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第四章『星月の選択』
Act.20:災厄の大晦日②
しおりを挟むそれは大晦日のお昼頃、突然起こった。
「!?」
物凄く大きく、全体に響く警報……今まで聞いたものとはレベルが違っていた。明らかに普通ではない……俺は慌てて昨日から籠もっていた部屋を出て、下へと降りる。
「お兄、大変だよ!」
「このサイレン?」
「司、大変よ。魔物が出現したわ」
「?」
魔物が出現するのは別に珍しくない。だけど、真白とラビの表情は焦燥。
「脅威度Sの魔物が現れたわ。そして県央上空に待機していたクラゲの魔物も動き出した」
「!」
脅威度S。
SS程ではないものの、その魔物の強さは圧倒的。AAよりも遥かに強く、町一つくらいなら余裕で破壊できてしまうとされている。
最後に脅威度Sの魔物が現れたのはクラゲを除き、約3年前だ。それ以降、全く出現していなかった。そんな魔物が今、茨城地域に出現したってことだ。
「嫌な予感の正体はこれ、か……」
今回ははっきりと分かる。
今まで感じていた嫌な予感の正体……脅威度Sの魔物の出現だ。しかも二体……一体はずっと空中に居たクラゲだが、奴も行動を開始したらしい。
一体だけであれば、ホワイトリリーとAクラス魔法少女全員でなんとかなるかも知れないが、今回は二体。もしかしてクラゲの魔物はこれを待っていたのかも知れない。
手にあるデバイスを握る。脅威度Sの魔物か……俺でも対処できるだろうか。いや、するしか無いだろうな。むしろ、何もしないでいたら……。
「行くのね?」
「ん」
「お兄……無理しないでね」
「うん」
無理はしない……つもりだ。
ただ今回の魔物はSであるため、分からないっていうのが本当の所だ。今まで戦ってきたことがある魔物はAAまでで、大体が地上、一部が空を飛んだりする魔物だ。
クラゲの方は知っての通り、空を飛ぶ能力を持っているのが分かる。もう片方はまだ分からないが、Sである以上居威力魔物であるはず。
デバイスを握り、いつもの変身を済まし真白に見送られながら外へと飛び出す。勿論、ハイドの魔法も忘れずに使っている。
しばらく離れた所で、ハイドを解除し屋根の上へ。戦闘時以外はなるべく、誰にも見られないようにはしているものの目立った服装でもあるし、一目見れば分かる人も多いだろうな。
「ラビ、昨日はごめん」
「気にしてないわよ。それよりも、司は大丈夫なの?」
ラビの問いかけに「大丈夫」と答えたかったが口が開くことはなく、言葉をつまらせる。
「……」
大丈夫とはまあ言えないよね。
まだ頭の中とかごちゃごちゃしているし、気持ちの整理だって出来てない。認める俺も居るし、認めない俺も居てもうめちゃくちゃだよ!
「司?」
「魔物」
視界に先に見えるのは、大きな巨体の魔物。大昔の恐竜で、最強ともされていたティラノサウルスのような見た目をしている魔物だ。
奴が一歩進むたびに、辺りが激しく揺れ木が倒れたり、交通標識が斜めになったりなど起こる。進んでいる方向は水戸駅方面か。このまま行かせると不味いな。
「気をつけて。あれがSの魔物よ」
「そっか……」
クラゲが動き出したのと同時に現れたもう片方の脅威度Sの魔物。新種だろうか? そもそもSの魔物自体そこまでいっぱい出現した訳ではないからデータも不十分。
クラゲの魔物だって新種っぽいから魔法省の感知システムでは、確実な事は測れない。ラビのものだって推定脅威度ってそのままの意味で完全なものではない。
「他の魔法少女は?」
「居ないわね……ただクラゲの方にはかなりの反応があるの感じれるわ」
「向こうか……」
クラゲが居るのは県央、そして水戸駅の上空。あそこは人がいっぱい居る場所だ。そんな所にあのクラゲの魔物が居るのだから。優先度は恐らく向こうの方が上。
茨城地域の魔法少女は30人で、Sクラス魔法少女はホワイトリリーのみ。Aクラス魔法少女が9人、他20名はB以下となっている。
