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第四章『星月の選択』
Act.14:妖精書庫①
しおりを挟む「真白、大丈夫だった?」
「あ、お兄! 良かった、うん、私は大丈夫だったよ!」
茨城県全体において、発生した魔物の同時発生の異常事態。県北地域と県央地域では未だに魔物が、出現しているものの大分落ち着いてきているようで、現状では各地域に数名の魔法少女が待機・対応している状態となった。
県南地域や県西地域に魔法少女が居なかった理由は、県央と県北に於いて異常な数の魔物が発生していて対応が回らなかったということだった。魔法省は正式にその事を謝罪しているが、別にそれを非難する者は居なかった。
今回のこの発生の事件については、県庁も一緒に謝罪し、それの効果もあったのかも知れない。ともかく、荒れないで済んだのは良かったと思う。
最も、魔法少女という年端も行かない少女たちを戦わせているという自覚が、皆あるからっていうのもあるだろう。それに今回の大量発生については完全に想定外の事だった。
まあ、陰ながら非難している者もいるかも知れないが、公にそんな事をする者は居なかった。他にはやっぱり、大きな被害がなかったというのもあるだろう。
何軒かの家屋が壊れてしまったが、運が良いのか悪いのかほとんどが人が住んでいる建物ではなかったと言う。最も、人が居ないとは言え、倉庫とかだと中に入っていた物とかが壊れてしまっている可能性もあるが。
人的被害はなく、こんな突然の異常事態発生にも関わらず被害が少ないのは本当に幸いしたと思う。
壊された建物とかについては、県や国が支援してくれるのでそこは問題ないかも知れない。あとは、魔法少女の力で済むならそれで直すっていうのもある。
一応、回復系に特化した魔法少女も居るのだが、言葉通り回復に特化しているため、戦闘面ではあまり活躍できないというのものある。
因みに、こう言った回復系の魔法少女は大体が後方支援に回ったり、後は魔法少女の一編成の中に組み込まれたりする。
で、話を戻すのだがそんな経緯もあって俺はブラックリリーと一旦別れ、真白を探す……つもりだったのだが、家に戻ったら真白が居た。無事な姿で。
「良かった」
「心配してくれたの?」
「ん。……当たり前」
「そっかー……うん、ごめんね心配かけて」
そりゃあ、真白は唯一の家族だからな。心配するのは当然だ。それに、他にも色々と助けられてるしな……。今のこの身体とかね。
「でも、私からするとお兄の方が心配なんだよ」
「ん」
「そんな姿になっちゃって、魔物と戦って……今回は異常事態だし、お兄が戦ってるのを思うとね」
真白の言う事はご尤もだと思う。
真白からしたって俺は唯一の家族だし、それはお互い様だよな。しかも俺の場合は、今何故かこうなってしまってるし……魔法少女として戦う分にはあまり変わりがないから良いんだが。
「ごめん」
「お兄も無事で良かった」
「って、撫でないで……」
「えー、お兄可愛いんだもん!」
「もん、じゃない」
結局そう言っても真白が俺の頭を撫でるのをやめることはなく、しばらく撫で続けられたのだった。でも、別に嫌な感じではない。ちょっと恥ずかしいと思っただけだ。
「それにしても、何が起きたの?」
「分からない。各地域で魔物が大量出現したくらいしか言えること無い」
「まあ、そうだよねー。お兄も魔法少女だけど、魔法省じゃないもんね」
「ん」
少した所で、真白がそんな事を聞いてくるがぶっちゃけ俺にも分からない。ホワイトリリーかブルーサファイアに聞けば分かるだろうが、二人は今回の魔物の対応に追われてそうだし会えるかも分からん。
まあ、連絡先交換してるわけだし、それで聞けば良いのだがそれもそれで何だかな。因みに、連絡先を交換しているもののそこまで会話をしている訳ではない。
正直、あんなの無くても見回りとかしていると、割とよく遭遇するんだよな。多分、実際あって話している方が多い気がする。
まあ、それでも確実に会える訳じゃないけどな。CONNECTで話すのは時々といった感じ。それはブルーサファイアも同じで、そこまでガンガン、チャットしている訳じゃない。
