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第四章『星月の選択』
Act.09:星月と黒百合共闘戦線③
しおりを挟む「大分、落ち着いたわね」
「ん」
ブラックリリーがあの魔物を倒してから、また近くで魔物が出現したのだが今回は俺が対処した。別にゴジラの魔物みたいに強い魔物ではなかったので、スターシュートやスターライトキャノンで十分だった。
「こんな短い間隔で魔物が現れるなんて……」
「ん。初めてかも」
今まではそんな短い間にどんどん出現するなんて事はなかった。連続して現れる事自体は珍しくないが、問題はその間隔である。
最初のゴジラの魔物を含めて三回も警報が鳴ったのだ。しかも、同じ地域ですぐ近く。歪とやらが発生しまくっているのだろうか。
そして依然にも魔法少女の姿はない。
「一体何が……」
「分からない。ねえ、ブラックリリー」
「何かしら?」
ちょっと他の地域も心配だ。
「テレポートって二人でも使える?」
「え? ええ、問題ないと思うわよ」
それならちょっとブラックリリーに頼ることにするか。さっきまでの戦闘で疲れているはずなのに、申し訳ないけど……ホワイトリリーやブルーサファイアたちも心配だ。
「魔力を渡すから各地域に転移できる?」
「……分かったわ。私もちょっと気になってるから」
「ん。ここは協力ってことで」
「そうね」
いくら魔法少女の身体能力があるとは言え、普通に移動してもそれなりに時間がかかる。魔力が少ないなら、そこは俺の魔力を譲渡すれば良さそうだ。
「それじゃあ、まずは魔石を回収しましょ」
「ん」
そう言えばさっき倒した魔物の魔石をまだ回収してなかった、と思い出し俺とブラックリリーは魔物が居た場所へと向かう。
「また複数個? こんな落ちたかしら」
「ん。わたしの知る限りでは一体の魔物から複数個の魔石は見たこと無い」
「そうよね……」
魔物一体につき、魔石一個。これが今まで魔物を倒した時の普通だった。そして強力な個体ほど魔石の大きさや内包する魔力が大きい。
ただ今回は続けて三体の魔物が出現し、三体とも撃破後は複数個の魔石が転がっていたのだ。最初のゴジラのような魔物は5個、二番目のブラックリリーが対処した熊のような魔物からは3個。
そしてついさっき俺が対処した魔物も、熊みたいな容姿をしていたが色が違った。強さ自体はそこまでではなく、あのゴジラのような魔物が異常だっただけだ。
でだ。そんな三体目の魔物から落ちたのは少し大きめな感じだけど、最初の魔物よりは小さく、数は3個。二体目とほぼ同じくらいだな。やっぱり同種なのかね?
「どうする?」
「どうするって何が?」
「魔石の分配よ。どうせ全部受け取ってと言っても受け取ってくれなさそうだし」
それはそうだ。
俺一人で倒した訳ではないし、そもそも最初に戦っていたのは彼女だしな。むしろ、そっちこそ全部受け取って欲しいと思うんだが、まあ受け取らないだろうな。
ゴジラの魔物の魔石は2.5個で分けたが、二体目と三体目で合わせて6個の魔石についてはどうするか。
「半々で良い。数も丁度良い」
「はあ……まあ、そう言うとは思っていたわ」
そんな訳で3個ずつで分配し、魔石の回収は終わりだ。さて本来の目的を達成しに行くとするか……まあ、俺じゃなくてブラックリリーの転移頼りなんだけどな。
「それじゃ、行きましょ」
「ん。まずは魔力を渡す」
俺はブラックリリーの背中に両手を当てる。魔力の譲渡については、一応ラビからは聞いていた。他人の魔力を使う事自体は不可能ではなく、譲渡の仕方も思ったより簡単だった。
誰にでも出来る……らしい。取り敢えず、渡すには相手の身体の何処かに触れるしか無いんだよな。だからこうやって無難に背中を選んだわけだが。
「ひゃあ!?」
「ごめん、くすぐったかった?」
「い、いえ……ちょっと驚いただけよ」
「そう? 続けるね」
「ええ」
ハーフモードになった時の事を思い出す。
全身に駆け巡る魔力を感じ、それを今回は外へ出す感じだ。魔力装甲の方ではなく、内部。体内の魔力を腕を通して、目の前のブラックリリーへ送り込む。
「あっ……」
