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第二章『魔法少女を襲撃する者』
Act.13:ホワイトリリーとリュネール・エトワール②
しおりを挟む「そう言えばどうして白い兎さんを選んだのですか?」
兎のぬいぐるみのあったクレーンゲームを後にすると、雪菜に聞かれる。雪菜の方を見ればさっき取った白い兎のぬいぐるみを両手で大事そうに持っていて、素直に可愛いと思った。
やっぱり女の子なんだな、と思う。何か少しだけ顔が赤いのは気になるが、体調自体は問題なさそうだ。
「白百合、ホワイトリリー」
「え?」
「雪菜の、色」
「私の色……」
並んでいたカラーは水色、白、ピンクの三色だったし、その中で一番合うのは白かと思っただけだ。魔法少女ホワイトリリーは基本的に白い衣装だし、名前にも白と入ってるから、と言う単純な考えからだ。
「ん」
「ありがとうございます……」
あれ何か悪いこと言ったかな? 俯いちゃったけど。
「(やっぱり無自覚ねぇ)」
今回も同じく、バックパックの中にラビが入ってる。時折、俺にしか聞こえないくらいの声で話しかけてきたりとかしてくる。
「嫌だった?」
「いえ! そうではないです! えっと、凄く嬉しいです!」
「お、おう」
おっとついつい、素に近い感じで反応してしまった。やっぱりぼろ出すのは怖いな……無口キャラとは言え、喋るのだからミスがあるのは仕方がないんだけどな。
一人称を間違えなければ、取り敢えずは大丈夫かなーとは思いつつ。
で、雪菜は俺の言葉に顔を赤くして慌てて答えてくれる。嘘ではないっぽいかな? まあ、雪菜が嘘を付くとは思えないけど、好みだってあるはずだろうし。
「ゲームセンターってあまり来ないんですけど、色んなのがあるんですね」
「まあね」
気を取り直し、俺たちは適当にゲーセンの中を見て回るのを再開する。コインゲームや、太鼓のゲーム、シューティングにスロットなど、豊富である。
でもやっぱり一番多いのはクレーンゲームで、中身は人気のアニメや漫画関連のおもちゃだったり、ぬいぐるみだったりとかだ。ラジコンのヘリコプターとかもあるな。
当然だが、ゲーセン内は騒がしい。俺は別に大丈夫だが、雪菜はどうなんだろうか? 見た感じでは大丈夫そうに見えるけど。
「結構煩いけど、雪菜は大丈夫?」
「え? あ、はい。確かに結構あれですけど、問題ないですよ!」
そういう訳で雪菜に聞いてみた所、問題ないようだったので安心した。とは言え、ずっとここに居るのも耳に悪いかもしれない。
「あ、あれやってみたいです」
「ん? ……良いよ」
「本当ですか! ありがとうございます」
それは多分知らない人は居ないっていうレベルの有名な太鼓のゲームだった。ルールは簡単で、曲を選んでその曲に合わせて譜面が出るからそれを叩くのだ。
二つのバチで同時に叩くものもあれば、太鼓の外側を叩くものもある。で、必ず二つ置いてあるんだよね。二人プレイまで可能である。二人プレイ限定な譜面も出てきたりする。
「あの、一緒にやりませんか」
「わたし、下手だよ?」
「大丈夫です! 一緒にやりたいだけですし」
この手のゲームはあまり触れたことがないんだよな。でもまあ……やってみても良いかもしれないな。
俺はそんな訳で、雪菜の隣の太鼓に立つのだった。
「今日は有難うございました。楽しかったです……」
ショッピングモール内にある、フードコートにあるテーブルに座って、目の前にいる司さんにお礼を言います。時間は既に12時半を回っていて、このフードコートは結構な人が集まってますね。テーブルを取れたのは運が良かったです。
「ん。良かった」
言葉数は相変わらず少ない子ですが、こうして一緒に居ると普通の子だなと思いました。
太鼓のゲームを一緒にしようと思ったら、下手だよって言ってましたけど、実際一緒にしてみると大分”良”を取っていた気がします。十分上手だと思いましたね。
一曲程度ですけど、司さんと居るのは楽しいです。
やっぱり好きな人だからなのでしょうか? 同性ですけど、それでも好きになってしまったのでどうしようもないですよね。
