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第四章『星月の選択』

Act.16:願いの木①

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 翌日。俺たちは、ある場所へと向かっていた。

「ここだよね」
「ん」

 うろ覚えではあるものの、あったであろう近くにやって来れば町中にある高台を発見する。うん、昔見た時と少し変わってる気がするけど、見覚えのある場所だ。

 真白も見覚えがあるっぽいし、多分間違いないはず……。

 高台へ続く道の両端には、桜の木が植えられており、今は冬だから何も咲いていないが、春になれば綺麗な桜の木のトンネルが出来そうだ。さぞかし、凄いことだろう。

「この道も変わってないね」
「ん。わたしはあまり覚えてないけど……」
「えーお兄、酷い! 私が告白した場所なのに」
「一本木は覚えてる」
「ここも一緒に歩いたのになー」
「ごめん」

 ちょっと不満げな真白に俺は素直に謝ることにする。正直な所、一本木は存在感もあって結構印象的に残っているけど、この桜の木の道はあまり覚えてない。
 確かに桜のトンネルをくぐったような気はしてるのだが……まあ、結構前の話だしな。

「ふふ、冗談」

 俺が謝れば、いたずらっぽい笑顔を見せる真白。

「今は冬だから何も咲いてないけど、桜の木は残っててちょっと嬉しいかな」
「そっか」
「うん! ここで花見とかしたいね」
「ん」

 花見か。
 両親がまだ生きていた時は結構、花見とか色んな場所に行ってたけど、亡くなってからは何処にも行ってないな。真白は東京に行っちゃってるしな。

 最後に花見をしたのはいつ頃だろうか。
 まだ両親がいて、俺も真白も学生だった頃。俺の今の年齢は28歳で、高校も卒業し、専門学校にも行った。俺が行ってたのは主にゲームプログラマー関係の所だったのだが就職先はそれなりに大きな待遇の良いIT企業である。
 専門学校では結構頑張ったほうで、それのお陰もあるのか採用されたのである。専門学校に2年通い、21歳に就職、それから6年までは行かないけど、働いて宝くじを当てて辞めた感じだな。

 真白に告白されたのはそんな専門学校に通っている時期。専門学校ニ年生の頃、俺の年齢は20歳であり、当時の真白は15歳。見ての通り、真白とは5歳ほど離れている。
 真白はデザインの大学に進学するつもりであったが、両親の死などがあり色々とあったため高卒からすぐに大学に行けた訳ではなかった。
 今真白はそんな大学の三年目。来年には四年目……要するに最後の大学生活が始まる。そっか、もう真白も23歳か……でも真白はまだ誕生日が来てないから22歳か。

 大きくなったもんだ。

 って、そんな話をしてる場合ではなかった。
 この道は緩やかに坂となっていて、最後がちょっと急になる。それを超えるとようやく色んな言い伝えのある一本木の生えている場所にたどり着く。

「……感じるわ」
「ラビ?」

 勿論、当然ながらラビも居るが、一応見られないようにショルダーバッグの中に入ってもらっているが、今そんなラビはバッグの口から顔をちょこんと出していた。

「向こうの方から魔力を感じるのよ」
「この先?」

 この先と言えばもう、一本木しか無いはず。
 そうなると、ラビが感じると言った魔力はその木から? やっぱりあの木は、普通ではないという事だろうか。

「やっぱり何かあるって事だよね」
「多分」

 あくまで、感じると言ってるだけでそれがさっきの妖精書庫にあった願いの木であると言うことを決定付ける物ではないが、それでも魔力を感じるということは何かがあるという事。

 この世界全体に魔力が漂っているのは確かだが、それを感じられるのは魔法少女くらいだ。一般人は魔力を感じ取ることは出来ないが、魔力持っているという不思議な感じ。
 それもそのはずで、長い間漂っていた魔力は空気と一体化し、世界中に散らばっている。一般人にとっては空気と一緒で、何の疑問も持たずに体内に取り込んだり、体外に出したりしている。

 だから普通なら感じることは出来ない。
 だけど、魔法少女はそれらを感じることが出来る。自分の魔力は特に強く感じられ、今の自分の魔力残量はどのくらいかとか、何となくで分かってる子がほとんど。

 それは俺も同じで、自身に駆け巡っている魔力を強く感じれている。だからこそ、譲渡したり魔法を使ったり等色々出来るのだ。

 空気と一体化した魔力は何度も吸い込まれては吐かれてを繰り替えし、吸った者は徐々に魔力が蓄積されていく。それが続き、今ではほとんどの人が気付いていないものの、体内に魔力を宿している。

