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第四章『星月の選択』

Act.21:災厄の大晦日③

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 ――県央、水戸市。

「クラゲの魔物が動き出しましたか」

 緊急避難警報が鳴り響く中、私は空を見上げてそう呟きました。
 魔物出現の警報には三つあります。一つは避難警報……魔物が出たら鳴る普通の警報ですね。これはどんな魔物が出現しても鳴ります。
 これが鳴った場合は、近くのスタッフさんたちが避難指示を行います。可能であれば、近くに居る魔法少女も引率するようにとなってますが、それについては出現した魔物にもよりますけどね。

 二つ目が緊急避難警報です。
 これが今鳴っている警報です。これが鳴った場合、直ちに避難して下さいというものです。近くにスタッフさんとかが居なくても、自宅に居ても各自その場から逃げろ、と言う事です。
 脅威度Sの魔物が出現した場合に鳴るもので、この地域では観測されていませんので一度も鳴ってませんね。ですが、今回初めて脅威度Sの魔物を観測しました。

 一般人もそうですが、魔法省内もかなり慌ただしくなっているようです。私も結構焦っていますけどね。

 最後に三つ目ですが、それは緊急圏外避難警報です。
 名前の通り、直ちに現圏内より避難してくださいの意味を持ちます。要するに茨城地域より避難しろ、って事です。これはまだ過去に一度も鳴っていませんが、それもそのはずです。
 この警報が鳴った時、それは脅威度SSの魔物が地域内に出現したって事ですからね。

 脅威度SS……現状、一番災厄の魔物とされている物に分類されます。記録では、今から15年前の魔物出現の日に出たとされていて、それ以降現在まで観測はされていません。
 当初は一つの国が半壊してしまったと記録されています。そんな魔物が出たらもう、今居る地域全体が危険です。なので、圏外への避難となっている感じですね。

 鳴ったこと無いので、あれですけど。

「……」

 今回はそんなSSの魔物ではないですが、それでも一つ下のSの魔物です。どれだけ強いのかは分かりませんが、相手するのは結構大変でしょうね。

「雪菜……」
「冬菜ですか」

 玄関から外へ出ようとした所で、後ろから見知った声が聞こえ振り向きます。そこに居たのは、不安そうな顔をしてこちらを見てくる私の双子の妹、冬菜でした。

「雪菜……行くの?」
「はい、それが仕事ですからね。冬菜も早く避難して下さい」

 この家からはまだ距離がありますが、あの魔物は空を飛べます。クラゲのような見た目をしていて、多くの触手を持ってます。上空にずっと待機していたようですが、今回動き出したみたいですね。
 ただ、今の所被害は出ていませんがそのうち出てきてしまうでしょう。何せ、今回のは3年前以来姿を見せてなかった脅威度Sの魔物ですからね。

「でも、今回の魔物はSの魔物なんだよね? 大丈夫なの?」
「……正直、分かりません」
「……」

 魔法省の感知システムは過去のデータを参照します。過去にデータがない場合はそれに近い物を検索し、様々なパターンをコンピューターが分析して脅威度を割り出します。
 精度は既出の魔物であれば強いのですが、新しい物であると少し信頼性に欠けます。今回はSの魔物であり、一致するデータは存在してません。要するに新しい物に当たります。

 こうなると、Aと出たとしても、実際戦うとSだったり逆にBだったりと、振れることも多々あります。

 実際戦ってあのクラゲの魔物は予想通りのSなのか、それともAなのか……後者ならラッキーですけど、そんな都合良い話なんてありませんよね。
 あまり考えたくないのが、上振れした場合です。今回はSですので、上振れするとSS……15年前以降出現したことのない災厄の魔物と同等となります。

「行ってきますね。お母さんにも宜しくおねがいします」
「……分かった。絶対帰ってきてね?」
「はい」

 確約はできません。
 本来ならSの魔物はSクラス魔法少女複数で対応する魔物なのですから。茨城地域に居るSクラスは私しか居ません……正確には野良ではありますが、リュネール・エトワールが同クラスとされているくらいですかね。

 リュネール・エトワール。
 いえ、司さん。私の好きな人ですが、まだ告白とかはしてません。蒼ちゃんというライバルも居ますが、選ぶのは司さんです。誰が選ばれても恨みっこなしと約束もしてますしね。

 そう言えば最近全然会えてませんね。
 それは蒼ちゃんもそうですけど、異常事態とか魔物の数が増えている為、その対応に追われているのが原因ですけどね。一応、連絡先は交換してますし、CONNECTで話したりは出来るでしょうけど、直接会いたいのが本音です。