多分、二人に聞けば詳しく教えてくれるかも知れないが……俺一応野良だしな。
「取り敢えず、この茨城地域全体に魔物が大量発生したって所だよね」
「うん」
そう。言ってしまえばもうそれだけである。
「年末ももう間近なのにね……」
本当にそれである。
後数日でもう年末の大晦日となり、それを過ぎれば新年となる。こんな時期に、魔物の大量発生なんて言う異常事態が発生しているのは幸先が悪い。
それに、未だに嫌な予感がしているのだ。
嫌な予感の原因は今回のこれかと思ったのだが、一向にこの予感が消えることはなく、むしろ強くなってきているとさえ思える。
これじゃないとすれば、一体何が起きるのか? それは分からない……だが、出来る限り何があっても良いようにしておく必要もあるだろうな。
「お兄、そんな悩んでどうしたの?」
「……未だに嫌な予感が消えない」
「そう言えば、お兄言ってたよね。嫌な予感がするって」
俺はその真白の言葉に頷く。
「あまり気にしないほうが良いと思うけど……お兄、考えすぎも良くないよ」
「ん。分かってる……でもどうしても消えなくて」
「お兄……」
これから何かが起きるというその不安もある。それもしかすると、世界を揺るがすような事だったら? 俺はそんなの立ち向かうことができるのだろうか。
「何、辛気臭い顔してるのよ」
「ラビ?」
「ええ。今戻ったわよ」
そんな事考えていれば、ラビがいつの間にか俺の右肩のぽつんと座っていた。
「あ、ラビ。お疲れ様……それでお兄の事って何か分かったの?」
「まだ全然よ……過去の事例を確認したりとかしていたんだけど、一致する現象は見つからなかったわ」
「過去の事例?」
「ええ。そう言えば、これについては言ってなかったわね」
「?」
ラビは何処から取り出したのか、一つの鍵のようなものを手に持っていた。金色の鍵で、何か妖精の羽みたいなデザインが付いてる感じで、キラキラしていた。
「何これ、キラキラ光ってる……鍵?」
真白がその鍵に近付いて、そんな事を言う。
あのキラキラしているのは……間違いない。魔力だ。つまりあの鍵には魔力があるという事だろうか?
「そのキラキラって魔力?」
「正解よ。これは妖精書庫に行ける魔法の鍵」
「妖精書庫……?」
「妖精書庫についてはまた後で。とにかく、ここに行って色々と探したんだけど……」
「やっぱり何も分からなかった?」
「全くという訳じゃないんだけれどね……」
そう言いつつ、ラビは鍵を空中に差すような動作を行う。何やってるんだと思ったが、ラビが手を離すと何とその鍵は空中に浮いたままだったのである。
「何を……」
「まあ、見てなさい」
空中に浮いた鍵は自動的にくるりと回転する。それと同時に、ドアの鍵を開けたときのようなガチャッという音が鳴り、眩い光を放つ。
一瞬にして、俺と真白、ラビは光に包まる。あまりにも眩しかったので、俺は咄嗟に目をつむる。
「もう大丈夫よ」
「え、何ここ!?」
ラビの声と、真白の驚いた声が聞こえ、瞑っていた目を開ける。すると、どうだろうか。
「え……」
天高くまで、重なる大きな本棚。
ガラス張りの天井。
ガラスから入り込む優しい光。
周囲を流れる、小さな小川。
いっぱいに広がる自然。
……まるで、幻想世界の中に入り込んだような光景が目の前には広がっていた。心なしか、空気も綺麗に感じる。一言で言い表すなら自然図書館だろうか。
何処から流れているのか湧き水のようなものが小川へと、たらたらと静かに落ちていく。
「ここは……」
大自然の中にある書庫? いやいや待て、こんな所聞いたことも見たこともないぞ。
「驚いたかしら?」
「凄い……けど、ここは一体」
「お兄、凄い凄い! この水とか本物だよ!」
向こうの方ではしゃぐ真白が見える。微笑ましくなるが、今はそれよりもこの場所のことだ。さっき、ラビが使ったあの鍵の影響か?
「ここは妖精世界のありとあらゆる記録が残された本が集まる場所……」
――妖精書庫、よ
ラビは静かにそう言うのだった。
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