要するに脅威度Sに対応できる魔法少女が居ない。ホワイトリリー一人しかSクラス魔法少女は居らず、どう考えても人手不足である。
ホワイトリリーを筆頭にAクラス魔法少女9名を総動員、他20名の魔法少女も後方支援や支援を行っていると思われる。これで対応出来るかは分からないけど、するしかないだろう。
ならば俺は、もう片方のこっちを対応しようじゃないか。
脅威度Sの魔物にどれだけ通用するかはわからないが、やれれるだけはやろう。
「まずは……スターシュート!」
手始めにおなじみの星を飛ばす魔法を使用。まず、あいつの注意をこちらに引きつけるのが先だ。そうしないと、どんどん人が住んでいる区画まで行ってしまう。
この辺りも十分家とかあるけど、幸いな事にあの特殊なサイレンのお陰か、下を見る限りでは一般人の姿は見えない。
ステッキから放たれた星は魔物に普通に直撃。そして爆発を起こす。しかし、予想通りティラノサウルスのような魔物には傷一つついてない。
でも、俺の攻撃に気付いたのかこっちをギロリを見てくる魔物。そして進行方向を変え、俺の方へ向かってくる。どうやら上手く注意は引けたようだ。
まあ、俺の魔力に惹かれた可能性も高いだろうが。
「っ!」
そんな魔物は一度足を止め、何のスパンもなく、俺に向けて炎のブレスを放ってきた。少しだけかすったが、何とか回避出来たが、まさかいきなり撃てるとは。
「大丈夫?」
「ん」
身体の方は魔力装甲があるので、何とも無い。ただ、かすったので少しは削れてるかも知れない。
「メテオショット!」
スターシュートは全く効いてなかったのはもう目に見えてわかるので、違うものを試す。またブレスを撃たれても困るし。
ステッキからは星ではなく隕石が飛び出す。これは俺が使える広範囲魔法のメテオスターフォールを元に考えた魔法で、空から無数の隕石を降らすのではなく、ステッキからスターシュートのように単発で飛ばせる魔法。
威力自体はメテオスターフォールの一発と同じくらいだと思うけど、そこは分からない。実践ではまだ使ってなかったからね……。
ステッキから飛んでいった隕石は、まっすぐ迷いなくティラノサウルスへ向かっていく。そして着弾し、スターシュートよりもちょっと派手な爆発を起こす。
「#”!$$#」
煙が晴れると、ちょっとだけ魔物に傷を付けられたようだ。魔物特有の言葉とは思えない叫びが響く。
「少しは、効いている、か」
大したダメージは与えられていないけど、攻撃自体は効いたっぽいかな?
「また!?」
再び、ブレスを放ってくるティラノサウルスもどき。
慌てて回避するも、また微妙にかすってしまうが、特に影響はない。ただ違うのはさっきのブレスが炎だったのに対し、今度は水……あいつ、複数のブレスを撃てるのか?
俺が回避したのを見てご機嫌斜めなのか、魔物は地団駄を踏む。それにより、周囲がまた激しく振動し、地面を抉ったり木が斜めになったり倒れたり、近くの建物のガラスが割れたりする。
たったそれだけで、様々な被害が出る。流石は脅威度Sの魔物と言うべきか……今までの魔物でも、若干の被害は出ていたけど、ここまでではなかった。
今更ながら思う。
こういう魔物を率先して倒しているのが魔法少女……弱い魔物はともかく、強い魔物相手では命を落とす可能性もあるだろう。まあ、弱い魔物でも油断したらやられるだろうが。
「スターライトキャノン!!」
今度はステッキからビームを放つ。毎回思うけど、この魔法は何処が星とか月なのだろうか? ビーム自体は光や電子とかの粒子が一定方向に流れるという物だから、光に当て嵌まるのかな? 自ら光を放つ恒星っていうのがあるしな。
そんな事は今はどうでも良いか。
ビームがティラノサウルスもどきにヒットし、爆発を起こす。おなじみの星とかのエフェクト付きであるが、もう気にしないことにしてる。
「####!」
さっきよりもダメージは大きそうだ。このまま、威力を上げていくのが良さそうだな。俺は怒りを顕にしている、魔物を見ながらステッキを構えるのだった。
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