「今回会えるでしょうかね?」

 いえ、今なこんな事思ってる場合ではないですね。

「――ラ・リス・ブロンシュ・フルール!」

 私の変身デバイス……ペンダントのような感じですが、それに軽く触れキーワードを紡ぎます。

「魔法少女ホワイトリリー……行きます」

 一瞬の浮遊感と真っ白に染まる視界。全てが終わると、私は魔法少女のホワイトリリーとなりました。そして連絡端末を取り、茜さんと連絡を取るのでした。



□□□□□□□□□□



「ママ……行ってくるね」
「蒼」

 緊急避難警報。
 それは脅威度Sの魔物が出現した時に鳴る警報。そんな警報が鳴り響く中、家を出ようとした所でママに呼び止められる。

「どうしたの?」
「蒼が何をしているか、分かっているけど……でも今回の魔物はSなのよね?」
「うん。だからママは早く避難してね、パパと一緒に」

 そう今回の魔物は3年前に出現したっきりの、脅威度Sの魔物だ。AAよりも強く、町一つを簡単に破壊できるとされている魔物。この上にSSっていうのが居るけど、そっちは15年前の魔物出現の日以降観測はされてない。

 県央上空に停滞していたクラゲの魔物。あれが動き出したと連絡もあった。あの魔物は、魔法省のシステムで脅威度Sと判定。ただし、新種であるため上下に振れる可能性があるけどね。
 普通ならSの魔物はSクラス魔法少女複数で対応するんだけど、茨城地域に居るSクラス魔法少女はホワイトリリー……白百合先輩のみ。戦力的にももしかすると、少しきついかも知れないけど私でも力になれるなら……。

 多分、ホワイトリリーを筆頭にAクラス魔法少女全員が出撃すると思う。それでも対応できるかは分からないらしいけど、それでもやらなければ決して小さくない被害を受ける。

「引き止めた所で蒼は行くわよね。だから……絶対に帰ってきなさい」
「ママ……うん、頑張るね」

 私はBクラス魔法少女で、そこまでの戦力はない。魔力は同クラスの中では多い方だけど、多いだけじゃどうしようもない。Aクラス魔法少女は出ると思うけど、Bクラスはどうなんだろう?

 後方支援とかになるかな。それでも、力になれるなら……頑張りたいと思ってる。ただ今回は相手が相手なだけで、駆り出される可能性もあるから確約が出来ない。

 まだ完全にSと断定された訳じゃないけど、そういう判定が出たということは強いってこと何だと思う。一番良いのはAAとかAだったら、何だけど、流石にそれはないよね。

 まあ、AAでもAでも私一人では対処できないと思うけど。

 もしかしたら死ぬかも知れない……まあ、覚悟は出来てる。
 それに私よりもホワイトリリーやホワイトパール、ブラックパールたちAクラス魔法少女の方が命の危険が多い。誰一人欠けてほしくないって思ってる。皆優しいし、面白い人たちだから。

 勿論、B以下の魔法少女たちもそうだ。

「はあ」

 らしくないなあ、私。何か弱気になっちゃってる。

「そう言えば司とも会えて無いなあ」

 野良の魔法少女で、かなり強い。それこそホワイトリリーに匹敵するかそれ以上かの子だ。そして、私の好きな人でもある。実際にデート……何か恥ずかしいな。一緒に出かけたこともある。

 魔物の対応で会えてないから、正直寂しいと思ってる。
 連絡先は知ってるから、CONNECTで話すことは出来るかも知れないけど、やっぱり直接会いたいよね。今までだって直接会って方が多いし。

「今回は会えるかな?」

 そんな事を今考えるべきではないのは分かっているけど。彼女は私たちと違って野良だから、出てこない可能性もあるしね。

「よし!」

 両手で自分の頬を軽くぱちんと叩いて、気持ちを切り替える。これから戦場に向うのだから、余計なことは考えるべきじゃない。後方支援だって怠れば前線に影響を出しちゃうしね。

 気持ちを入れ替え、サファイア色の宝石が嵌まっている指輪に手を触れ、一つの言葉を紡ぐ。

「――ラ・サフィール・エタンスラント!」

 指輪が眩しく光り出し、浮遊感に襲われる。視界は真っ白に染まり、体中に魔力が流れて行くのを感じる。しばらくそんな状態が続き、光が収まれば私の変身な完了する。

「魔法少女ブルーサファイア。行きます」

 魔法少女の衣装を身に纏った所で、私は魔物がいる場所へと向かうのだった。



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