何か凄い色っぽい声出してないか、ブラックリリー!? 慌ててブラックリリーを見ると、顔が赤く、何処かぼうっとしている感じだった。
「うっ……何か、凄い、変な、感じがするわ」
「大丈夫?」
「ええ……な、何とか」
んーやっぱり、他人の魔力を受け取るとそうなるのだろうか。ラビの話では魔力自体は同じ物って言ってたし……取り敢えず、十分渡したと思うから一旦止める。
「あ……」
「これで大丈夫?」
「え、ええ……フル回復したわ。ありがとう」
少し時間がかかってしまったが、これでようやく移動ができるだろう。うーん……魔力譲渡よりやっぱり、魔石の方が良いかな? ちょっと辛そうではあったしな。
「まずは何処へ飛ぶの?」
「ん。取り敢えず県西か鹿行?」
「分かったわ。まずは鹿行にしましょ」
「ん」
何故最初がこの二つなのかは、特に理由はない。強いて言うなら県央とか、県北は多分優先順位が高い。だから魔法省の魔法少女が居るはず……と思いたい。勿論、後で俺たちも向かうけどな。
でも良く考えれば、県南も日本の首都とかに近いしこっちの優先度も高い気もする……でも魔法少女の姿はなかった。この地域で一体何が?
「行くわよ」
「ん」
今はそんな事考えてる時間はないな。
「テレポート!」
ブラックリリーに促されるまま、手を繋げば彼女はおもむろに魔法のキーワードを紡ぐ。すると、一瞬だけ視界がぐにゃりと歪むが、直ぐに元に戻る。
「ついたわ」
「これが転移……」
「ええ。私の得意な魔法よ。最も、魔力量の事もあるからそこまで好き放題移動できる訳じゃないけどね」
ショッピングモールではなく、全く別の景色に切り替わったことで、移動したっていうのを実感する。もうここは鹿行なのだろう。
「ここからじゃ、良く見えないわね……」
「ん。あの鉄塔が丁度良いかも」
「あ、確かに」
この位置では、あまり良く見えない。なので、俺はすぐ近くにあった高い鉄塔を指差し、上から見ようと提案する。あの高さならそこそこ先までは見えるはず。
「テレポート」
ブラックリリーが再び、転移の魔法を使用すると一瞬にして俺たちは鉄塔のてっぺんに移動する。
「そんな使って大丈夫?」
「この距離ならほぼ魔力は使わないわ」
「そっか」
「ええ。それよりも……」
「うん、分かってる」
鉄塔の上から見た先。
目視で視認が出来る大きな体躯の魔物……見た目は何か恐竜みたいな感じかな? 首が長い、クビナガリュウみたいな。言うて恐竜なんて図鑑とかでしか見たことないからはっきり分からないが、取り敢えず首が長い。
「こっちの魔物には一応、魔法少女が駆け付けてるわね」
「ん。でも少ない」
見える範囲では二人くらいしか居ない。魔物の脅威度は分からないが、苦戦しているようには見えない。良かった、一応魔法少女たちも居るってことに安心する。
だって、県南では影すら無かったんだぜ? そりゃ、心配になるだろ……もしかしたらやられていたかもしれないし。まだ分からないけど。
「どうする?」
「一応行ってみよう」
普通に対応できているなら俺たちは、次の地域へ向かうつもりだ。県南と鹿行で出現確認……やっぱり、各地域で魔物が出現しているのかもしれない。
取り敢えずまずはあの魔物に対応している魔法少女に近づく。
「ハイド」
「え?」
お、どうやら上手く行ったみたいだ。
ブラックリリーにもハイドの効果があったようで、俺と同じように空気に溶け込むように姿が消える。ただ、お互いも見えないみたいだからこれはちょっと、使い勝手難しいか?
「ん。お互いも見えないから手を繋ぐ」
「え? ええ。分かったわ。……こんな魔法も使えるのね」
この魔法は俺の常用している物の一つだしな。自分自身にしか使ったことないから分からなかったが、他人にもかけることが出来るみたいだ。
ただ消費する魔力も人数に比例しているようで、明らかに一人の時よりも消費が激しい。余裕はあるが、早めに済ませておこう。
そんなこんなで、ブラックリリーの手を掴み、見えない状態のまま俺たちは魔物の方角へと向かうのだった。
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