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第四章『星月の選択』

Act.10:星月と黒百合共闘戦線④

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「スターシュート!」

 ホーミング付きの星が放たれ、魔物へと飛んでいく。着弾すると、毎度おなじみの星のエフェクト付きで爆発を起こし、煙が晴れると、魔物の姿はもう無かった。

「流石ね……」
「ん。魔物が弱かっただけ」
「弱いと言っても今の魔物、Bだったと思うんだけど」
「そうだね」
「まあ良いわ……噂通りとんでもないわね」
「それ程でも」

 自分の魔法が強力過ぎることについては、俺も何回か思うことがあるがそれを考えた所で何かの答えが出るわけでもない。たまたまこの力を授かったと考えるしかない。

 さて、俺が今倒した魔物だが、県西地域に出現していた魔物だ。狼のような容姿をしていて、一体ではなく三体くらい居たかな。ただ、その魔物自体は見たことあるし、戦ったこともあるので別に苦戦するようなことはなかった。
 狼のような姿をしている魔物は脅威度Bで、大体出現する時は少なくとも三体は居る。すばしっこいという厄介な点もあるのだが、戦い慣れていれば普通に対処できるくらいだ。攻撃方法も単純なものが多いし。

 鹿行地域については、魔法少女たちが戦っていて苦戦しているようにも見えず、大丈夫だろうと判断して県西に移動した感じだ。で、移動した瞬間魔物に襲われたという事だ。

 鹿行地域も一通り、見回った感じではあの魔法少女が戦っている魔物以外は確認できなかったので、心配ないだろう。ただ移動する前に気休め程度だが回復魔法であるヒールライトを、戦っていた魔法少女にかけておいた。

 ヒールだと射程が短い。結構近くで使わないと効果がなく、もっと言えば触れて使うのが一番である。なので、今回使用したのはヒールライト。
 ヒールとほぼ同じ効果だが、違うのはその射程。ある程度離れていても有効な魔法で、言うなら遠距離型ヒール? と言っても、あまり離れ過ぎるとヒールと同じく効果がなくなる。

 取り敢えず鹿行地域は大丈夫と判断し、魔力譲渡を行い県西に飛んできたって感じだ。最初譲渡した時と同じく、妙に顔が赤くなっていたのだが、やはり魔石にするべきか。次は魔石にしてみるか……。

「こっちも片付いたわ」
「やるね」
「あなたほどではないけどね……」

 ブラックリリーは保有する魔力量が少ないらしく、あまり魔法を連発すると直ぐに魔力枯渇を起こしてしまうらしい。ただ魔力量が少なくても使える魔法が結構エグい……。
 見てただけだけど、まずテレポートは移動で見たと思うが一瞬で移動できる魔法。他にも空間を作り出し、それを自在に操れるっていうのも強い。

 対象を空間の箱に閉じ込めるって事も可能らしくてもしかして俺よりやばい魔法なのではと思ってしまった。中でも一番やばいのはやっぱり、空間ごと斬るあの魔法だろう。あれを食らったら一溜まりもないな。

 ただ、俺はまだ使ってない魔法が幾つかあるんだよな。
 正確には反転世界では練習の一環として使っているが……ほら、ブラックホールとかね。あれ、影響力がやばそうだから封印しているんだけど……もしかすると使うしかない時が来るかもしれないな。

 嫌な予感と同じでそんな感じがするだけなので、何とも言えないんだがな。

 でだ。県西地域に魔物は俺が今倒した三体とは別に、もう三体居たんだよね。そっちはブラックリリーに対応してもらってた。俺の魔力譲渡の影響もあるっぽくて、最初よりかなり良くなっていたと思う。

 それでも油断禁物だ。いくら脅威度が低めな魔物とは言え、油断したら取り返しがつかない事になりかねないだろう。魔力装甲がある分には、大丈夫だとは思うが……。

「片付いたわね」
「ん。でもまだ他の場所にいるかも知れない」
「確かにね。二手に分かれる?」
「それも良いかも」
「……」
「どうかした?」

 俺がブラックリリーの意見を肯定すると、何故かこちらをじっと見てくる。

「私が逃げる可能性とか考えないの?」
「なるほど。別に逃げても良い」
「え?」
「付き合わせてるのはわたしだから」

 確かに逃げる可能性もあるだろうけど、別に逃げても良いと思ってる。それに、今のこの状態は俺のほうが無理矢理? 付き合わせている感じだしな。
 時間はかかるが、自分の足であっちこち回るのも出来るしブラックリリーが付き合う必要は正直ない。それに共闘と言ったものの、その詳しい期間とかも決めてないしな。

