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第四章『星月の選択』

Act.17:願いの木②

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「これね?」
「ん」

 桜の木が植えてある道を登り、俺たちはようやく高台にある一本木の元へ辿り着く。周りには落下防止のための鉄柵と、危険と書かれているプレートが設置されている。
 鉄柵の方の高さは、おおよそ1メートルちょい。柵を越えるには、若干よじ登る必要がある感じかな。まあ、こんな所でよじ登る人なんて居ないだろうが。

 真白に告白された時の光景とほぼ同じで、あまり変わってないんだなと思う。
 俺たちの間を吹き抜けていく風が、その先にある一本木の枝や葉っぱを揺らす。冬ということもあり、風は冷たくまともに当たるとぶるっと震える。

「懐かしいね、ここ」
「ん」

 いつの間にか直ぐ側にやってきていた真白が柵に手を載せ、高台から見える景色の方に目を向けながらそんな事を言ってくる。
 昔の事ではあるが、真白に告白されたと言うあの出来事は結構印象に残っている。予め真白に振って欲しいと言われてたから振ったのだが、あの事を思い出すとちょっと胸が痛い。

 実の妹で、叶わない恋だとしてもやはり好きになってくれた。こんなしがない兄である俺をな……それは嬉しくも思っていた。俺としても真白と一緒に遊んだ時は楽しかったと今でも思い出せる。
 この高台は町の中にあるから、ここから下を見れば住宅街が広がっていて、その先には海が見えている。天気は良好で、快晴とは言えないが、晴れと言えるだろう。

「少しだけ、町並みとか変わってるけどおおよそ昔と同じ感じだよね」
「うん」

 流石に全部は覚えてないが、景色自体何となくではあるものの変わってないと思える。細かく見れば至るところが変わっているだろうけど、そんな細かく見る事なんて無いし。

「ラビの方に戻ろっか」
「だね」

 俺がそんな言うと、真白も頷いてみせる。
 振り返れば、言い伝えのある一本木が見え、その根元付近にはラビが浮きながら色んな方向から見たり、手でペタペタと実際触ってみたりなどしていた。

 俺と真白がそんなラビの近くに来れば、ラビの唸り声が聞こえ、独り言なのか上手く聞き取れないが、何か喋っている感じだった。

 結構懸命に調べてるようで、声をかけるのは気が引けた。
 なので、俺たちは邪魔しないように、と少し後ろに下がり、ラビが調査する様子を静かに眺めた。この辺りは静かだからか、そうしていると遠くから風と共に流れてきているのか、車や電車の音が小さいながらも耳に入る。

「この木もあまり変わってないね」

 小さな声で、一本木を見上げながら真白が喋りだす。
 俺もそれにつられて、見上げると特にこれと言った特徴がない普通の木な感じだ。ただ、さっきから感じる魔力……間違いなくこの木から来ている感じだ。

 やっぱり普通の木ではないのかも知れない。

「――パッセ」

 そんな事話していると、ラビの方から一つの言葉を紡いたのが聞こえる。
 ラビの方を見ると、その言葉に反応するかのように、ラビの触れていた部分が光り出す。触れた部分から幹へ、枝へ、葉へと伝って行き、最終的には願いの木全体を光らせた。

 数秒程度光り続けた後、今度は逆の順番に全体、葉、枝、幹と順番に光が消えて行き、そしてラビが触れていた部分を残して光は消えたが、その部分も最終的には静かに消えていった。

 何をしたのか。
 いや、もう分かっている。ラビがさっきの言葉を紡いだ瞬間に周囲に魔力を感じた。木のものはなく、空気中のものでもない意図的に放出された魔力。
 つまり、ラビは魔法の言葉……妖精世界はどうかわからないが、俺たちで言う魔法のキーワード。魔法を発動させるためのキーワードを紡いだということだ。

 それが何を意味するのか。
 もう分かってると思うが、ラビは魔法を使ったのだ。ここまで一緒に居て一度もラビの魔法を見たことはなかったが、やはり妖精……魔法も使えるよな。

「なるほどね」

 一人頷くラビを見て、俺たちは近寄る。

 さっきラビ……いや、木が思いっきり光ったのを俺たちは目撃している。魔法を使ったのは確かだが、何の魔法かまではわからない。そもそもラビが魔法を使う所なんて見たことないしな。

