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第二章『魔法少女を襲撃する者』
Act.07:ラビとエーテルウェポン①
しおりを挟む「あーらら。慌てて走ってっちゃったわね」
「ん」
どうしたのだろうか。
まあ、見た感じでは元気そうで安心できたし、良しとしよう。でもトラウマについては不安があるな。
「あなたも罪ね」
「何故」
「え。気付いてないの?」
「?」
「……鈍感系主人公ってこういう事を言うのかしらね」
おいこら待て。鈍感系主人公って何だし。
「何かあったら出来る限り駆け付ける」
「え?」
「あんな言葉言われたらねえ……」
はて。何かおかしい言葉だっただろうか……何かあったら出来る限り、俺も駆け付けたいってだけだ。
「まあいいわ。それで、これからどうするの? ……って、現れたようね」
「ん」
もう聞きなれた警報が鳴り響く。ラビレーダーにも反応があり、魔物の出現を知らせてくれる。
ハーフモードからフルモードのリュネール・エトワールとなり、魔物が出現したであろう場所へと飛んで行った。
「推定脅威度はBね。そして三体」
「ん」
駆け付けた先には、以前にも見た事がある狼のような姿をした魔物だった。こちらにすぐに気づき、襲い掛かってくる。
「グラビティアップ」
「#$%!?」
すばしっこいって言うのは微妙に面倒なので、奴らの重力に加重する。すると、突然体が重くなったからか、俺を見て吠えてくる。
「さようなら。スターシュート」
ドカーン!
次、次、次と一体ずつスターシュートをヒットさせる。加重された状態で動けない魔物が避けることは叶わず、無慈悲に爆発する。
脅威度Aの魔物すら、大体ワンパンするこの魔法にBである魔物が耐えられるはずもなく、魔石へと姿を変える。
Bと言っても、この前のカタツムリの魔物みたいな奴が出ないとは限らないから、一概には言えないけどね。
「本当にサクッと倒すわよね」
「ん」
スターシュートが強いのがいけないのだ。単純な攻撃魔法なのに、威力がおかしい。脅威度Aをワンパンってもう奥義じゃないのこれ。
でも聞いて驚け。
スターシュートはこの威力だが、最も消費する魔力が少ない魔法なのだ!
「今回も出なかった」
「そうね」
今回も某短剣男は出なかった。魔石を回収した後、俺はその場を後にする。
「……何なんだあの化け物は!」
脅威度Bの魔物三体をもあっさりと倒す魔法少女に、怒りと恐怖を覚える。正確には聞いたことがあるが……。
魔法少女リュネール・エトワール。
魔法省茨城支部所属のSクラス魔法少女であるホワイトリリーに次いでこの辺りではかなり有名になっている野良の魔法少女だ。
またこの魔法少女に邪魔をされたのだ。あんなにあっさりと倒してしまわれると、こっちも何も出来ずに終わってしまう。
魔法省の魔法少女も最近では、複数行動が基本となってるし、中々誘き寄せることが難しくなってる。
魔法省の方まだ良いが、あのリュネール・エトワールは駄目だ。魔物の出現に便乗しようとしても、即倒される。
「……ちっ」
今日は引き上げるとする。
だが、リュネール・エトワールも魔法少女だ。魔力を纏ってるに過ぎない。ならば、同じようにしてこの短剣で刺せば無力化も出来るだろう。
しかも、あの魔力……一瞬にしてかなりの量を奪えるかもしれん。
しかも野良だ。魔法省に所属してないなら、別に無力化した後にそのまま連れ去っても問題ないだろう。
魔力はだいたい、一日で回復すると言う。それならあの膨大な魔力を持っているリュネール・エトワールがいれば無限に魔力を奪える。
「……」
これは良い感じなのではないだろうか。
取り敢えず、計画を実行する前にあの忌々しいリュネール・エトワールをどうやって誘き寄せるか考えねばな。
待っていろ、星月の魔法少女。
「っ!?」
「どうしたのいきなり身体を震わせて」
「何か悪寒がした」
「風邪にでもかかった?」
「それはない……と思う」
特に風邪らしい症状はないし、本当に急に悪寒がしただけだしな。何というか、凄い嫌な予感がする。
ちょっと色々と備えた方が良い気がしてきた。と言っても、備える物って何かあるだろうか。
例えば件の短剣の対処方法とかか?