 それはつまり、魔力を欲する魔物の格好の餌。
 その魔力に惹かれ、魔物たちは人が多い所へ近付いてくる。魔力を吸収するため……普通の人より多くの魔力持つ魔法少女が良く狙われる要因でもある。
 最も、そんな魔物に対抗できるのが魔法少女なので、一般人を襲われるよりはマシなのかも知れない。年端も行かない女の子ではあるが、普通の人とは違う力があるから。

 かと言って、達観しているような人類ではない訳で。

 話が逸れたが、魔力を感じれるのは妖精であるラビもそうだ。というより、そもそも魔力というのはラビの暮らしていた妖精世界にあった物だ。
 妖精世界ではそういう魔法が当たり前のように使われていた訳だし、感じれないはずがない。

「……確かに何か感じる」
「え? お兄も? あ、お兄も魔法少女だもんね……変身しなくても感じれるの?」
「一応は」

 魔力を感じれる条件はあくまで魔法少女だけという事。変身が必須というわけではない。
 ただ、俺が魔法少女になる前はそんな物一切感じた事はなかったので、もしかすると一回変身するのが条件なのかも知れない。

 魔物と同じくらい謎の多い魔法少女だしな。

 ただ、前にラビが言った通り、魔法少女になる条件は魔力があるということ。しかし、それなら人間全員が魔法少女になれると言うことになってしまうが、実際その通りだ。
 中でも特に体内に強い魔力を持っていて、尚且つ自分の身に危険が迫ってきているような危機的状況下において、覚醒するパターンがほとんどの割合を占めている。

 他には突然覚醒したという例や、強い思いがあった時などに覚醒することもある。要は条件は一つではなく、それぞれという事だ。他には知人や友人が危険な状態の時に覚醒する子もいる。

 魔法少女が10代前半に多い理由は、ラビも分からず謎のまま。10代前半が多いと言うだけで、10代後半や、20代の人が覚醒したという例も少なからずある。
 ただ、その全てが女性であるという事。男の例は今の所確認されてないが、良く考えたら男が魔法少女になるという事例が公になると何言われるかわからないし、秘密にしている可能性もある。

 まあ、俺はそんな男で魔法少女になった例の一つだが。
 100歩いや、1000歩譲って魔法少女になるのは良いとしても、俺の年齢はもう30に近いおっさんだぞ。なのに、魔法少女って……これは良く考えると恥ずかしい以前の問題だよな。

「そうなんだ。私も感じれるのかな?」
「どうだろ?」
「うーん……一応真白からもそれなりの魔力は感じるけれどね」
「え、それって私も魔法少女になる可能性があるって事?」
「まあ、無いとは言い切れないわね。それに、司とは血の繋がった家族だし、なる可能性はあるわ」
「この歳で魔法少女ってちょっと恥ずかしいんだけど」
「そんな事言ったら司は28歳よ?」
「ラビ……」

 おいこら、ちょっとだけ気にしていることを言うんじゃない。 

「でも、今のお兄はこんな可愛らしい姿だけどね」
「そうねえ……」

 二人してじっと俺を見てくる。
 そんなジロジロ見ないで欲しい、恥ずかしいだろうが。何故かこんな姿になってるが、中身は男だっつーの!

「そう言えば、何でラビはその願いの木だっけ? それが原因かも知れないって思ったの?」
「まだ書庫全てを調べ切ってないからあれなんだけど、こんな現象妖精世界でもなかったし、こんな現象を起こせるのは願いの木しか思いつかなかったって所ね。未だに手掛かりは皆無だし」

 まだあの妖精書庫の全てを見た訳ではないとラビは言うが、あの量を短時間で見れる方が凄いと思う。ラビがどのくらい読んだかは分からないが……。

「大体、3分の1って所かしら」
「あの短時間でそんなに!?」

 ついつい、驚いてしまう。
 でもラビは妖精だし、あんな凄い書庫に入れるっていうのは何か普通とは違う気がする……いや、妖精って言うだけで普通じゃないけど、それは除くとする。

 今更だけど、ラビは妖精世界での自分の事をあまり話したこと無いよな。妖精世界で魔法実験があって、それが失敗して魔物が出るようになったというのは聞いたけど、それはあくまで妖精世界のこと。

 ラビは一体何者なのか、と思う事はあるが別に話したくないなら話さなくても良いとも思ってる。勿論、話してくれたら嬉しいけどね。


 いつか教えてくれるだろうか。




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