たらない。
そこには確かに愛する人を守るといった僅かな暖かさと誇らしげな強さがあった。
「い、嫌だよ! 一ノ瀬君、一人だけで死なせるのはイヤ!」
痺れをきらしたハイ・エンドが守を押し退ける。
守はホールを囲む座席に放り投げられた。
「ピーピー、ピーピー、うるせぇんだよ! 戦場に女は邪魔だってんだ!」
憎悪がハイ・エンドを塗り潰していく。更に黒く、闇へと……。
赤の剣に完全に取り込まれたハイ・エンドは闇だけだ。闇だけが彼を支えている。
悪魔の咆哮が地響きを生じさせたその時だった。
美しい裸体を輝かせた男女が目の前に現れたのだ。
夕貴と史樹だ。
たくましく育った男のそれと見事に膨らんだ女のそれが並んでいる。
二人は端麗そのものだ。
美しい、それだけがこの二人を言い表せる最良の言葉だ。
その姿を見た守は絶叫した。
「やめろ! やめるんだ。二人とも! 命が……命が無くなるぞ!」
守が警告した時は遅かった、もう始まっている。
二人の儀式は始まっている。
夕貴と史樹は互いに吸い寄せられていく。
二人は肌と肌を合わせ、身を委ねた。
自分という他人に……。
瞼を閉じ、熱く火照った唇を重ねる。
その瞬間から金色の光りが辺りを包んでいく。魅せられたハイ・エンドも言葉を失い、事の成り行きを見納めようとした。
更に光りは輝きを増し、それが頂点になった時、二つの魂が一つになる。
重なり合った心が彼を呼び戻す。
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