仮に犯人と対面した場合、恐らく短剣を使って無力化を狙ってくるはず。まあ、逃げるという事も有るだろうが……。
でだ。避けるとしても、当たってしまった場合とかはどうするか? 魔力を急激に奪われるということは、その場で他の魔法少女のように倒れてしまう恐れがあるという事。
ただその黒い短剣がどのくらいの魔力を奪うかが分からん。
魔力量っていうのは人によって異なる。多い人も居れば少ない人も居る。全く無いって人も居るだろう。
流石に魔力を奪うと言っても、キャパシティみたいな物があるはずだ。無いんだったらもうどうしようもないが。
「どうしたの、そんな考え込んじゃって」
「例の短剣の対策方法を考えてる」
ブルーサファイアこと蒼の経験から分かるように、男が持つ黒い短剣は普通ではない。間近で見た蒼の話だと、何処と無く禍々しいオーラがあったようだ。
でもって、刺された瞬間体から何かが抜けていく感覚に襲われた。自分の纏う魔力が弱まっていくような感じもしたらしい。
「魔力が奪われてるっていう可能性は高くなったわね」
「ん」
魔力を奪われた魔法少女たちは一溜まりもない。力の源でもある訳だから、それは俺やSクラスのホワイトリリーにも当て嵌まる。
急激な魔力減少は体にも負担をかける。変身状態自体は、体外を巡っている魔力装甲なので、攻撃を受けなければ解除は基本されない。
体外ではなく、体内の魔力が一番重要なのだ。
以前にも言ったと思うが、体内の魔力は魔法を使ったり、体外を巡る魔力への補填に使われる。
体外の魔力は装甲だ。攻撃を受ければ当然、装甲もすり減っていく。それを補填するのに体内の魔力があてがわれる。
なので、変身中は基本ダメージを受けなければ魔力消費は起きない。受けたら受けた分、補充される感じ。
装甲の役割を持つ体外の魔力は置いておき、様々な所で使われる体内の魔力は重要。これが無くなれば魔法も使えないし、装甲も削られ行くのみ。最終的には体外の魔力もなくなり、変身解除に陥る。補充されないわけだし当然である。
短剣が奪ってるのは多分、内側の魔力。何に使うつもりかは分からないが……きっと碌でもない事に決まってる。
一番の対処方法は短剣に刺されないことだが……というかもしかしてそれしか対策無い?
と言うか、装甲があるのにそれを貫通して内側を奪える物なのだろうか? でも、気を失って倒れていた蒼は魔法少女の状態だったと聞いてる。
つまり外側の装甲の魔力には影響がないって事になる。でも、刺された魔法少女は貫通されたとは言え、本来の肉体の方には何も外傷はない。装甲が機能しているって事になるが……。
「魔力装甲貫通して体内から奪うって可能なの?」
「魔力装甲貫通する魔法自体ならあるけど、でもそれの場合は装甲が役に立たないから肉体に外傷が残るはずよ」
「貫通する魔法は有るんだ……」
「ええまあ。ただ物凄く使いにくいけど」
「そうなんだ」
ってそんな話ではなく……装甲は働いているが、体内の魔力を奪ってる。何だそれ……一体何なんだその短剣は。
「……エーテルウェポン」
「エーテル?」
少し考える素振りをした後、はっとしてラビは一言口に出す。
「でも何でそんな物が……」
「ラビ?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと驚いてしまったわ」
「そのエーテルなんちゃらって何」
ラビが珍しく動揺している事から、普通ではないって言うことだけは分かる。とにかく、そのエーテルなんちゃらについて詳しく。
「エーテルウェポンよ。エーテルウェポンっていうのは――」
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