ですが、ブルーサファイア、いえ蒼ちゃんと言うライバルも居ます! これは負けていられませんよね……でもどうすれば良いのでしょうか。
やっぱり思いをぶつけるのが一番なのでしょうけど……私は目の前にいる司さん……リュネール・エトワールを見ます。綺麗な黒髪は肩まで伸びていて、肌の色も白いです。
若干ハイライトのない目をしていますが、黒い瞳をしています。リュネール・エトワールの時は銀色の髪に金色の瞳でしたが、変身前は黒なのですね。
――きゅるるる
「っ!?」
「お腹すいた?」
そんなこんな考えてると、私のお腹から音が鳴ってしまいます。司さんはにはその音が聞こえてしまったのか、苦笑いをしてこちらを見てます。
カァっと赤くなってるのが分かります。好きな人の前で空腹の音聞かれちゃうなんて、恥ずかしいじゃないですか! でも、嘘をつけないのが身体なので仕方が有りませんね。
「何か食べる? 奢るよ」
「え!? わ、悪いですよ!? 自分で払います!」
「そう?」
そんな不思議そうな顔で首を傾げないで下さい。可愛いじゃないですか。
私は中学生ですけど、魔法少女として魔法省に所属しています。魔物を倒すという仕事の上、お給金というものがあります。普通よりは多く持っていると思いますよ。
魔法省に所属している魔法少女たちは国から支援を受けます。それは医療関係だったり、保険だったりとかです。そして魔法少女の居る家族には相応の保証金は出るのです。
何せ、命と隣り合わせな仕事ですからね。だからこそ、強制できないし本人の意志が尊重されます。
そう言えば、司さんには家族は居るんでしょうか。いえ、こういうのは聞くべきではないと思いますが、気になります。家族に内緒でやってるのであれば、それはそれでちょっと心配です。
考えたくはないです、が……もし司さんが死んでしまったら家族の方はどう思うのでしょうか。内緒にしているという事は気付いたら死んでいたという事になってしまいます。
それは、辛い事だと思います。いえ、それ以上ですね。
「あの、司さん」
「ん」
「司さんのご家族は居るのですか?」
やっぱり聞いておくべきでしょう。私は意を決して、司さんに聞いてみます。すると、司さんは静かにこちらを見ていました。やっぱり聞かない方が良かったのでしょうか。
「……気になる?」
「はい……ですが、聞いておいてなんですが、無理して言う必要はありません」
私も無理矢理聞きたいとは思ってません。でも気になってしまうのです。
「いいよ」
「え?」
自分で聞いておいてあれなのですが、司さんはそう答えてくれました。
「まず、両親については居ない」
「えっとそれは、遠くに居るとかですか?」
「んん。既に他界してる」
「っ! ご、ごめんなさい、私……」
「気にしないで」
驚きを通り越して私は少し泣きそうになってしまいました。つまり司さんにはもう親は居ないと言う事です。それがどれだけ辛い事か……。
「そ、それじゃあ、親戚の方とかは?」
「……」
静かに首を横に振る司さん。感情が読み取りにくいですが、それでも悲しそうに見えてます。
「司さん!」
「!?」
やってしまいました……あまりにも見ていられず、司さんを抱きしめてしまいます。すると、司さんはピクリと肩を動かしました。しかも、こんな人の多い所でです……少しだけ視線を感じて恥ずかしいですが、今は離せません。
「あの、私では頼りないかもしれませんが……いつでも相談して下さい」
魔法少女としてだけではなく、本来の姿でも、です。
「ありがとう……雪菜」
「いえ……あの、私とお友達になってくれませんか?」
好きなのは間違いないですが、そう言えばまだ友達って言えてませんでした。まずは友達から、という事で私は司さんにそう聞きました。
「いいの?」
「はい!」
勿論大歓迎ですよ!
「うん。良いよ、友達」
その答えに私は嬉しくなりました。まだ好きとは言えませんが、まずはもう少し司さんの事を知りたいですし、ここからがスタート、ですね。
ただそんなタイミングを見計らってか……モール内に警報が鳴り響くのでした。
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