「そう……これを機に私を捕まえるなりすれば良いのに」
「わたしは別に魔法省じゃないから。捕まえる義務もない」
「……」

 ちょっとホワイトリリーたちには悪いが、俺は彼女をとっ捕まえて魔法省に連れて行く気はない。明らかに悪意ある行動をしていたら別だが、彼女は違うしな。
 何を根拠に言ってるって? それは特にない。強いて言うなら俺が根拠。俺が大丈夫と判断しているから大丈夫って感じだな。一応、人を見る目は普通よりあると思ってる……。

 仮に本当に悪意のある行動をしているなら俺はそれまで。責任持って俺が彼女を捕まえるさ。今の所、彼女から悪意は感じてないし、ラビもそう言ってた。
 まあ、様子見という感じである。止める必要があったらちゃんと、止めるさ。

「はあ。最後まで付き合うわよ」
「本当?」
「ええ」
「ありがとう」
「っ!」

 多分上手く笑顔ができているはずだ。
 ラビにリュネール・エトワールの時だと表情がほとんどないと言われたけどな。まあ、自分では見れないので、何とも言えないのだが、おかしな反応は無さそうなので、一応出来てたかな?

「?」
「なんでもないわ」

 ただ、顔を赤くしてたような? 気の所為だったかな。

「取り敢えず、この地域をもう少し見るんでしょ?」
「ん。わたしは向こう、ブラックリリーはあっちを頼める?」
「ええ、任せときなさい」
「わたしが言うのもあれだけど……一応気をつけてね?」
「ええ」

 俺が言える側ではないのだが……取り敢えず、お互い気をつけるという事で俺たちは、一度二手に分かれるのだった。







「何なのよあの子本当に……」
「ふふ。ブラックリリー、顔赤くしてたね」
「してないわよ」
「そうかな? 今も赤いよ?」
「う」

 ええ、認めるわよ。
 多分今の私は顔が赤くなっている。理由はわからない……訳ではないけど、あの笑顔は反則よ。前に会った時とか、表情がわからない感じだったのに……。

「まあ、あの顔は反則だね。普段表情出さない子の笑顔は破壊力があるって聞くよ」
「何処の話よ……」
「え? この世界に良くある話じゃないか」
「……ライトノベルのこと言ってる?」
「ああ、そうだったね! そうそれ!」

 ライトノベルと現実を一緒にするのはどうかと思うけれど。というか、ララ……ライトノベルなんて知ってたのね。そっちに驚いたわ。
 私も少し読んだことあるけど、結構面白いわよね。色んな世界観があって色んなキャラが居て……魔法や剣もたくさん。魔法については現実に存在してるけど。

「はあ……」

 でも。
 あの子と居るのは別に悪い気はしない。敵であろう私のことを助けてくれたし、回復までしてくれた。魔石だって……何か思ったのと違ったなあ。

 県南に彼女が居て……そのそっくりな女の子とショッピングモールで会った。やっぱり、彼女はリュネール・エトワールなのかな?
 そうでなかったら、ちゃんと避難してるかな? 初めて会った子で、言葉数は少なかったけど普通に話せば話してくれるし……無事だと良いな。
 もし、リュネール・エトワールなら一緒に今居るわけだけど……そう言えば喋り方とか雰囲気も似てるわよね。

「……」
「どうしたんだい?」
「ええ。リュネール・エトワールについて考えたのよ。ショッピングモールで会ったあの子にやっぱりそっくりで」
「確かにね……雰囲気も喋り方も」

 ここまでそっくりな子が居るだろうか。
 でも、仮に彼女がリュネール・エトワールなら変身前とほぼ容姿が一緒って事になる。それはララの話からしても、異例な魔法少女だ。

「まあ、今は魔物じゃない?」
「そうね。今考えることではなかったわね」

 何はどうであれ、今は共闘関係なのだから。




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