「ラビ? 何か分かったの? 今光らなかった?」

 何をしたのか、と聞こうと思ったが真白が先に聞いてくれたので俺は口を閉じる。

「ええ。魔法で詳しく調べてみたのよ」
「魔法……」
「知っての通り、私は妖精世界の住人よ? 魔法は使えるわよ」
「ん。初めてみた」
「そう言えば司の前で使ったのは初めてね」
「ん」

 初めてではあるが、ラビは妖精。
 ラビが言った通り、魔法くらいは普通に使えるだろうとは思っていたが、実際見るのは初めてなので気になったのは仕方がない。

「それで、何か、分かったの?」
「ええ。まず、この木だけれど……間違いなく願いの木スエ・アルブルよ」
「!」
「しかもつい最近、発動した痕跡があるわ」
「え?」

 発動?
 それはつまり、願いの木が誰かの願いを叶えたということか? まあ、この場所は言い伝えもあってそこそこ? 有名な所だし、人が訪れるというのは普通に考えられる。
 真白のように告白するためにここに呼び出したりする人も居るだろうし……ただ今日は誰も居ない。居たら居たらで調べるのに時間かかっていただろうから、そこは良かったか。

 この高台はまず中央に一本木が生えており、それを中心に周りが円状に作られている。他にも一本木の下にはベンチが三つほど、景色が見える側を向いて設置されている。
 それ以外は特になし……まあ、良くある休憩所? まあ、屋根とかはないけど散歩ついでにこのベンチで休む人とかは居るだろうと思う。

「それっで誰かが願いを?」
「恐らくはね。その痕跡を辿った所、発動したのは二日前……12月の28日。つまり、司がその姿になった日と一致しているわ。しかも夜」
「え」
「それだと、この姿になりたいと願ったのはお兄自身?」
「知らない……わたしそんなの願った覚えない」

 27日が終わり、28日になった深夜……その時間帯に発動したとラビは言う。それはつまり俺の身体が一瞬だけ光ったという時間帯に近い?
 そうなると、俺がこの姿になりたいと願った? そんなはずない……それに家に居たんだぞ? 願いが叶えるのにはこの木の下で願う必要があるって言ってなかったか?

 俺がこの高台に来たのは5年前が最後。それ以降、来た覚えがない……それなのに何故?

「偶然一致しているだけの可能性もあるわ。でも確かに被っているのも確かね……」
「……」

 本当に偶然? だが、真面目な話、俺はこの高台に最近に来た覚えがない。さっきも言ったが、最後にここに来たのは5年前の真白の告白の時。

「でも、お兄は家に居たよね? ラビも見てるって言ってたし」
「ええ、そこなのよね。夜に司の身体が光った所まで目撃してるわ。でも、願いの木が原因ならいつ、司はここに来たって話になるわ。それに過去の記憶を覗いてみたけれど、この木の下に発動した時は誰も居なかったわ」
「そもそも、ラビは何を……?」

 それである。
 何らかの魔法を使ったのは分かる。恐らく、何かを探るためのラビが使う魔法なのだろうが、それの効果は聞いてない。今ラビは過去を覗いたと言っていたから、過去を見れる魔法? そんな物があるのか?

 でも良く考えたら世界を複製するっていう魔法を研究しているくらいだし過去を見るくらいは簡単なのかも知れない。

「この願いの木の過去を覗いたのよ」
「過去、を覗く?」
「ええ。さっき私が使った魔法は対象の過去の記憶を見る魔法。ま、要するに、過去が見れると言えば良いのかしら。限定的ではあるけれどね」
「過去を……?」
「そう。さっき私がやったのは願いの木の過去を見ていたのよ。それで発動したことが分かったって感じね」

 まじか。
 妖精世界半端ないな……聞けばこの魔法は遡るほど消費魔力が膨大になるという燃費の悪い魔法らしい。一日二日程度ならそこそこで済むが、一週間とかになると数倍くらいになるようだ。

「願いの木は間違いなく発動していたわ。そうなると、誰が願ったって話になるんだけれど。司は私の見える範囲に居たわけだし……真白は分からないけど」
「え? いやいや、流石に今のお兄は可愛いとは思ってるけど、私そんな願いしてないよ!?」
「うーん……取り敢えず、二日前に発動したっていうのが分かっただけでも良かったのかしらね。最も、これが司と関わりがあるかまではわからないけれど」

 謎が多いが……手がかりが全く無かったんだし、今回の外れだったとしても仕方がない。ラビも一生懸命探してくれてたみたいだし。

 本当に何が起きたんだろうか。




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