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二十六話「異世界をまたにかけて俺の命が狙われています!②」

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天界のイメージ? 
俺は今まで天界のイメージができなかった。
きっともっとファンタジーな世界、雲がもくもくってなっているかと思ったけれど、日本で過ごしていた世界とほとんど変わらないんだ。
いつも歩いていたような道路、信号、ビルなんかも全部日本とほぼ同じ。違うところはそこに天界人が住んでいるかどうかくらい。
だから、年に一度のお祭りも大きく変わるものではない。

遊戯に関しては金魚すくい、射的、輪投げ、型抜き、くじ引き。
食べ物に関してはたこやき、焼きそば、りんご飴、ポテトなどなど



「ミミ、今年はあの伝説のタコ焼き屋さんが20年ぶりに復活するんだって!」
「本当ですか! 最後に私食べたのは100年前だったから、楽しみです!」

 天界に住む人たちは普通の人たちの10倍長く生きることが出来る。俺は17歳でほぼ成人という見た目に対して、天界人は10歳でハイハイができるようになるくらいの成長の進みぐあいらしい。だから、二人の会話も彼女からしたらいたって普通なのだ。
それにしてもミミとダリアさんは本当に仲がいいなぁ。まるで本当の姉妹のようだ。
「将大さん! 射的の景品は全部持っていますか!」
「お、おう……」
ダリアさんは射的の天才だったとは……店主も泣いていたぞ。
「本当は全部獲得できたんだけど、店主が今にも泣きそうな目でこちらを見てきたから途中でやめたわ」
「この景品は全て恵まれない異世界に全部寄付するんですからね!」
(恵まれない異世界……なんか凄いワードだ)


「ミミ、そろそろ抽選がはじまるわ。受付に行きましょう」
「はい!」
「将大、あんたはお祭り本部の近くにある寄付ボックスの中に景品を入れてから来なさいよ。あと、遅れたら抽選に承知しないから」
「は、はい(ミミとの扱いの差がひどい)」

◇◇◇
 俺はものすごい量の景品をもって、祭りの本部近くにある寄付置き場に付いた。

 寄付をする景品と言ってもぬいぐるみや子供だましのおもちゃばかり、これを異世界に寄付しても意味あるのだろうか? と思う人が多いだろう。
 ダリアさんの話によると、天界の物は微量の魔力を混ぜた材料でできているという。異世界に送ることで、これを拾ったものは微量の魔力を得ることが出来るんだって。
 これで魔獣や魔物から自分を守ることが出来るかもしれない、そうすれば町を守れるかもしれない、そうすれば世界を守れるかもしれない……との事らしい。

 つまるところ、天界のおもちゃは異世界では喜ばれるんだって!
◇ ◇ ◇
 寄付を終わった俺はお祭りのメイン会場である大広場に向かい、受付を終えた。

「将大さん、遅いです! 受付ぎりぎりじゃないですか! イセパットがもらえなくてもいいんですか?」
「抽選で当たったらでしょ! 気が早いよミミ」
「あんた、外したら承知しないんだからね」ギロ
「ダリアさん、抽選です。こういうのって当たるわけがないでしょ!」
「そういう気持ちだと幸運の女神が逃げていくわよ、私は女神だけど」
「そうですよ! 将大さん! あてるという気持ちが大事なんです! 私は女神見習いですけど」
「わ、わかりました。頑張って当たるように女神にお祈りします、目の前にいるけど」

「頑張って豪華賞品ゲットです!ダリアさん!」
「ええ、頑張りましょう」
ふたりともやる気満々だ。なんかまがまがしいオーラが出ているような。
「アタレ……アタレ……」
「アタレ……アタレ……」
こわいこわい! これじゃあ、女神じゃなくて悪魔だよ!

さて、俺の抽選番号は「5244」、

でも所詮、抽選!当たるわけがない。当たるわけがないのだ。

「それでは1等5244番の方! いらっしゃいましたら、壇上の上まで登ってきてください!」

(あ、当たったわ)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちなみに5等~2等は。
5等……トイレットペーパー10年分
4等……洗剤10年分
3等……牛肉500kgパスポート(約10年分)
2等……スポーツジムパスポート(2年分)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やったー! 俺! イセパットを手にすることが出来るのだ。そうすれば俺は本当の意味で異世界で第二の暮らしをすることが出来る! ミミも夢である女神の職に就くことが出来るのだ。これでみんな幸せになれる!

ここまで本当に長かった。
どれだけミミにゴス! ゴス!をされたかそんな日々ももう終わりだ。
ダリアさんの変な異世界転生アルバイトももう終わり。働かなくてもいいんだ! ハッピー!


……本当にそうであろうか? アデアラさんの指輪を返し、誤解を解かない限り、俺はどの異世界に向かったとしても、彼女は世界を渡り俺の命を奪うであろう。
 少なくともこの問題が解決しない限りは俺は異世界転生はできない。

「将大さん、抽選は当たりました? 」
「え、お俺は……」

 それに……俺はもしかしてこの天界の暮らしが好きになってしまっているのではないだろうか? もし俺が異世界に行ったらもうミミには会うことが出来ない。
 

「……いや、俺も外れたよ」
「ああ、そうだったんですね! せっかくの女神に成れるチャンスだったのに……」
そう、これでいいのだ。俺は抽選権をこっそりと破った。

パーン! パーン!
「あ! 将大さん! 花火です!」
「本当だ、綺麗だなぁ」
花火なんて久しぶりに見たよ。まさか俺が死んでから、天界で花火を見ることになるなんて。
「将大さん、私は今日は凄く楽しかったです! またダリアさんと、将大さんと一緒にお祭りに行きたいです」
「ああ、絶対行こう」
「もちろん、あんたは荷物持ちだけどね」
「そ、そんなぁ!」

楽しいお祭りは花火とともに終わりを迎える。
俺はまだ天界でやらなければならないことがある。少なくともそれが解決するまで、俺はこの天界で生活しよう。
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